信用収縮を止めるために米連邦準備制度理事会(FRB)は金融機関や消費者クレジット市場をジャブジャブにする(マネーを供給する)戦略を推し進めている。信用収縮の最中、マネーの回転率が落ちており、実体経済には明るさがなかなか見えてこないが、「マネーの供給量の拡大=量的緩和政策」はタイムラグを経て実体経済にも波及してくるだろう。

FRBは昨日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、「民間信用市場の状況改善を支援するため、今後6カ月で期間の長い米国債を最大3000億ドル買い取る」と決定した。また、ターム物資産担保証券ローンファシリティー(TARF)の受け入れ担保に「他の金融資産」を追加する方向で検討する方針も打ち出している。現在、「現金のバブル」を崩壊させるために外堀を埋めている段階である。

FRBの長期国債買い入れが促すのは「株高・債券高・ドル安」である。昨日のNY市場ではFRBの長期国債買い入れ決定で、米10年国債利回りの利回りが0.5%も急低下し(一日の下げ幅としては1962年以来最大)、この金利低下を受けて米国株は急騰し、ドルは急落した。

量的緩和政策は簡単に言うと「現金を持っている人が損をするようにする」政策である。米国の量的緩和策はドルの使用価値を下げるため、(タイムラグを考慮しながら)投資家は今後のインフレ対応を考えておく必要があろう。このところ続いてきたドル高基調が転換する可能性があるため注意したい。

NYダウ、ドルインデックス、ユーロ/円、豪ドル/円(日足)の推移


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ヘッジファンドの買い戻しと金融機関によるドルの流動性確保で上昇してきたドルも、このところは信用収縮の緩和によるドル高警戒やドル買いポジションの積み上がりを解消する動きからドル安基調に転換している。

ドル買いポジションの解消を加速させているのがユーロの動きである。ユーロ売りポジションのショートカバー(買い戻し)でユーロは昨年末以来の仕手相場の様相を呈している。介入を行っているスイスフランや、すでに量的緩和に入っているポンドの予想はドルとの相対評価が難しい。金利にタカ派の姿勢(ゼロ金利を否定)をとっているユーロが相対的に相場の主役となってくる。ドルがどこまで戻るかは、ユーロ/ドルの売り買いの需給次第であろう。ドルの代替通貨ではなくなったと言われているが、ユーロの動向に注目したい。

米10年国債利回り、ユーロ/ドル、ドル/円、ユーロ/スイス(日足)の推移


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドルインデックス、ユーロ/円、ユーロ/ドルの支持線・抵抗線
市場参加者の1~3カ月のコスト(移動平均リボン=赤)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ここからの外為市場の動向はNYダウと米国金利のウエイトが高くなるだろう。現在の信用収縮=株安の緩和状況がどこまで続くかは、「PERからみた株の割高感」のせいで見方が割れている。現在のドル安が単なる修正安なのか、潮目が変わって大きな方向性をもった動きなのか、ここから数週間の相場は要注目となる。

円とドルが両方とも安くなったことで、2月から3月のクロス円相場は堅調な円安相場となった。クロス円相場の円安持続性は株式市場次第だ。株の上昇=リスク許容度の回復はクロス円相場の下値硬直性を促すだろう。現在のようにATR(相場の一日の変動幅の20日移動平均線)が低下中(緑色の部分)は、円安基調が持続する確率が高い。変動率が低下するなかじりじり上がっていく相場はまさにトレンド(方向性をもった相場が続くこと)だが、直近のドル/ 円相場のように変動率が上がってくると(黄色の部分)突発的な円高に注意が必要となる。現在のクロス/円相場はユーロ/円が主役だが、筆者がみるこころでは豪ドル/円相場の方が長期間にわたってトレンド(方向性)に安定感がある。

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年3月18日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。筆者はデイトレードおよびスウィングトレードでも緑の期間は円売り、黄色の期間は円買いを中心にしている。相場の循環からみると、当面は円高バイアスがかかり続けるので過信は禁物である。また、過去にはATR上昇で円安、ATR下落で円高となった局面も多いので注意されたい。

(また、ATRやボリンジャーバンドの売買手法については、過去のレポートをご覧ください)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)