2022年、相場の上昇より物価上昇が気になる

 2022年になり、今年も株式市場の上下動に振り回される一年を予想している人が多いと思います。いろいろな速報ニュースや統計データの公表、政治経済界を動かす人の軽はずみな発言などによってマーケットは大きく変動し、今年もその動きに振り回されることになるのかもしれません。

 しかし、2022年に関してはもう一つ気になるテーマがあります。それは「物価上昇」です。

 2021年後半は、値上げのニュースが相次ぎました。ガソリン代の上昇はドライバーなら強く実感しているところでしょう。手軽な食事として家計を助けていた牛丼の値上げもありました。クリスマスケーキやおせちを注文したら、値上がりのお知らせを目にした人もいることでしょう。

 日本では長らく物価上昇が起きませんでした。低コストで高品質な商品を開発する企業努力に支えられてきたためですが、世界が年間数%のインフレを続けてきた中で、日本における物価上昇率の低さはここ数十年の間際立っています。

 低コストの商品はこれからも存在し続けるでしょうが、量を減らしたり、質を下げたりして対応していくことになりそうです。もしかすると、モノの値段が変わらない時代は終わりに近づいているのかもしれません。

 これは、企業の業績判断や国全体の景気動向などにも影響する要素ですが、ここでは個人的な問題、つまり「あなたの家計への影響と、あなたの投資への影響」を考えてみたいと思います。

物価上昇のしわ寄せは投資額に

 長い目でみると、物価上昇率と賃金上昇率は連動する関係にあります。物価が5%上がったとしても、年収が5%上がれば購買力としては問題ないわけです。ただし、これは長期的な話です。

 短期的にみれば、「今年物価は5%上がったけれど、賃金が上がるのは最短で来年の春、あるいはその次の春」ということがしばしば起こります。

 そうなると、物価上昇に家計が追いつくまでには一年あるいは数年ほどのギャップが生じます。毎月家計の消費支出が20万円だった人が、値上げ5%の影響を受けて21万円かかるようになれば、そのしわ寄せが貯蓄や積立投資額に及びます。

 インフレ前の貯蓄率>インフレ後の貯蓄率

 ということになり、貯蓄余力が下がれば、将来的な資産形成の上積みが減ることになります。先の例でいえば、値上げによる支出の増加分である月1万円、年12万円が積立予定額から減ってしまうわけです。

 こういう話をしても、おそらくほとんどの人は「そんなことあるわけないでしょう」と思うかもしれません。それは前世紀末よりあまりにも長い低インフレ、デフレ基調の時代を過ごしてしまったからです。

 侮っていると、数百万円以上のズレになる恐れもあります(最後に追記しますが、インフレは将来の準備目標額を上方修正する必要にもつながり、ギャップはさらに拡大します)。

 2022年以降は、物価が上昇し始めたとき「投資額へのしわ寄せ」が生じないか見極めが必要になってくるかもしれません。

家計管理をしっかり キャリアアップにも貪欲に

 そうなれば、2022年に個人投資家が取り組むべきテーマの一つとして、「物価上昇対応としての家計管理」が挙げられそうです。

 1,000円の商品も、年2%の値上げが10年繰り返されると1,219円になります。実際のところ、商品の価格は数年間据え置きしては5%くらい値上げしたり、内容量を減らして「価格据え置き、実質値上げ」の形をとるため、値上げはじわじわと財布に影響してきます。

 もっとも、1度の買い物あたり数円から数十円のズレですから、レジで会計する時点では影響に気づきにくいでしょう。

 しかし、気付いたころには多くの項目で支出が増えており、あなたの家計を圧迫することになります。

 対策は二つあります。一つは「節約」による家計管理です。

 例えば、昨今のガソリン代上昇は厳しいものの、消費者物価指数においては通信費が減少傾向にあります。ガソリン代が上がった分、スマホのプランを見直して通信費を節約できればなんとか現状維持できます。

 3大キャリアの低料金プランや格安スマートフォン(MVNO=仮想移動体通信事業)への乗り換えは、「質は落とさず、支出を落とす」選択ですから上手に活用したいものです。

 こうした家計の見直しにはやはり家計簿が必要になります。個人投資家は、スマホの家計簿アプリを有効活用して、家計の支出額を維持(つまり物価が上がっても支出額の増加にならないようにする)したいところです。

 複数の金融機関でもつ口座の情報を一つに集約できる「アカウントアグリゲーション」機能を活用すれば、銀行口座の入出金履歴やクレジットカードの利用額などをまとめて管理できて便利です。

 もう一つの対策は、年収を増やすことです。

 毎年、春季労使交渉では賃金を一律に引き上げるベースアップが話題になりますが、より自発的に年収増を勝ち取る意識が必要です。昇格や昇給へのチャレンジ(何をすれば実現可能性が高まるか目標を明確にして取り組む)と、転職によるチャレンジがあります。

 何年も年収が据え置きとなっている場合(あるいは新型コロナウイルス禍の影響が著しく年収減少となっている場合)、自分の能力の伸びとミスマッチがあるなら、転職活動をしてみましょう。結果として投資の原資を維持あるいは増額することにもつながります。

今年も積立投資の拠出枠は維持していこう

 具体的な「口座の種類」によって、積立維持の可能性が変わってくることを確認しておきましょう。

 iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やつみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を行っている人は、自動引き落としの設定になっていると思います。

 これは「積立額は絶対維持する」という人にとってはいい制度です。給与の振込日から間を置かずに引き落とされれば積立額は確実に貯まります。値上がり分のしわ寄せは、生活コストを切り詰めて調整することになるでしょう。

 積立定期預金、財形貯蓄、積立投資信託などの自動積立が前提の制度についても、自ら積み立てのストップをしなければ残高の上積みは維持されます。ただし、物価増のあおりを受けることは変わりありませんので、家計の引き締めは欠かせません。

 一方で、「基本、月1万円貯めるけれど、給与振込日直前の状況によって判断して手作業入金しています」という積み立てタイプは要注意です。

 この場合、物価上昇のあおりを受けて支出が増え、積立停止することがあります。できる限り中断しないようにしてください(むしろ自動引き落としへの切り替えをお勧めします)。

 そしてもう一つ。インフレ時には貯蓄額を増やす心掛けも必要です。将来に必要なお金の額にも物価上昇はじわりと影響してくるからです。

 つまり、「老後に2,000万円」を準備するのではなく「老後に2,200万円」を準備するのだと考え直し(インフレが10%生じたとしたら)、貯蓄額を上方修正する必要があるわけです。

 iDeCoやつみたてNISAの枠がインフレに応じて自動的に拡大することはありませんし、積立額は自動的に増額されることもありません。

「iDeCo満額」「つみたてNISA満額」と考えるだけではなく、老後に必要な額を時々シミュレーションし直して、「積み立てたい目標額」を増やしておきたいところです。

 2022年が終わるころ「やっぱり物価が上がらなかった」となれば個人消費においてはラッキーですが、こればかりはどうなるか予測が困難です。

 値上がり時代の到来に備えて、個人投資家としても年始の覚悟をしておきたいところです。