毎年、このコラムでは年初めに1年間の重要イベントの日程を取り上げています。1年間の相場シナリオを予測するためには押さえておきたい必須項目です。

 1年間とは1月から12月のサイクルです。為替市場の主戦場は欧米市場であるため、3、6、9、12月の四半期決算に加え、12月の本決算が多い欧米の企業や海外ファンドと同じサイクルで考える必要があります。

 ただし、ドル/円の場合は、日本の企業決算の時期も考慮する必要があります。特に3月決算が多いため、年度末の3月や年度初めの4月には、決算に関わる為替の需給要因が加わることに留意しておく必要があります。

 為替市場で注目される重要イベントとは、相場に瞬間的に影響を与えたり、中長期的に相場の先行きを方向づけたりするイベントのことです。

 為替の変動要因を大別すると、政治要因と経済要因があります。政治イベントとして選挙や国際会議があり、経済イベントで特に重視するのが、為替相場を中長期的に大きく左右する中央銀行の、金融政策を決定する金融政策委員会です。

 そしてその金融政策を左右する、「経済成長率」やCPI(消費者物価指数)、米雇用統計の経済指標です。

 これらの政治・経済日程は、年末年始に新聞や雑誌に特集が組まれることが多いため、注意して見ておくと役に立ちます。また経済指標の公表日は各国政府の管轄部署のホームページや中央銀行のホームページから確認することができます。

 そして、相場シナリオを考えていく際に、これら政治・経済イベントの日程を押さえながら、そのリスク度合いや影響度合いを考慮して、相場シナリオを組み立てていく必要があります。

今年注目すべき7つのポイント

 まず、今年の注目ポイントを見てみます。

【1】インフレ動向とFRBの利上げ時期

 今年最大の注目点は、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ時期と利上げ回数です。インフレ上昇を抑制するため、6月以降2~3回の利上げがあるというのが、マーケットの見方の大勢となっていますが、テーパリングが3月には終了する予定であるため、3月にも利上げとの見方もあります。

 しかし、春先以降、インフレの上昇要因であった供給不足が徐々に解消され、原油も4月以降、前年比効果で上昇率が鈍化し、インフレの頭打ち傾向がみられてくると、3月や6月利上げのシナリオが後退するシナリオも、頭に入れておく必要があります。

 そして11月には米国の中間選挙が控えているため、後倒しになればなるほど、利上げは政治的に困難な環境になります。そこに米国の景気停滞も重なれば、場合によっては今年中に利上げができないシナリオも想定しておく必要があるかもしれません。そうなれば、来年の円安はかなり抑制され、年後半は円高に反転することも予想されます。

【2】オミクロン株の影響

 コロナウイルス変異株「オミクロン株」は、重症化率が低いといわれているため、株式市場や消費行動には安心感が広がっています。しかし、感染力が強いため、感染者がさらに急増すると、経済規制がなくとも行動が慎重になり、経済が停滞することも予想されます。

 景気が悪化する中では、インフレ抑制のための金融引き締めを避けたいFRBにとっては、かなり難しい政策運営に直面することが予想されます。

 オミクロン株が最初に発見された南アフリカの感染ペースは鈍化してきているため、欧米もこのような鈍化傾向が今後みられるかどうかに注目です。

【3】米国中間選挙

 民主党内の不安定な構図に加え、トランプ元米大統領の勢いが盛り返し、夏場以降、米国の政局不安定要因が相場の攪乱(さくらん)材料になることが予想されます。

 もし、中間選挙で上下院とも民主党が負ければ、バイデン現米政権はレームダックとなり、米国の政治力と経済は失速する可能性もあるため要注意です。

【4】欧州動向

 欧州のコロナの感染拡大は、米国よりも強いため、行動規制が伴い、経済への悪影響が強く、ユーロの上値を重くする要因になると予想します。ウクライナ問題や、ドイツの新政権、4月のフランス大統領選挙と、地政学リスクや政治要因も加わり、リーダー不在の欧州は不透明な局面が続くと予想されます。

