2008年のドル/円相場は1月~3月が円高、4月~8月が円安、9月~12月が円高となった。9月のリーマンショック後は、リスクマネーの収縮から円キャリー取引の大規模な巻き戻しが起こり、クロス円相場の急落は歴史的な変動率を記録した。

2009年の円相場はどのような動きとなるのであろうか?

下のチャートはドル/円相場の変動相場制移行後の月足である。青のラインが超長期サイクル、赤のラインが長期サイクルであるが、ドル/円相場は1970年以降、一貫して円高トレンドが続いている。前回のレポートで5年周期の長期チャートはドル安を示唆していると述べたが、2005年から始まったドル/円の5年サイクルは2007年6月の124円でドルの天井をつけ、2009年現在は2010年~2011年を中心の時間帯とするドルの5年サイクルの底に向けた円高サイクルの中に相場は位置しているというのが大局観である。

ドル/円(月足) 超長期サイクル(青)と長期サイクル(赤)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円相場が124円を上回らない限り、2010年~2011年までの大局観は円高トレンドで変わらない。当然の事であるが、ドル/円相場には2年・1年・8カ月・3~4カ月といった、より短期の循環が存在しており、長期にわたりずっと円高になるわけではない。ただし、今後の円安局面は修正高に過ぎず、ドルの戻り売りが長期の基本戦略となろう。

さて、現在のドル/円相場は1971年からの長期トレンドラインの攻防となっているが、直近の3回の円高局面でこのラインを終値で下抜けないことを考えると、短期的にはドルのリバウンドがあってもおかしくはないチャートの形状となっている。

ドル/円(月足) 1971年からの長期トレンドライン


(出所:石原順、ブルームバーグ)

また、12月のドル/円相場は20カ月のボリンジャーバンドの2σ(シグマ)に接近したため、過去の相場のセオリー通りにドルのリバウンド相場となっている。

ドル/円(月足) 20カ月移動平均線(赤)とのボリンジャーバンドの2σ(青)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/ドルとドル/円の日足のトレンドを観測すると、現在は長期・中期トレンドのいずれもドル安一服局面となっている。

ユーロ/ドル(上段)とドル/円(下段)の日足と長期(青)・中期(赤)のトレンド


(出所:石原順、ブルームバーグ)

したがって、今後“数週間程度”はドルの修正高が続く可能性があるだろう。ユーロ/ドルも12月急伸相場のあとは調整相場となっている。今後数週間は値幅か時間のいずれかの調整が必要となろう。

ユーロ/ドル(日足) 26日変動率(青)と14日ADX方向性指数(赤)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足) 26日変動率(青)と14日ADX方向性指数(赤)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

クロス/円相場は、豪ドル/円やランド/円のボリンジャーバンドをみるとかなり煮詰まりをみせており、テクニカル的にはかなりよい形状となっている。ストップ・ロスを考慮するなら、短期的には押し目買いで勝負に出るのもよいだろう。

豪ドル/円(日足) 26日変動率(青)と14日ADX方向性指数(赤)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ランド/円(日足) 26日変動率(青)と14日ADX方向性指数(赤)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足) 26日変動率(青)と14日ADX方向性指数(赤)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円やクロス円相場のリバウンドの円安がいつまで続くかは、米国株の動向次第であろう。米国ではグリーン・ニューディールなどのオバマ新政権への政策期待から、「2008年の後半には米国の景気が回復する」といった楽観論も出ているようだが、それはあまりに楽観的な見通しに思える。実体経済や景気指標の改善にはまだまだ時間がかかるだろう。期待感で買われた相場はいずれ期待が剥げ落ちると売られることになる。しかし、現在は世界的にオバマ政権への期待感が大きいので、ここから数週間はリバウンド相場をやってもおかしくはないだろう。市場参加者の3カ月の平均コストである移動平均リボンを上抜いてきたら、その可能性は高まる。

NYダウ(日足) 26日変動率(青)と14日ADX方向性指数(赤)と移動平均リボン


(出所:石原順、ブルームバーグ)

いずれにせよ、百年に一度と言われる世界的な景気後退局面においてあまり楽観的な見方はとりにくく、年末・年初に恒例の年間予測などは例年より精度が落ちることになろう。我々は現在、過去に経験したことのない相場環境のなかにいるのである。「相場は相場に聞け」という格言の通り、相場を評論しても仕方がない。相場の分析にはいろいろなアプローチがあるが、2009年の相場はファンダメンタルズの複雑さから逃れて、「価格そのものの分析をメインにして相場についていく」という姿勢で臨むのがよい結果をもたらすだろう。

皆様にとって2009年が素晴らしい成果の1年となりますように。

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年1月2日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリートレードはリスクが高くなる。筆者はデイトレードおよびスウィングトレードでも緑の期間は円売り、黄色の期間は円買いを中心にしている。2008年相場ではうまく機能したが、我々は現在長期円高サイクルの最終波動のなかにいるのである。当面は円高バイアスがかかり続けるので過信は禁物である。また、過去にはATR上昇で円安、ATR下落で円高となった局面も多いので注意されたい。

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ランド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)