今回は、個人の株式投資家を、投資のやり方やポートフォリオの特徴で分類してみることにする。
株式投資を楽しんでおられる読者は、「自分はどの分類に入るのだろうか?」と考えてみよう。
分類の観点は3つある
さて、個人の株式投資の分類をどのような観点から行ったらいいだろうか。今回は、3つの観点から分類することにした。早速、図1を見て欲しい。3つの軸を立ててみた。「3次元」の分類空間があると思って眺めて欲しい。
(図1)株式投資家の3つの分類軸
それぞれの座標軸について説明しよう。
縦の軸は、いくらか見慣れないかも知れないが、会社や経済の「ファンダメンタルズ」を分析することに重きを置くか、市場に関わる「人間」を分析することに重きを置くかだ。
プロのファンドマネージャーを思い浮かべると、「会社にこだわるタイプ」と、会社の分析に対しては淡泊で主として「人間にこだわるタイプ」の2つのタイプがあることに気づく。
おそらく多数派は、徹底的に会社を分析して良い投資銘柄を発見するのが何より大事だと考える「会社重視派」だろう。
個別銘柄の分析は話題が多いし、顧客も興味を示すことが多い。また、「有り難み」という点でも「個別の会社を分析する力が凄い!」とアピールする方が奥深く見えることもあり、ビジネス上は「会社重視派」の方が有利かも知れない。
一方、「ファンドマネージャーやアナリストの銘柄分析力など、たかが知れている」と心の中で思い、株式市場に参加している投資家の心理や行動の癖などに主な関心を寄せる「人間重視派」のファンドマネージャーもいる(実はファンドマネージャー時代の筆者はこちらのタイプだった)。
手法としては、データ分析とポートフォリオの構築にコンピューターを使ういわゆる「クオンツ」(数量分析を重視する人のこと)や、主に人間がポートフォリオの構築を行う「ジャッジメンタル」だが、データから市場の歪みを探そうとしたり、行動心理学を応用しようとしたりする人もいる。
第二の分類軸は、たぶん読者もよくご存知の、「バリュー(割安株)投資」対「グロース(成長株)投資」という、いわゆる「投資スタイル」とされるものだ。これは、厳密には、何らかの基準を決めて具体的なポートフォリオを測定して分類すべき問題だが(年金基金や年金コンサルタントなどはそうしている)、個人投資家の場合、先ずは「成長株のストーリーに魅力を感じるか、割安株のストーリーに魅力を感じるか?」を心の中で比較して、ご自身が「バリュー派」なのか、「グロース派」なのか、意識的に「中立派」であろうとしているのか、などを考えてみるといい。
加えて、第三の軸として、株式保有の大きさ全体を自分の判断によって変動させるか否かを設定してみた。タイミングに対して賭けるのか否かだ。
プロの運用者の場合、年金運用や投資信託の株式組み入れ率に契約や約款上の制限があったり、あるいはビジネス上の事情で(特に年金運用では株式エクスポージャー全体の上下で勝負する運用は嫌われる)、勝手に株式組み入れ率を調整できない場合が多い。
また、「マーケット・タイマー(マーケット・タイミングで勝負する運用者)は上手く行かない」ことが年金運用の世界では概ね常識だ。
従って、プロにはこの分類があまり意味を持たないかも知れないのだが、個人投資家の場合は制約がないし、株式投資の額自体を上下させる投資家がかなりの比率で存在するので、分類上この軸があった方がいいと考えた。
スタイル×分析手法
以下、もう少し詳細に「典型的な投資家像」を見てみよう。以下の分類は、「典型」をピックアップしたもので、完全に網羅的であるわけではないが、「こんな投資家は、確かにいる」、「自分は、この分類に近いかも知れない」などと考えながら読んでみて欲しい。
2次元の図(図2)にまとめてみた。
(図2)スタイル×分析手法
(1)グロース・アクティブ
企業を分析して、将来成長する企業を見つけることこそが投資の本質だと考えている。例えば、「株価に投資するのではなく、会社に投資するのだ」という信念を持つ。この点は、時にストイックでさえある。
他の投資家の隙を見つけようとするようなケチな了見は持たずに、企業分析に注力する。成長する企業を見極めることが出来れば、運用パフォーマンスはおのずと付いて来ると信じている。
プロのファンドマネージャーにもこのタイプは多い(単に営業上そのように語る場合もあるが)。
近年、先進各国の産業が、従来の製造業(規模が大きくなると「収穫が逓減」しやすい)から情報産業(規模が大きくなる方が、生産性が上がる「収穫逓増」になりやすい)にシフトするにつれて、成長株が予想以上に成長するような事態が多数起こったので(米国のGAFAが典型だ)、現在この分類に属する投資家は元気がいい。