【5】中国動向

 中国では、所得格差拡大による国民の不満が高まっており、昨2021年、習近平主席は「共同富裕」社会実現を掲げ、一気にかじを切り替え、IT企業規制や不動産企業への融資規制などの規制強化によって経済が停滞しました。

 さらに2月の北京オリンピックを控え、コロナ対策の行動規制が強化されているため、経済停滞が長期化する懸念があります。秋には5年に一度の中国共産党全国代表大会が控えていることから政治的な動きにも要注目です。

【6】原油動向

 2021年は、押さえ込まれた経済の急激な需要回復によって原油は急上昇しましたが、2022年はその需要の勢いは一巡し、2021年ほどの上昇圧力は乏しいと予想されます。

 世界経済の回復の勢いが鈍化すれば原油は下落し、4月以降は前年比効果も加わり、インフレの上昇圧力が弱まる可能性があります。欧米の金融政策に大きな影響を与えるため、原油価格動向は注目です。ただし、中東の地政学リスクは燻(くすぶ)り続けているため、原油の下値も限定的となりそうです。

【7】地政学リスクの高まり

 台湾海峡、ウクライナ問題、中東と2021年よりも地政学リスクが高まることが予想されます。世界経済回復の勢いが鈍化すれば、よりリスクが高まることが予想され、ドル高、円高要因になる可能性があります。

2022年の重要政治日程

 政治イベントは、その結果によって瞬時に相場に影響を与えたり、じわじわと経済に影響が及んだりする場合があります。しかも、経済環境を無視して瞬時に影響を与える場合もあるため、最重要視すべき項目です。

 相場シナリオを想定する際に、まず政治イベントを考慮して大きな枠組みを想定します。次に、その大きな枠組みの中で経済イベントを考慮して、中期・短期のシナリオを想定していきます。今年の政治イベントを下表にまとめました。前述した注目ポイントを意識しながら確認してみてください。

2022年の重要政治日程

1月 1日    RCEP(地域的な包括的経済連携)協定が発効(日中豪など10カ国)
   フランスがEU(欧州連合)議長国に就任
6日    米連邦議会議事堂占拠事件から1年
―    イタリア大統領選出(1月~2月上旬)
2月 4日    北京冬季オリンピック開会式(~2月20日)
21日    ニクソン米大統領の訪中から50年
3月 4日    北京冬季パラリンピック開会式(~3月13日)
5日    中国で全国人民代表大会開催
9日    韓国大統領選
11日    WHO(世界保健機関)による新型コロナ「パンデミック」宣言から2年
4月 4日    東証が「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場体制に移行
10日    フランス大統領選第1回投票
24日    フランス大統領選決選投票
5月 15日    沖縄の本土復帰から50年
6月 12日    フランス国民議会(下院)選第1回投票
19日    フランス国民議会(下院)選決選投票
26日    G7サミット(首脳会議、~28日まで ドイツ)
7月 (夏)   参院選
9月 17日    日朝平壌宣言から20年
29日    日中共同声明から50年
10月 (秋)   中国共産党全国代表大会(5年に一度)
30日    G20サミット(首脳会議、~31日まで インドネシア・バリ島)
11月 8日    米中間選挙
21日    サッカーW杯カタール大会開幕(12月18日まで)

2022年の重要経済日程

 為替相場の経済要因として最も大きな要因は金融政策です。特にFRBの金融政策です。

 また、日本銀行、FRB、ECB(欧州中央銀行)総裁は金融政策委員会終了後、毎回記者会見を行い、市場との対話に努めています。この記者会見も重要です。

 声明文を補うような一歩踏み込んだ説明をしたり、先行きの方向性を示唆する内容を発言したりします。記者会見の発言で相場が動くことも多いため、注視する必要があります。

 また、FRB議長の議会証言が年2回(2月、7月)ありますが、これも注目材料です。そして8月下旬には米国カンザスシティ連銀主催の金融シンポジウムがジャクソンホールで開催されます。過去には、各国の中銀総裁が今後の金融政策の変更を示唆する発言をしたこともあり、毎年注目されています。

