「バブル期」の熱狂を知らない世代

「バブル期」真っ只中だった1980年代後半、筆者は小学生でした。このため、バブル期の記憶は、両親が毎年のように、職場の社員旅行で海外に行き、各国の珍しい土産を買ってきたなどの、間接的なものにとどまります。

 とはいえ、当時流行したいくつかのキーワードは、鮮明に覚えています。幼心に巣食うくらい、強烈なインパクトを感じたのでしょう。その一つが「3高」です。3つの分野(学歴、収入、身長)が高い男性を「3高」と言ったそうです。

 ある調査によれば、2010年代に入り、時代が求める要素は「4低」(低姿勢・低依存・低燃費・低リスク)になったそうです。そして令和になり、また別の価値観が台頭しているといいます。どの分野でもそうですが、時代が求める人物像は、時代の変化とともに変わるわけです。

 近年、金(ゴールド)相場の動向を説明したり、見通しを示したりするときに、「3高」というキーワードが役立つようになったと、感じます。ただし、読み方は「サンコウ」ではなく、「サンダカ」です。価格が高い、という意味だからです。

ドル高・株高・金高で、「3高(サンダカ)」

 例えば、2021年12月、世界全体の景況感を示す指標の一つとされるNYダウ(ダウ工業株30種平均)、複数の主要国の通貨に対する総合的な強弱を示すドル指数、そして、世界の金(ゴールド)価格の指標の一つとされるNY金先物は、いずれも上昇しました(2021年12月28日時点)。

 NYダウがプラス5.6%、ドル指数がプラス0.2%、NY金先物がプラス1.7%でした(「3高」)。米国でテーパリングの議論が加速した2021年9月以降でも、NYダウがプラス7.3%、ドル指数がプラス2.0%、NY金先物がプラス2.7%でした(「3高」)。

図:NYダウ、ドル指数、NY金先物の騰落率

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 金(ゴールド)市場は、「ドル高は金安」、「株高は金安」という教科書的な常識が通じにくい環境のまま、2022年に突入した可能性があります。

上昇圧力と下落圧力を足し引きしなければならない

 ドル高でも株高でも、金(ゴールド)高が起きるのは、ドル高と株高起因の下落圧力と、それを相殺して余りある上昇圧力が、同時に存在しているためだと考えられます(下落圧力は消えていない)。

 現在、たくさんの不安材料が融合し、膨張して、「有事のムード」が形成されています。世の中に「有事のムード」が漂うことで、資金を逃避させる需要が生まれ、有力な逃避先と目される金(ゴールド)が物色されていると、考えられます。

「有事のムード」起因の上昇圧力が、ドル高・株高だったとしても、金価格を上昇させているわけです。上昇圧力と下落圧力の影響度を、足し引きする必要があるのです。

図:金(ゴールド)市場を取り巻く環境

出所:筆者作成

金(ゴールド)の教科書も改訂が必要

 平成30年に告示された学習指導要領には、2022年度(来年度)より、高校生の家庭科の授業で「投資信託」などの投資に関わる内容を扱うと、書かれています。若い人たちの投資リテラシーを向上させ、より一層、日本の投資家のレベルを引き上げることに貢献し得る、重要な策だと言えます。

 文部科学省の資料には、持続可能な社会の構築に向けて、消費生活と環境を一層関連付けた消費者教育を推進し、生涯を見通した生活における経済の管理や計画、リスク管理の考え方を身に着けることが、目的の一つである旨が書かれています。時代が求める教育内容は、(男性像の件と同様)時代の変化とともに、変わります。

 時代の変化に伴って、教育内容がアップデートされるように、金(ゴールド)相場の動向を説明するための事柄もアップデートされなければならないと、筆者は考えています。先述のとおり、昨今の金価格の推移は、ドルとの関係だけ、株との関係だけで、説明することができなくなっているためです。

「3高(サンダカ)」は、実際に起きています。常にとはいかないまでも、今年を含めた今後も、起きる可能性があります。古い教科書にしばられたままでは、金(ゴールド)相場の動向を見誤ります。

 今年、「3高」は、金市場に関わる全ての人々の認識を正しい方向に導く、重要なキーワードになると、筆者は考えています。

金(ゴールド)で資産保全を図る中央銀行

 先日、世界の中央銀行の金(ゴールド)保有量が、記録的な水準まで積み上がっていると、報じられました。記事の冒頭には、「無国籍通貨(いかなる国の信用の裏付けを必要としない通貨)」の異名を持つ金は、世界の金融市場が混乱した時に注目される旨が、記されていました。