(2)バリュー・アクティブ(ジャッジメンタル)
しばしばあやふやで見通しにくい将来の成長よりも、現在の株価が割安であることを重視するアクティブ運用だ。企業の価値、あるべき株価を分析して、それよりも安い株価で株式を買おうとする。正しい株価より今買える株価がどれだけ安いかは、ウォーレン・バフェット氏の言葉を借りると「セーフティー・マージン」ということになるが、この点を重視する。
PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、配当利回り、などの各種の比率系の割安指標の何を重視するかで細かなバリエーションがあるが、企業をさらに分析して、補完しようとする。
分析は、主に人の手で行う。
運用としては、不運にして保有銘柄の株価が下がっても、そのままじっくり保有しやすく、売買回転率が低めな運用をしやすい点で、グロース・アクティブよりも有利な面がある。
一方、人気のグロース株が派手に上昇している状況を横目にバリュー株をじっと保有し続けるには相当の忍耐が必要だ。時にその必要性が、投資家本人が持つ忍耐力を上回ることがある点は気の毒だ。
(3)バリュー・アクティブ(クオンツ運用)
バリュー(割安)銘柄に重点を置く運用として、プロの世界では、いわゆるクオンツ運用でバリュー運用的なプロセスを組み込んだものが一定数ある。
個人投資家の場合、使用できるデータやツールの制約があるので、プロのクオンツ運用と同じ運用を行おうとするのは現実的ではないかも知れないが、複数の条件でスクリーニングした銘柄を中心にポートフォリオを作ろうとすると、クオンツ運用的なバリュー運用を行うことになる場合があるはずだ。
尚、いわゆる「スマート・ベータ(β)」運用には、実質的にこの種の運用が多いが、それらは率直に言うと「手間を省いた、一昔前のバリュー型のクオンツ運用」だ。
株式市場では、何らかの株価の歪みが修整される時にアクティブ・リターンが生まれるが、ある方法が一定期間リターンを生んだという事実は、既にリターンを吐き出して「畑が荒れた」ことを意味する場合がある。過去に有効だった方法が、今後も有効であるかどうかの判断が重要であり、データの読み方にセンスが要る。
(4)グロース・アット・リーズナブル・プライス(通称「GARP」)
「高成長でも、株価に十分反映していなければ割安株だと言える。バリューとグロースは必ずしも対立概念ではない。投資で大事なのはバランスだ。成長力のある会社を、割高ではないリーズナブルな株価で買うことを目指せばいい」というような、理屈としてもっともな折衷的スタイルだ。プロの運用の世界では一般に「グロース・アット・リーズナブル・プライス」(通称「GARP」)と呼ばれるスタイルだ。
理屈は通っているし、折衷的で無難だ(だが、あまり面白くはない)。
日本の運用会社は、一つの会社の中に、グロース、バリュー、インデックス運用など、複数の運用スタイルの商品を持つことが多いこともあり、対外的説明(主に年金基金が雇うコンサルタント向けの説明)で、「GARP」的な概念を運用哲学の説明に使うことがしばしばある。
個人投資家の場合、対外的な説明や、対社内の調整のような気遣いは必要ないので、「自分の投資スタイルはGARPだ」と自覚している人は案外少ないかも知れない。
(5)スタイル・ローテーション
バリュー銘柄が優勢か、グロース銘柄が優勢か、の優劣は時によって変化するので、これを当てに行こうとして、ポートフォリオの保有銘柄の傾向性を変化させる運用手法がある。手法名としては「スタイル・ローテーション」、これを使う運用者を「スタイル・ローテーター」と運用業界では呼ぶことが多い。
ローテーション自体を成功させる難しさと共に、顧客である年金基金などの側では、委託先の運用会社が運用スタイルを動かすと、運用資産全体の性質を把握し且つコントロールすることが難しくなるので、プロの世界ではスタイル・ローテーターは好まれない傾向がある。
しかし、熱心に株式市場を見ている趣味的な個人投資家であれば、スタイル・ローテーション的な運用をやりたくなる場合はあるだろう。
もちろん、自分のお金なのだから、やっても構わない(但しお勧めはしない)。
(6)アーニング・サプライズ
アーニング・サプライズとは、企業の、予想されていた収益と、実際に発表された収益のギャップを指すことが多い。後から発表された利益が予想よりも高いポジティブなアーニング・サプライズがある場合、株式のリターンが高まる場合があるとの研究が相当数ある。
株価は、予想を織り込んで形成されるものなので、「予想と実績の差」よりも「前の予想と後の予想の差」に注目する方がいい場合がある。
