外為市場は資産デフレバイアス(現金のバブル)が強まっている。「レバレッジの解消」と「信用リスク」が相場を支配しており、リスクマネーの収縮傾向に歯止めはかかっていない。

リスク回避傾向が続くなか、
(1)本邦勢の円キャリーの巻き戻しによる円買い
(2)米国金融機関の国際投資資金の引き上げ(レバレッジの解消)によるドル買い
(3)貿易赤字通貨売り・貿易黒字通貨買い
という3つの動きが顕著である。

上記の3点から導かれる結論は、クロス円での円買いが有効となる。現在、ポンド/円やユーロ/円は値頃感からは売られすぎの感もある。ポンド安懸念やスイスフラン高懸念など当局者の牽制発言も出てきており、比較的大きなリバウンドのリスクを抱えているが、基本的に今後もクロス円相場の戻り(円安)局面では、円買いが有効とみている。

外為ライブリポートでもお伝えした21日のドル/円のオプションの行使で相場が乱高下した。行使期限の日本時間午前0時に90円15銭まで上昇したあとは、防戦のドル買い分の手仕舞いや、オプションの権利行使によるドル売り、ストップ・ロスのヒットで87円13銭まで急落し13年半ぶりの円高水準となった。この安値ブレイクで円買いが出たが、その後の米株高で今度は89円49銭まで戻すといった踏み上げ相場となり、疲労感の残るこの日の相場は終了した。先週のレポートで、「相場変動は派手にみえるが、筆者の色眼鏡で相場を見る限り、現在の外為市場に方向性はない。方向性のない時期の相場の原動力は「損切り」である」と述べたが、それを絵に描いたような相場であった。

以下のチャートは21日の急落場面を含んだドル/円・ポンド/円・ユーロ/円の1時間足である。現在の外為市場は、たとえ相場観はあたっても、儲からないケースが多い。日中の上下の振れが激しいので、売り方・買い方ともにストップ・ロスのオンパレードとなっている。楽天FXの1時間チャートでは、(ボリンジャーバンドの1σをストップ・ロス・ポイントにしているため)なんとか利益が出ているが、なんらかの相場技術がないと対処できない相場であろう。

ドル/円(1時間足)
移動平均の傾き(緑色)と21時間ボリンジャーバンド1σの外の相場(黄色)


(出所:楽天証券、石原順)

ポンド/円(1時間足)
移動平均の傾き(緑色)と21時間ボリンジャーバンド1σの外の相場(黄色)


(出所:楽天証券、石原順)

ユーロ/円(1時間足)
移動平均の傾き(緑色)と21時間ボリンジャーバンド1σの外の相場(黄色)


(出所:楽天証券、石原順)

さて、“動きは派手だが方向感に欠ける相場”も煮詰まってきており、14日ADXや26日標準偏差変動率の動きをみると、相場にトレンドが発生する可能性が出てきている。このトレンドの方向は円高となりそうだ。

ドル/円(日足) 14日ADX(赤色)26日変動率(青色)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

一方、欧州通貨のほうは、ポンドとユーロの悪さ比べの相場となっている。ユーロは加盟国の格下げや、ロシア経済と深いつながりを持つドイツの金融機関への懸念でユーロ売りが出ている。ポンドのほうは、現在、金融機関のリストラがロンドン(シティ)に集中しているように、オイルマネーとアングラマネーの衰退が大きい。銀行国有化問題で国債の格下げが噂されるなど、英国売りが顕著だ。いずれも底流にあるのは金融機関のレバレッジの解消が促す米国勢の投資資金の引き上げである。

ユーロ/ドル(左)とポンド/ドル(右)の日足


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円相場は日本やロシアの投資家に人気がある。筆者はこのポンドという通貨があまり好きではない。上のチャートはユーロ/ドルとポンド/ドルの日足である。筆者が見ている日足のテクニカル(売り=赤・買い=緑)は、ポンドに関しては機能しておらず相場に振り回されやすい。しかし、1時間足などの超短期売買に目を転じると、ポンドは非常に収益の上がる通貨ペアなので、今後はレポート等で取り上げていきたい。

ニューヨーク・ロンドン・シンガポールの街の状況は不景気そのものという。半年前には考えられなかったほどさびれているらしい。海外から帰ってきて東京の街をみると、はなやいでみえるという。世界規模の景気の回復にはまだ時間がかかりそうだ。ここから先の金融市場の動向は、NYダウの動向にかかっているといえるだろう。相場が昨年11月21日7449ポイントを維持できるか否かで相場の見通しが大きく変わってくる。相場の大きなターニングポイントとなるため、頭の隅に置いておきたい。

NYダウ(月足)1983~2009年


(出所:石原順、ブルームバーグ)

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年1月22日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。筆者はデイトレードおよびスウィングトレードでも緑の期間は円売り、黄色の期間は円買いを中心にしている。2008年相場ではうまく機能したが、我々は現在長期円高サイクルの最終波動のなかにいるのである。当面は円高バイアスがかかり続けるので過信は禁物である。また、過去にはATR上昇で円安、ATR下落で円高となった局面も多いので注意されたい。

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ランド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)