 昨年のドル/円は終値ベースで6年ぶりの円安で終えました。円安の背景は、

(1)新型コロナウイルスの感染者が増えたが、ワクチン接種率が高まるとともに経済規制が緩和され、経済回復が進んだこと。

(2)一方で、原材料や部品の供給不足やサプライチェーンの混乱、人手不足によって資源や賃金が上昇し、回復した需要に供給が追いつかず物価上昇が続いたこと。

(3)物価上昇は「一時的」とみていたFRBが、11月から長期化懸念との姿勢に転じ、11月にテーパリング開始、12月にはテーパリングの加速を決定。金融緩和正常化のプロセスを早めたことによって、2022年の利上げ時期の前倒しや利上げ回数が増えるとの期待や思惑が高まったこと。

 などが挙げられます。これらの要因が米金利を押し上げ、ドル高・円安をもたらしました。今年もこのような要因が続くのであれば、円安が続くと予想されますが、はたして同じような軌道に沿って、進むのかどうかが今年のポイントになります。

 すなわち、インフレ上昇が続き、抑制するためにFRBが3月か6月にも利上げを開始し、年内2~3回の利上げをするのかどうかが注目です。

 一方で、感染力の強いオミクロン株によってコロナ感染者が急増し、重症化率が低くても経済規制がなくても行動が慎重になり、経済が停滞することも予想されます。もし、経済が停滞し、景気が悪化すれば、FRBはインフレ抑制のための金融引き締めについてかなり悩むことが予想されます。

 以上のように、今年もやはりFRBの金融政策の動向が最大注目材料となります。そして、FRBの金融政策に影響を与える経済成長率、物価上昇率、雇用統計に注目です。

 下表に日米欧の金融政策委員会の開催日、経済成長率や物価の公表日をまとめました。今週のコラムは保存版として活用してください。米雇用統計は、毎月第一金曜日に公表されます。

日米欧中央銀行の金融政策会議開催日

2022年 日銀金融政策
決定会合
米連邦公開市場
委員会(FOMC)
欧州中央銀行
理事会(ECB)
金融イベント
1月 17~18日※ 25~26日  
2月 3日 FRB議長半期議会証言(2/5)
3月 17~18日 15~16日※ 10日※  
4月 27~28日※ 14日  
5月 3~4日  
6月 16~17日 14~15日※ 9日※  
7月 20~21日※ 26~27日 21日 FRB議長半期議会証言
8月 ジャクソンホールFRB議長講演
9月 21~22日 20~21日※ 8日※  
10月 27~28日※ 27日  
11月 1~2日  
12月 19~20日 13~14日※ 15日※  

(注)1. ※は日銀「展望レポート」公表(1、4、7、10月)、FOMC、ECBは経済見通し公表(3、6、9、12月)
2. FOMCは火~水曜日開催  ECB理事会は木曜日開催
3. 会議終了後の総裁の記者会見は日米欧とも毎回実施
4.  黒太字は日米欧の理事会が集中している日程。相場が変動しやすいため注意が必要

日米欧GDP速報値の発表日

  日本 米国 ユーロ圏
2021年
10~12月期
2月15日 1月27日 1月31日
2022年
1~3月期
5月中旬 4月28日 4月29日
2022年
4~6月期 
8月中旬 7月28日 7月29日
2022年
7~9月期
11月中旬 10月27日 10月31日

日米欧消費者物価指数(CPI)の発表日

2022年  日本 米国 ユーロ圏
1月 21日(12月分) 12日(12月分) 7日(12月分)
2月 18日(1月分) 10日(1月分) 2日(1月分)
3月 18日(2月分) 10日(2月分) 2日(2月分)
4月 3月分以降の
公表日は後日
発表予定
12日(3月分) 1日(3月分)
29日(4月分)
5月 11日(4月分) 31日( 5月分)
6月 10日(5月分)
7月 13日(6月分) 1日(6月分)
29日(7月分)
8月 10日(7月分) 31日(8月分)
9月 13日(8月分)  30日(9月分)
10月 13日(9月分) 31日(10月分)
11月 10日(10月分) 30日(11月分)
12月 13日(11月分)