 世界的な金(ゴールド)の調査機関であるWGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)が公表する統計には、合わせて120を超える、国・地域の中央銀行や、それに相当する機関が保有する外貨準備高の額、それに含まれる金の額と量、および金以外の外貨準備高の額が記載されています。

 中央銀行は、「物価と雇用の安定」「銀行の銀行」という役割を安定的に果たし続けるため、日頃から、さまざまな環境の変化に対応できるようにしておく必要があります。外貨準備高を保有しているのはこのためです。

 その中央銀行が金(ゴールド)の保有高を記録的な水準まで増加させていることは、それだけ、足元の世界の金融市場が混乱しており、かつ今後も混乱が続くとの見方が優勢であるためでしょう。大手経済紙の一面は、こうした中央銀行の思惑を解説したわけです。

 記事は、外貨準備高に占める金(ゴールド)の割合が目立って上昇した国を取り上げていました。最も大きく取り上げられたのが、カザフスタンです。同国の2010年第3四半期の割合は10.2%でしたが、2021年第3四半期は62.4%となりました。トルコやロシアが、それに続きました。

 信用力の比較的低い新興国の中央銀行が、自国が新型コロナの感染拡大によって混乱していることや、米国の長期金利が大規模な金融緩和により、長期的にみて低水準に達したことなどを背景に、金(ゴールド)で資産保全を図るようになったことは、確かでしょう。

中央銀行の金保有に関する留意点

「割合」とは何でしょうか?「2つの変数において、一方がもう一方に対し、どの程度の量・大きさなのかを示す値」と言えます。割合は2つの変数によって求められます。外貨準備高に占める金(ゴールド)の割合であれば、外貨準備高の合計額と、それに含まれる金の額です。

 外貨準備高に占める金(ゴールド)の割合が上昇したからといって、必ずしも、金の額が増えているとは限りません。外貨準備高の合計額が減少したケースがあるためです。また、金の額はその時の金相場で計算されているため、金相場が上昇すれば、同割合は上昇しやすくなります。

 中央銀行やそれに相当する機関が、足元や今後を混乱期ととらえ、対策を強力に推し進めているかどうかを推測するためには、金の保有量(金額ではない)が増加し、かつ、金(ゴールド)以外の外貨準備高が増加している国がどれだけあり、それらがどういった共通点を持っているのかを、調べる必要があります。

 ちなみに、記事中で大きく取り上げられたカザフスタンですが、2010年第3四半期と2021年第3四半期を比べると、金の保有量こそ増加したものの(67トン→397トン)、金以外の外貨準備高は減少しました(249億ドル→134億ドル)。外貨準備高に占める金の割合が上昇する2つの条件が整っていました。

図:主要国の中央銀行による金(ゴールド)保有量などの変化(2010年9月と2021年9月の比較)

出所:WGCのデータより筆者作成

「経済規模が大きい新興国」に注目

 WGCのデータによれば、当該期間において、金の保有量が90トン以上増加した国は12カ国ありましたが、金の保有量と金以外の外貨準備高の両方が増加したのは、ロシア、中国、トルコ、インド、タイ、ポーランド、メキシコ、ブラジル、イラク、韓国の10カ国でした(金保有量の増加幅が大きい順)。

 それ以外の2カ国、カザフスタンとハンガリーは、金以外の外貨準備高が減少しました。

 記事に示されていないインド、メキシコ、ブラジル、イラク、韓国が、金(ゴールド)の保有量と、金以外の外貨準備高の両方を、増加させていました。足元や今後を混乱期ととらえ、対策を強力に推し進めているのは、カザフスタンやハンガリーなどよりも、「経済規模が大きい新興国」だったと言えるでしょう。

新興国中銀の金保有は、長期で金相場を支える

 新型コロナの感染拡大や物流の停滞、主要国の金融政策や脱炭素起因の混乱などで、先進国経済に、うっすらと先行き不透明感が生じています。

 このため、それらを貿易相手国とする「経済規模が大きい新興国」は、自国の物価と雇用、金融システムを守るために、金(ゴールド)の保有高と金以外の外貨準備高を増やしていると、考えられます。こうした動きは、長期的な、金相場を底上げする要因として意識し続けられると、筆者は考えています。

図:NY金先物(期近)の価格推移 単位:ドル/トロイオンス

出所:マーケットスピードⅡより筆者抜粋

 2022年の年初にあたり、金(ゴールド)市場に関する筆者の見解を述べました。本年も、過去の常識にとらわれない、新しい切り口で、コモディティ市場を解説していきます。何卒、よろしくお願いいたします。

 [参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

 楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

商品CFD(金・銀)