現在の脆弱な景気の状況で、非伝統的手段の解除や利上げといった「出口戦略」を探るのはなかなか難しい。「出口戦略」は後手にまわるものなのだ。だから、いつも相場が「バブル」になってしまうのである。

興味深い記事が6月17日のブルームバーグニュースに載っていた。「米国民が自動車業界を立て直すオバマ大統領の措置や連邦政府の赤字拡大に不安を持っている」「ウォールストリート・ジャーナル紙とNBC放送の共同調査によると、オバマ大統領の支持率は56%と4月から5ポイント低下した」との報道だ。また「回答者の58%が、大統領と議会は財政赤字の縮小に焦点を絞るべきだとの考えを示した」という。この世論調査が示唆するところは、今後景気が悪くなっても追加の景気対策を行うことは困難だということである。

現在の景気回復期待やバブル相場は、各国政府が行っている「ジャブジャブ」の資金供給や財政出動が支えており、経済指標の回復も需要の先食いによって成り立っているのである。各国の政府が現在の危機回避のための景気てこ入れ策をやめれば景気不安は再燃するだろう。

「連邦政府による大規模な経済介入に米国人のほぼ10人に7人が不満を表明している」(ブルームバーグ)ということは、人々の関心が財政赤字に移ってきているということだ。追加景気対策がやりにくい以上、中央銀行は現在の非伝統的金融政策や低金利政策を簡単にやめるわけにはいかないと思われる。上記の見方に反して、今後、「出口政策」なるものが早期に実行されれば、筆者はバブルしている商品群を「売り」にいきたい。

バブルを放置しておくとインフレが到来することは、中央銀行は百も承知である。6月13日のG8での「出口戦略の検討」とは、中央銀行の本業であるインフレ抑制の見地から「これ以上(追加)の量的緩和策や景気対策はもうやめよう」という話であり、世界景気が回復したので、現行の量的緩和策や低金利政策を解除しようということではないと思われる。

米国は今年3月17・18日のFOMCで、向こう6ヶ月にわたり最大3000億ドルの長期国債を買い入れることを決定した。これが「バブル相場の号砲」となり、現在までバブル相場が展開されている。問題は、現行の米国債買い入れ枠を8月までには使い切ってしまうことだ。したがって、現在のバブル相場がどこまで延長するかは、FOMCが米国債の買い入れの増額や期間の延長を行うか否かにかかっている。8月までのFOMCはバブル相場の行方を決める重要なイベントとなろう。来週6月23日・24日と8月11日に開催されるFOMCが発するメッセージに注目したい。

外為市場では原油や資源価格の高騰から、ロシア勢の大口売買が目立っている。このところ頻繁にユーロ/ポンドやポンド/ドル、ポンド/円などの相場で名前が聞こえてくるが、ポンド相場はトレンドーフォローが機能しにくい。ここ数日ポンド/円の相場は無秩序に近いランダム相場となっている。

現在のドル/円相場はトレンドが発生していない。標準偏差ボラティリティの推移をみると相場は調整中である。現在の相場判断としては「売り」でも「買い」でもない「ニュートラル」の状況にある。

ドル/円(日足) 標準偏差ボラティリティ(青)とADX(緑)の推移
トレンドの発生(黄○)とそのピークアウト(赤○)
<標準偏差ボラティリティやADXが低い位置から同時に上昇する局面が「大きな収益機会」と
 なりやすい>


(出所:石原順、ブルームバーグ)

3月以降の強気のバブル相場が現在も継続中であれば、相場の調整は2週間程度(6月いっぱい)で終了し、その後はもう一段の上げに転じるだろう。いずれにせよ、現在は次のトレンド待ちの状況である。

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年6月18日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)