毎週金曜日午後掲載

本レポートに掲載した銘柄:メタ・プラットフォームズ(FB、NASDAQ)マイクロソフト(MSFT、NASDAQ)アップル(AAPL、NASDAQ)TSMC(TSM、NYSE ADR)エヌビディア(NVDA、NASDAQ)AMD(AMD、NASDAQ)ASMLホールディング(ASML、アムステルダム、NASDAQ)アプライド・マテリアルズ(AMAT、NASDAQ)テスラ(TSLA、NASDAQ)東京エレクトロン(8035)レーザーテック(6920)アドバンテスト(6857)ソニーグループ(6758)任天堂(7974)

1.2021年のテクノロジー株相場を振り返って

 あけましておめでとうございます。

 本年も楽天証券投資WEEKLYをよろしくお願い申し上げます。

 2022年最初の楽天証券投資WEEKLYは、1月13日(木)のTSMCを皮切りに始まる2021年10-12月期決算発表の見所を探りながら、私が調査している分野ごとに2022年を展望してみたいと思います。

 まず、2021年のテクノロジー株相場を振り返ってみたいと思います。表1はアメリカと日本のテック株の中で、私が継続的にレポートまたは動画を作成している銘柄の2021年のパフォーマンス(2021年始値と高値の比較。以下同様)と、レポート、動画配信後のパフォーマンスを見たものです。

 これを見るとアメリカ市場の上場大手IT、半導体デバイス、半導体製造装置の各社はおおむね良好なパフォーマンスを示しています。エヌビディアが2021年始値からその後の高値まで2.6倍になり、それ以外の半導体デバイスメーカー、製造装置メーカーも良好なパフォーマンスでした。大きな時価総額を持つ大手ITの中では、マイクロソフトが57.1%という高いパフォーマンスを示しました。EVではテスラが72.8%の高パフォーマンスを見せました。

 日本の半導体関連も良好なパフォーマンスでした。レーザーテックが2.9倍と突出したパフォーマンスを示しました。東京エレクトロンやアドバンテストも高パフォーマンスでしたが、ディスコのパフォーマンスが見劣りするなど、アメリカに比べるとパフォーマンスにばらつきがあります。

 また日本のゲーム関連は、良好なパフォーマンスではありませんでした。ソニーだけが41.1%の好成績を残しただけで、任天堂やカプコンなどはふるいませんでした。

 今年2022年を展望すると、2021年と同様の株価トレンドになるのではないかというのが、現時点での私の見方です。2022年の世界のテック株における大テーマは、「メタバース」と「EV」になると思われます。メタバースは人々の生活と、製造業、サービス業中心に産業界にも大きな変革をもたらすと思われます。これに関連する企業は、まずアメリカの大手ITと半導体関連です。

 また、EVはトップのテスラと、2番手グループのヨーロッパメーカー、中国メーカーが、急速にEVの大量生産体制を整備しつつあります。今後数年でテスラ以下のEV上位メーカーが世界の自動車市場の中で主導的な立場になるであろうことも見え始めました。

 一方で日本のゲーム関連企業のパフォーマンスは、2021年同様、難しいものになる可能性があります。家庭用ゲーム機の生産は、2022年も半導体不足に悩まされそうです。また、ニンテンドースイッチについては、ピークがいつなのかを慎重に推し量らなければならない段階にきていると思われます。

表1 2021年のアメリカ株、日本株のパフォーマンス

単位:アメリカ上場株はドル、日本株は円
注1:株価は楽天証券投資WEEKLY掲載時の業績表に記載された株価。
注2:2021年高値、その後の高値はザラバ高値。
単位:アメリカ上場株はドル、日本株は円
注1:株価は楽天証券投資WEEKLY掲載時の業績表に記載された株価。
注2:2021年高値、その後の高値はザラバ高値。

2.2021年10-12月期決算発表スケジュール

 次に、2021年10-12月期決算発表スケジュールを示します。

2021年10-12月期決算発表予定(2022年)

