バイロン・ウィーン氏は2022年をどう読む?

 今回のコラムでは、経済・金融の「世界10大予想」をご紹介します。前回は、政治リスクや地政学リスクの分析を専門とするユーラシア・グループによる「世界10大リスク」のお話をしましたが、経済・金融の専門家による「世界10大予想」はどのような予想になるのでしょうか。

 年末年初になると、エコノミストや銀行・証券会社から経済や金融の予想が出てきますが、毎年、このコラムでご紹介しているのは、ウォール街のご意見番、米投資会社ブラックストーン・グループのバイロン・ウィーン氏による「サプライズ10大予想」です(最高投資ストラテジストのジョー・ザイドル氏との共同執筆)。

 この予想は今年で1986年以来37回目となる年始恒例の予想で、ウォール街で広く注目されています。同氏は「サプライズ」の定義を、「平均的な投資家が発生確率を1/3程度とみているイベントを、自分は50%以上で起こると信じている出来事」と説明しています。

 昨年の同氏の主な予想は以下の通りでした。

  • 米経済は6%成長、失業率は5%に低下
  • 米株は年前半に20%下落後、S&P500は4,500に上昇
  • 米10年債利回りは2%に上昇、ドル安反転、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油は65ドルに上昇

 米国の2021年GDP(国内総生産)はIMF(国際通貨基金)の見通し(10月)によると6.0%とウィーン氏の予想通りでした。また、2021年12月の失業率は3.9%だったため、予想より低下しましたが、「低下」は当たっていました。 

 S&P500は、昨年は3,700台からほぼ調整なしに上昇し、8月下旬には4,500を突破し、年末は前年比27%高の4,700台の水準で取引を終えています。株の20%調整はありませんでしたが、その後の上昇は当たっていました。

 そして、昨年末の米10年債利回りは1.51%でしたので、予想の2%にはいたりませんでした。ドルは前年のドル安から反転し、予想通りでしたが、WTIは予想以上に上昇し、80ドルを超えました。

 新型コロナウイルスについての予想は、「ワクチンが寄与し、米国は5月31日のメモリアル・デーまでに、ある程度の正常化に戻る。7月には東京オリンピックが観客を入れて開催される」との予想でした。正常化には戻りませんでしたが、ワクチン接種によって、景気は、年前半に急回復しました。しかし、東京オリンピックはほぼ無観客開催でした。

 このように、予想が当たっているものや当たっていないものがありますが、重要なのはウォール街のご意見番が今年の経済や金融をどのように考えているのかをみておくことです。自分の相場観や見方と照らし合わせてみて、サプライズの予想かそうでないかを考える。あるいは、あり得るかもしれないため留意しておいた方がよい点を整理しておくとよいと思います。

 毎年強気の予想が多いのですが、今年はどのような予想を立てているのでしょうか。以下が今年の予想の要点です。

バイロン・ウィーン氏による「2022年サプライズ10大予想」

  1. インフレ圧力拡大でS&P500は20%近く下落するが、年末までに前年から横ばいになる
  2. コモディティ価格は下がるが、賃金や家賃が上昇を続け、CPI(消費者物価指数)は4.5%に上昇
  3. インフレ上昇とFRB(米連邦準備制度理事会)テーパリングに反応し始め、10年債利回りは2.75%に。FRBは年内に4回利上げ
  4. オミクロン株感染拡大でも、大規模集会平常化。コロナの影響は残るが米国では生活はおむね正常化に
  5. 中国政府が不動産投機への規制を強化し、個人の投資マネーが他の金融商品に向かう
  6. インフレヘッジのため金投資が活発になり、金は20%上昇し、史上最高値に
  7. 需給逼迫(ひっぱく)で、*WTIは100ドル超に
  8. 安全性向上が図られ、原子力エネルギーが再評価
  9. **ESGは企業の方針から規制へ
  10. 電気自動車の電池市場を中国が掌握

*WTIとは…西テキサス地方の中質原油という意味で、この地方の原油は含有硫黄分が少なく軽質で、ガソリンや軽油が多く採れるといった特徴があります。

**ESGとは…持続可能な世界の実現のために、企業の長期的成長に重要な環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の3つの観点。

 以上となりますが、今年の市場については

  • 米株は20%下落後、S&P500は年末までに前年比横ばいに
  • CPIは4.5%、米10年債利回りは2.75%に上昇、FRBは年内4回の利上げ
  • WTI原油は100ドル超に上昇、金は20%上昇し、史上最高値に

 とみているようですが、今年は、インフレ上昇が続くという前提で予想を立てているようです。その見方については、一般の市場の見方とあまり変わりはありません。バイロン・ウィーン氏の予想は、楽観的で強気な予想が多く、当たらない部分も多いのですが、今年は例年と比べて「サプライズ」感が少ない印象です。

 株式市場に対していつも楽観的な同氏が、今年は横ばい予想をしたことが「サプライズ」なのかもしれませんが、「サプライズ」というよりも意外感がありました。株はピークアウトしたとみているのか、あるいは今年は強気相場の中の小休止とみているのかもしれません。

 FRBの利上げについても、年内4回の見方はマーケットでも増えてきているため、サプライズ感は少ないです。それよりも利上げ見送りの方がかなりのサプライズになります。

 原油と米10年債利回りは予想の方向に進んでいますが、予想数字に届くかどうか注目です。

 今年の「サプライズ10大予想」は、サプライズ感が少ないと述べましたが、ただ、ご意見番の予想ですので、相場シナリオを想定する際に参考材料として活用することができます。

 前回のユーラシア・グループの「政治に関わる10大リスク」や今回のバイロン氏の「経済・金融のサプライズ10大予想」を事前に留意しておけば、相場への対応が違ってきます。これらのリスクが発生した場合、あるいは予想通りに進展した場合に、冷静に対応することができます。

 そういう意味で前回と今回のコラムを四半期ごとに読み返し、進展度合いをチェックしてみるのもよいかもしれません。