ともかく、利益そのものないし、利益予想の変化は個々の株式のリターンの差を説明する上では最大の要因であると考えて大凡問題はない。収益予想の周辺の情報ゲームに参加することでリターンを得ようとするアプローチはある。
成長株の事後的に見た高いリターンは、利益予想の意外なまでの上方修正の連続がもたらしたものだと解釈できる。
売買回転率が高くなりがちであることなど、難しい面もあるが、個人投資家も着眼できるポイントの一つだ。
(7)コントラリアン(逆張り投資家)
「不人気で値下がりした銘柄であっても、本来あるべき株価よりも安い株価で買うことが出来るなら、魅力的な投資対象だと考えることが出来る。むしろ、不人気な銘柄の方が、魅力的な株価の歪みが起こりやすいのではないか。この際、むしろ不人気な銘柄を探して投資してみよう…」と考えるような、筋が通った狙いではあっても「へそ曲がり」な投資方針を使う投資家のことを運用業界では「コントラリアン」と呼ぶ。
個人の場合、運用に失敗しても自分のお金だし、コントラリアン運用に賭ける環境はむしろプロよりも有利だ。
コントラリアン運用には、有望な鉱脈があるかも知れない。
もっとも、市場の人気の逆に賭けるので、相当の胆力が必要な運用方針ではある。投資対象となる銘柄を一般的な投資指標で見ると割安株が多くなるだろうが、「直近ではダメなグロース株を狙うコントラリアン運用」のようなやり方が考えられない訳ではない(相当に難度が高そうだが)。
「株の持ち方・売買」と投資スタイル
そもそも株式に投資する金額をどうするか。増やすべきなのか、減らすべきなのか。個人投資家としては、この選択が重要だと考える投資家が少なくないだろう。マーケット・タイミングに賭ける投資家は少なくない。この軸と、ポートフォリオのスタイルとを合わせて描いてみたのが、図3だ。
(図3)スタイルと投資の(売買の)形態
縦軸の上下の位置を表す数的尺度を一つ考えると「売買回転率」かも知れないが、「長期一括投資」と「積立投資」の差は「回転率」とは少々異なる。
積立投資は「その時々に最適な投資額が増えたと考えて追加投資する長期投資だ」と考えることができるが、期間が長くなるほど投資額を増やす一種のマーケット・タイミングへの賭けの側面がある。
図の中では「材料投資」と表現したが、市場で関心を集める「テーマ」や個々の企業のニュースなどに反応して投資するタイプの投資家は、グロース寄りの銘柄を手掛けることが多いだろう。
一方、バイ・アンド・ホールドを決め込んで長期投資する投資家の場合、割安株の長期保有が多いのではないだろうか。
縦軸上の上にある点が表しているのは、株価指数先物などを短期売買する投資家で、主な分析手段はテクニカル分析だろう。指数への投資なので、バリュー・グロースの偏りはないが、売買回転率は高くなる。筆者の過去の文章を読んでいる読者からは「あなた(=筆者)は、短期売買を投資とは認めていないのではなかったか。また、テクニカル分析は役に立たないと言っていたのではないか」という疑問(或いは批判)の声が出るかも知れない。
そうした声に対しては、「はい、その通りです」と答えて(喜んで)頭を下げるが、トレーディングを好む個人は少なくないので、今回は、個人投資家の仲間に入れて分類してみることにした。
一方に、テクニカル・トレーダー、他方に長期一括投資家がプロットされる軸の真ん中付近の割合広い範囲に、マクロ経済などの情報に影響されて、株式の保有額を調整したり、バリュー重視かグロース重視かを変更したりする、よく言うと柔軟な投資家が存在する。
マクロ経済の分析を背景にアセット・アロケーションを変更するような投資手法はいくつかの点で上手く行きにくいのだが(詳しくは別の機会に論じたい)、直感的には納得的だし、多くの投資家が経済ニュースの影響を受けて動く。
一方、「株主優待狙いの投資家」、「配当目当ての投資家」、「自社株をじっと持っている投資家」などは、スタイル上の位置づけが難しいし、必ずしも投資収益を優先する判断を行って投資している投資家ではないので、今回の分類には含めていない。
もっとも、それぞれの投資家は、自分で考えて、自分のお金で投資しているのであって、それ自体に問題があると言いたい訳ではない。
株式投資は素晴らしい趣味であり、上手くやると合理的な資産形成の手段にもなる。また、幸いにして、なにがしか株式を持ち続けている投資家全体にとって「プラス・サム」になり得るゲームだ。
全ての投資家のポートフォリオに好いリターンが訪れることを祈る。
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