毎年発表の「世界10大リスク」、2022年度は?

 前回のコラムで2022年の重要日程をお伝えしました。そしてその中で、政治イベントはその結果によって瞬時に相場に影響を与えたり、その時の経済環境も無視して影響を与えたりする場合もあるため、最重要で注目すべき項目だとお話ししました。

 前回は日程が決まっている政治イベントをお話ししましたが、日程が定まっていない政治リスクも同時に捉えておく必要があります。現在の政治環境や経済環境に変化を与える可能性があるリスクを押さえておくと、今後の相場シナリオを想定する際のリスクシナリオとして準備ができるからです。それでは、専門家は2022年の政治リスクをどのようにみているのでしょうか?

 毎年、年末年始になると、多くのシンクタンクや金融機関が「世界の10大リスク」を発表していますが、その中で、マーケットで最も注目されているのが、イアン・ブレマー氏率いるユーラシア・グループ(※)が年初に発表する「世界の10大リスク」です。「世界の10大リスク」とは政治や経済に大きな影響を与えそうな事象のことで、マーケットを大きく動かす可能性があるリスクです。

※ユーラシア・グループとは
1998年に米国で設立された世界最大規模の政治リスク専門コンサルティング会社。マーケットを動かす可能性のある世界各国・地域の政治リスクを分析し、機関投資家や多国籍企業にアドバイスしている。戦争や政情不安が起こる危険性など、地政学的リスクの分析に定評がある。社長のイアン・ブレマー氏は国際政治学者で、2011年にすでに「Gゼロ」の時代が来ると指摘したことで一躍有名になった。「Gゼロ」とは、世界を動かすのはG7(先進国の7カ国グループ〈日米英独仏伊加〉)でもなく、G2(米中)でもなく、Gゼロ、つまり「リーダーなき世界」を意味する。同氏は、世界はますますGゼロの世界になってきていると分析している。

 このコラムでは、毎年、ユーラシア・グループの「世界の10大リスク」を紹介しています。このレポートは有料ですが、数日たつと新聞やネットで概要が公開されます。また、テレビニュースでも特集されますので、それらを参考にすることができます。

 今年の「世界10大リスク」は以下の通りです。参考までに昨年の「世界10大リスク」も併記しました。昨年との対比によってリスクが内在する地域・国の変化や比重を読み取ることができます。

昨年度のリスク1位はどんぴしゃりで的中!

 ユーラシア・グループが今年の「世界10大リスク」の報告書で第1位に挙げたのは、「No zero Covid」(ゼロコロナ政策の失敗)です。

 報告書は、「先進国ではワクチン接種の推進などによってパンデミックの終息が近付いている」とした一方、「ほとんどの国はより困難な時期を迎えることになる」と指摘しています。

 しかし、中国が新型コロナの封じ込めを目指す「ゼロコロナ政策」は、2020年には成功したかのように見えましたが、「中国は封じ込めに失敗して、より大きな感染を引き起こし、深刻な都市封鎖につながるだろう」と予測しています。

 そして中国国内の消費の落ち込みやサプライチェーンの混乱による影響は世界に波及し、経済不安やインフレの加速、格差拡大などに対する不満が各地で政情不安を引き起こす恐れがある、と警告しています。これを「No zero Covid」と表現しました。

 昨年の「世界10大リスク」の中で、コロナについては第2位のリスクとして、「新型コロナの影響の長期化」を挙げていましたが、今年は中国が新型コロナウイルスを完全に封じ込められず、経済の混乱が世界に広がる可能性を指摘し、新型コロナとの戦いをトップリスクに挙げています。

 現実に、中国は2月4日からの北京冬季オリンピックを控えて、12月23日から西安市(住民約1,300万人)でロックダウンに踏み切りました。2週間以上がたち、住民の生活や企業に影響が出始めているとの報道がみられます。このままオリンピックまでコロナを封じ込めることができればよいのですが、その動向には注目です。

 2位は、国家や政府の力が及ばない「巨大IT企業の影響が強まる世界」のリスクを挙げています。デジタル空間では一握りの巨大IT企業が主役となり、個人の思考にも影響を与えると指摘し、米国では11月の中間選挙を前に、デジタル空間に誤情報がさらに広がり、民主主義への信頼が損なわれると予測しています。また、デジタル分野において米中の緊張が高まるだろうとの懸念を示しています。

2022年の3~10位も注意が必要!

 3位には「米中間選挙」を挙げ、トランプ前大統領の2024年米大統領選への出馬を左右するだけでなく、「歴史的な転換点となる」としています。民主党のバイデン大統領の支持率が低下する中、野党共和党が議会上下両院の多数派となる可能性があると分析しています。

 そして民主党と共和党のどちらが勝っても、「不正選挙だ」との批判合戦となり、政治への信頼が低下し、混乱や暴動が起こる恐れがあるとし、次期大統領選に向けた「歴史的な転換点」になる可能性があるとしています。イアン・ブレマー氏は、場合によっては選挙制度が崩壊する可能性も指摘しています。

 米中間選挙は今年後半の最大の注目イベントですが、中間選挙の結果が出ても、その後の政局や社会の動きはまったく不透明ということになります。マーケットはかなり混乱することが予想されるため、注意が必要です。

 4位には「中国の国内政策」を挙げています。今年後半の共産党大会で習近平総書記が異例の3期目政権に踏み出すことが確実視されており、習政権に対するチェック機能がほとんど働かず、中国経済の停滞など政策を誤る恐れがあると指摘しています。

 5位は「ロシア」を挙げています。ウクライナ情勢を巡るプーチン大統領の次の一手に注目し、米欧の譲歩がなければウクライナ侵攻の恐れもあるとし、米露関係は極めて危険な緊張状態にあるとしています。

 6位には、核合意の立て直しを巡り、対外強硬姿勢を崩さない「イラン」を挙げています。周辺地域で緊張が高まり、紛争のリスクもあると予測しています。

 7位には「2歩前進、1歩後退の環境対策」を挙げ、脱炭素政策とエネルギー政策の衝突を指摘しています。脱炭素による短期的なエネルギー不足によってエネルギー価格が高騰し、インフレや市場不安定化の要因になると予測しています。

 8位には「世界の力の空白地帯」を挙げ、アフガニスタンやイエメンでテロ組織が増長し、ミャンマーなどで難民流出や内戦の懸念があるとしています。

 9位には「文化(価値観)戦争に敗れる多国籍企業」を挙げています。企業は環境や人権問題などへの対応を迫られ、高コスト化にも直面すると予測しています。

 10位には、昨年も第7位のリスクだった「トルコ」を挙げています。国民の目を経済危機からそらすためのエルドアン大統領の強硬的外交政策で周辺地域の緊張が高まると予測しています。

リスクシナリオの準備が肝要

 以上のように今年もさまざまな政治リスクが想定されます。経済環境ではFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ時期と回数が最大の注目点ですが、政治リスクは、経済環境とは別の大きな流れの中で、為替の動きを見ていく必要があります。

 政治リスクは突然起こる場合は避けようがありませんが、事前にリスクの兆候がみられ、そのリスクが高まってくる場合は、そのリスクに対応する準備ができます。心構えとして、為替の想定シナリオにそのリスクシナリオも加えておくのと、加えておかないのとでは、大きな違いがあるため、事前に準備しておくことが肝要となります。