1月13日(木) TSMC
1月19日(水) ASMLホールディング
1月25日(火) AMD、ディスコ、テラダイン、マイクロソフト
1月26日(水) インテル、ザイリンクス、ラム・リサーチ、メタ・プラットフォームズ、
アップル、テスラ、日本電産、カプコン
1月27日(木) アドバンテスト、信越化学工業
1月28日(金) SCREENホールディングス
1月31日(月) レーザーテック
2月1日(火) アマゾン・ドット・コム、アルファベット
2月2日(水) クアルコム、東京精密、ソニーグループ
2月3日(木) KLAコーポレーション、任天堂、ユニティ・ソフトウェア
2月9日(水) SUMCO
2月10日(木) 東京エレクトロン
2月17日(木) アプライド・マテリアルズ(2021年11月~2022年1月)
2月23日(水) エヌビディア(2021年11月~2022年1月)
注:全て現地時間。

3.GAFAM(アメリカの大手IT)

 世界のテクノロジー関連市場とテクノロジー株の業績、株価に対するGAFAM(アルファベット(グーグル)、アップル、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)の影響力は強烈です。パソコン、サーバー、スマートフォンの売れ行き、その中に装着される高性能半導体(CPU、GPUとメモリ(DRAM、NAND型フラッシュメモリ))の需要動向など、世界のテクノロジー関連市場の中核部分に、GAFAMは強く関わっています。

 さらに2021年夏以降、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)とマイクロソフトが巨大仮想空間「メタバース」への参入を表明してから、GAFAMの一角が「メタバース」の強力な推進役となりました。

 GAFAMの決算発表は、1月25日(火)にマイクロソフト、1月26日(水)にメタ・プラットフォームズ、アップル、2月1日(火)にアマゾン・ドット・コム、アルファベットが予定されています。各社の業績もさることながら、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフトのメタバース政策の進捗、まだメタバースに対する態度を表明していないアップル、アマゾン・ドット・コム、アルファベットのメタバースに対する考え方に注目したいと思います。

4.半導体デバイス

 半導体関連(半導体デバイス、半導体製造装置、半導体素材)の先行きを見通す上で最も重要なのは、毎四半期とも同じく、TSMCの決算です。2021年10-12月期は2022年1月13日(木)に発表されます。

 TSMCは2021年12月期から、それまでのトレンドを上回る大型設備投資を開始しています。この大型設備投資の効果が、2022年から本格的に生産能力に対して発現すると思われます。また、減価償却費の増加分は、顧客に対して価格転嫁している模様です。半導体デバイス市場では、一桁ナノ台の先端半導体から10ナノ台から以前の汎用半導体まで半導体不足が続いています。そのため、2022年12月期のTSMCは2021年12月期よりも大幅増収増益になる可能性があります。実際にそうなるのか、大きな注目点です。

 TSMCの設備投資と生産能力増強の影響は、エヌビディア(2月23日発表)、AMD(1月25日発表)、クアルコム(2月2日発表)のように、TSMCに生産委託している大手ファブレス半導体メーカーの業績に直接影響します。よい結果を期待したいと思います。

 またインテルについては、2022年に株式市場での見方が分かれる可能性もありそうです。2023年に予定される7ナノライン稼働開始を織り込む展開になるのか、あるいはTSMCにはかなわないという考え方になるのかです。

 2022年には高性能CPU、GPUの生産、出荷が2021年よりも増加すると予想されます。CPU、GPUの高性能化に伴って、スマートフォン、パソコン、サーバーのメインメモリ(DRAM)、ストレージ(SSD=NAND)の容量が拡大し高速化する傾向があります。この傾向が続けば2022年中にDRAMとNANDの需給関係が改善し、現在のところ下落しているDRAM、NANDの大口価格が上昇に転じる可能性があります。すでに昨年2021年12月に決算が発表されていますが、マイクロン・テクノロジーに注目したいと思います。

 メタバースと半導体デバイス、半導体製造装置の関係も重要です。メタバース構築には高性能CPU、GPU、汎用半導体、メモリなど各種半導体が大量に使われると思われます(データセンターサーバー、映像処理用PC、通信・映像機器などで使う)。今の半導体ブームにメタバースによる半導体ブームが上乗せされる可能性があります。決算を見るときにはこの点にも注意したいと思います。

