今週のマーケットは週初こそ円高で推移したが、28日の午後から現在に至るまで円安基調が継続している。筆者はもうしばらく円高傾向が続くと考えていたので意外感をぬぐえないが、今回のドル/円の相場の下落幅は「5円82銭」となっており、平時のドル/円の調整幅の目安である「下げの一波動5円から7円」を満たしている。

ドル/円(日足)調整局面の変動幅

ドル/円(日足)調整局面の変動幅
(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円をみると、すでに今回の下げ幅の61.8%以上の戻り相場となっていることから、すでに調整相場(修正波)は完了して上げ相場に入っている可能性も否定できない。

豪ドル/円(日足) 最強通貨か・・?

豪ドル/円(日足) 最強通貨か・・?
(出所:石原順、ブルームバーグ)

一方で相場の変動率をみると、ドル/円も米国株のS$P500インデックスも変動率(26日標準偏差ボラティリティ)の低下傾向に変化はなく、相場に明確な方向性は出ていない。レンジ圏で相場の調整が続いているのか、もう新たな上げ相場に入っているのか不透明だ。

ドル/円(日足) 変動率(26日標準偏差ボラティリティ)

ドル/円(日足) 変動率(26日標準偏差ボラティリティ)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

S$P500インデックス(日足) 変動率(26日標準偏差ボラティリティ)

S$P500インデックス(日足) 変動率(26日標準偏差ボラティリティ)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

「はっきりいって目先の相場展開については、筆者はよくわからない」と2週間前のレポートで述べたが、いまだに筆者は相場の方向感を持てないでいる。ただし、相場の調整局面が終わったか否かについて思案しているだけで、これまで述べてきたように4-6月期は基本的に株高・円安の方向という相場観は現時点で変更していない。米国株のS$P500インデックスで38.2%戻しの960近辺まで米国株は上昇するのではないかと見ている。

筆者の周辺のファンド勢は株式市場に対して強気の声が多く、株価連動のクロス円に関しても押し目買いのスタンスを取っているところが多い。あるファンドのディレクターは「クライスラーの破綻、GMの問題、ストレステストの問題はすでに株価に織り込まれた」と話していたが、クライスラーが破産法適用申請をしても恐怖指数が上昇しないようでは織り込み済みの見方が正しいのかもしれない。

CBOE VIX恐怖指数(日足)

CBOE VIX恐怖指数(日足
(出所:石原順、ブルームバーグ)

2009年のこれまでの相場は、経済のファンダメンタルズや個別の材料を重視しても相場の収益につながりにくい。また、チャートポイントなども順張りが機能しにくい展開となっている。短期のシステムトレードの運用者からは日中の取引の相場の振れが大きくて、ストップ・ロス注文がかならずヒットしてしまうというボヤキが多く聞かれる。すなわち、今年のこれまでの相場は「逆張り」が機能している相場で、トレンドフォローの売買手法はあまりうまくいっていないのである。

現在、うまくいっているのは相場の変動率の低下に着目したボラティリティを売る取引者で、ドル/円で具体的に言うと、シカゴの通貨先物市場で円の6月限のコ-ルとプットのオプションを両方売って、相場が95円~108円のレンジに入っていれば儲かるポジションを作ったファンド勢である。ただし、かれらはこの1~2週間以内にそのポジションをすべて手仕舞うようだ。5月~7月にかけてはボラティリティの上昇を予想している。今後はオプションの買いに転じるだろう。

目先の相場の方向性がはっきりしないときは、長期のポジションは持ちにくい。また目先は急激な円安となったため、円売りとなると値頃感での売買もやりにくい。ここは短期売買でしのぐしかないだろう。先に2009年相場の「時間帯による円高/円安のバイアス」について紹介しているが、円安傾向になるとこの取引手法はうまくワークする。

日本時間の 9:00~10:00、21:00~0:00 が円安になりやすい時間帯である。この時間帯の前の円高時に円売りを仕掛け(新規に円売り)、円安になりやすい時間帯に手仕舞う(決済する)というのがこの売買手法の要諦だ。また、日本時間の相場で仲値が円安になると、その後円高に振れてもNY時間でもう一度円安になるのが直近の傾向である。

ドル/円(10分足)4月28日~4月30日の相場推移
□の枠は円安になりやすい時間帯

ドル/円(10分足)4月28日~4月30日の相場推移
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(10分足)4月28日~4月30日の相場推移
(出所:石原順、ブルームバーグ)

相場に絶対の法則などない。筆者はできるだけ確率のよいところで相場に参入したいと考えて、上記のような売買手法をおこなっているのである。

日本はこれから長期休暇のシーズンとなるが、外為市場は休んでくれない。今朝の報道では、FRBは米金融機関のストレステストの結果を延期するようである。クライスラーの予定調和的な計画的破綻に続いて、「ストレステストも増資とセットで発表されるので悪材料は出尽くした」との楽観論も聞かれる。しかし、相場は何が起こるかわからないので、ストップ・ロス注文だけは置いておきたい。

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年4月30日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

(ATRやボリンジャーバンドの売買手法については、過去のレポートをご覧ください)

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)