表2 大手半導体メーカーの設備投資

出所:各社会社資料、報道より楽天証券作成
注:1ウォン=0.096円、1ウォン=0.000829ドル。

グラフ1 DRAMのスポット市況

単位:ドル、小口渡し、現金、出所:日本経済新聞主要相場欄より楽天証券作成、注:4ギガビット品は、2018年6月29日までDDR3型、2018年6月30日~2021年5月7日はDDR4型、2021年5月10日からDD3型。

グラフ2 DRAMの市況

単位:ドル、国内大口需要家渡し、4ギガビット(2018年6月26日までDDR3、2018年7月3日からDDR4、2021年5月11日からDDR3)、出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ3 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)

単位:ドル、国内大口需要家渡し、TLC(注:2017年5月30日付で従来の多値品がTLCに変更された)、出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

5.半導体製造装置

 半導体製造装置セクターでアクシデントがありました。1月3日付けでASMLホールディング(1月19日決算発表)が発表したところによれば、同日、ベルリンにある露光装置の部品工場の一部で火災が発生しました。会社側によれば、被害の規模を特定するには数日かかるということです。EUV露光装置、ArF液浸露光装置の生産能力への影響を見極める必要があります。

 2022年もTSMC、サムスン、インテルの大手半導体メーカーが、2021年を上回る大型設備投資を行うと予想されます。半導体製造装置の需給関係は2022年もタイトなものとなり、納期が大きく改善することも考えにくいと思われます。

 注目決算は、ASMLホールディング(EUV露光装置、ArF液浸露光装置の生産能力の拡大がどの程度になるのかが注目点)、レーザーテック(1月31日発表、2021年10-12月期の受注高に注目)、東京エレクトロン(2月10日発表、業績トレンドを把握するために製品出荷額に注目)、アドバンテスト(1月27日発表、受注高の水準に注目)、KLAコーポレーション(2月3日発表、シリコンウェハ欠陥検査装置の伸びに注目)、アプライド・マテリアルズ(2月17日発表、決算期が1カ月遅れなので、業績全般を見ることで半導体製造装置セクターのファンダメンタルズを再確認できる)などです。

グラフ4 日米半導体製造装置販売高(3カ月移動平均)

出所:日本半導体製造装置協会、SEMI、単位:日本製は100万円、北米製は万ドル

6.EV(電気自動車)

 1月2日、テスラは2021年10-12月期生産出荷台数の速報を開示しました。それによれば、テスラ車の総出荷台数は、2021年7-9月期24万1,391台から2021年10-12月期は30万8,600台へ大きく増加しました。総出荷台数の大半がモデル3/Yです。生産能力を増強してきた効果が出ています。この結果、2021年12月期の総出荷台数は93万6,172台(前年比87.4%増)と大幅増となりました。

 テスラは1月26日に決算発表を行う予定です。表3は現時点での楽天証券業績予想ですが、決算発表まで変更しないつもりです。2021年に起きた大規模リコールの2021年12月期における費用計上が不透明なためです。

 ただし、2022年12月期については、2021年末のベルリン新工場稼働開始、2022年年初に予想されるテキサス新工場稼働開始と現在進行中の上海工場の増強等を考えると、総出荷台数150~160万台が可能と思われます。2023年12月期は240万台以上が可能と思われます。表3の2022年12月期、2023年12月期楽天証券予想は総出荷台数を2021年12月期90万台、2022年12月期150万台、2023年12月期230万台と予想していたため、この業績予想よりも強い業績となる可能性があります。

 テスラを追ってフォルクスワーゲンなどの欧州勢、中国勢がEVの生産販売を拡大しています。この2~3年から4~5年で世界のEV生産販売台数が大幅に増加し、ガソリン車の販売を脅かすことになる可能性もあります。その意味で2022年は重要な年になると思われます。

 EVに対する投資については、当面はテスラへの投資を考えたいと思います。EVについては、アップルが参入するといわれています。ソニーも事業化の検討に入りました。やるつもりなら早くやるべきです。テスラの勢いが極めて強いため、遅れると事業化が困難になりかねません。

 また、1月26日には日本電産の決算発表もあります。EVの生産能力拡大に伴い、EV用動力モーターの外販市場も今後拡大すると思われます(テスラは動力モーターを内製している)。日本電産のEV用モーターの受注に注目したいと思います。

グラフ5 テスラのEV生産・出荷台数

単位:台、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成

表3 テスラの業績

株価(Nasdaq) 1,064.70米ドル(2022年1月6日)
時価総額 1,062,571百万ドル(2022年1月6日)
発行済株数 1,123百万株(完全希薄化後)
発行済株数 998百万株(完全希薄化前)
単位:百万ドル、ドル、%、倍        
出所:会社資料より楽天証券作成。        
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。       
注2:EPSは完全希薄化後発行済み株式数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前発行済み株式数で計算。

7.ゲーム

 家庭用ゲームのプラットフォーム会社(任天堂、ソニーグループ、マイクロソフト)は、2022年も半導体不足に悩まされそうです。ソニーグループのプレイステーション5(PS5)の2023年3月期の販売台数は2022年3月期よりも増えると思われますが(TSMCにある程度約束してもらっている台数があると推測されます)、今の半導体不足の中でどの程度増やせるのか不透明感があります。

 任天堂のニンテンドースイッチ・ハードウェアは足元が高原状態と思われます。ソフトでは、1月28日に「Pokémon LEGENDS アルセウス」が、2022年中に「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」続編や「スプラトゥーン3」が発売される予定です。期待の大型新作が続くと思われますが、これによってハードウェア需要が上向いたとしても、半導体不足が響くことになる可能性があります。

 メタバースについては、私が聞いている限り、任天堂、ソニー、カプコンが様子見の態度であり、積極姿勢なのはバンダイナムコホールディングスぐらいです。日本のゲーム会社が大きな流れに乗り遅れてしまうリスクがあります。

 逆に、ゲームサイト運営でメタバースに熱心なロブロックス(ROBLOX。ユーザーがゲームをプログラムしたり他のユーザーが作成したゲームをプレイしたりできるオンラインゲーミングプラットフォーム、ゲーム作成システム。12月決算だが決算発表日は不明)は、まだ赤字ですが売上高が前年比で2倍のペースで伸びています。ロブロックスの決算に注目したいと思います。

8.メタバース関連

 2022年1月5~7日にラスベガスで開催されている「CES2022」での大きな話題は「メタバース」です。アメリカの有力企業だけでなく、日本からもパナソニックが仮想空間に入るためのゴーグルを出品しました。ソニーグループもPS5に接続する次世代VRシステム「プレイステーション VR2」を出品しましたが、同社がメタバースについてどう考えているのか不明です(前述のように私は様子見と聞いています)。

 表4はメタバース関連企業の一覧です(2021年12月24日付け楽天証券投資WEEKLY「2020年代最大の怪物?「メタバース」―投資するならITか半導体か―」掲載の表に加筆)。さまざまな分野の企業が関わってきます。アクセンチュアのようなコンサルティング会社もメタバース参入支援事業を開始しています。2021年10-12月期決算でも、さまざまな会社がメタバースにどのように関わるかが話題になると思われます。

 特に、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、アップル、エヌビディア、AMD、アクセンチュア、ロブロックス、ユニティ・ソフトウェア(VFXの制作ソフトの会社を買収)、オートデスク(CAD/CAMのデータを使って仮想空間上に自動車や電子機器の完成品を再現する「デジタルツイン」技術に関わってくる。3Dアニメの制作ソフトも手掛ける)、バンダイナムコホールディングス(メタバース内でのイベント開催に関心か)などの動きに注目したいと思います。

表4 メタバース関連企業

出所:楽天証券作成

本レポートに掲載した銘柄:メタ・プラットフォームズ(FB、NASDAQ)マイクロソフト(MSFT、NASDAQ)アップル(AAPL、NASDAQ)TSMC(TSM、NYSE ADR)エヌビディア(NVDA、NASDAQ)AMD(AMD、NASDAQ)ASMLホールディング(ASML、アムステルダム、NASDAQ)アプライド・マテリアルズ(AMAT、NASDAQ)テスラ(TSLA、NASDAQ)東京エレクトロン(8035)レーザーテック(6920)アドバンテスト(6857)ソニーグループ(6758)任天堂(7974)