2022年の相場予測、重要な下準備

 2021年が間もなく終わります。世界経済は回復に向かいだした途端、新型コロナウイルスの変異株、米金融政策の方向転換など新たな不安に直面しています。先行き不透明な状況が続く中、2022年の株式相場をどう予測すればよいでしょうか。楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト、窪田真之に聞きました。

――相場予測を考える上で重要なことは何ですか。

 毎年、新年の見通しを考える前に必ず行う、重要な下準備があります。はじめに、いま考えられる最もひどいシナリオを、続いて最も楽観的なシナリオを考えるのです。現在のようにリスク材料がたくさんある時こそ、「地獄」と「天国」の振り幅がどれだけ大きいかをしっかり押さえることが大切。その上で、現実的なシナリオをつくります。

 通常は最後にできたシナリオだけが世に出回りますが、今回は下準備でつくる地獄と天国のシナリオを全て公開します。私がどのように市場を予測しているのか、その思考プロセスをわかってもらえるのではと思います。

地獄シナリオ:米国失速、米中対立激化。注目は中間選挙

新年の見通しシナリオをつくるためには、重要な下準備があります。料理を作る前に、材料を集めて下ごしらえするのと同じ。そのプロセスを全てお見せします。

――では、その最悪を想定した地獄シナリオから教えてください。

 現在好調な米国景気は、2022年に大きく失速する可能性があります。コロナ禍の危機対応策として行われてきた財政支出と金融緩和の大盤振る舞いが終わるためです。

 財政面では、給付金などの財政支出が息切れとなりそうです。公的な支出が一気に減る『財政の崖』は、GDP(国内総生産)の押し下げ要因となるでしょう。

 さらに、消費も伸び悩む可能性があります。コロナ禍で抑えていた反動で「リベンジ消費」が盛り上がりましたが、ぜいたく品などの消費は長く続かないからです。

 こうして、現在の好景気は、バブル時代をほうふつとさせる「中身のない幻想」だったと分かってくるかもしれません。

――2022年、経済面で注目イベントはありますか?

 2022年11月の米議会中間選挙です。足元では政権与党である民主党の支持率が低下しており、野党の共和党に大敗する可能性が高まっています。バイデン政権が弱体化すれば、大胆な財政支出案が実現しにくくなり、景気を押し下げる要素となります。

 この中間選挙は、米国と中国の対立関係にも大きな影響を及ぼすでしょう。中国に対して強硬姿勢の共和党や、民主党の中の強硬派が力を増せば、米中関係の悪化につながるからです。

――日本への影響は?

 米中関係が悪化すれば、中国でビジネスを展開する日本企業にとって苦しい状況となります。中国に生産拠点を置く小売りや工作機械、ロボット、自動車関連の企業の株が、先行き不安で売られる可能性があります。

いま、米国はモノ不足と言われていますが、これは一時的なものです。物流の停滞で消費地に届かないことなどが理由ですが、モノ不足と勘違いして設備投資を加速し過ぎた企業があれば、大不況に逆戻りです。

――中国の不動産大手・恒大集団の債務不履行問題はどうなりそうですか?

 中国企業で債務問題を抱えているのは、恒大集団だけではありません。他の不動産大手も一斉に同じ事態に陥ったら、今のように楽観視していられないでしょう。景気悪化と金融危機が同時に起きる『バブル崩壊』となる、最悪の事態があり得ます。

――コロナの感染動向は株式市場に影響しそうですか?

 変異株の『オミクロン型』は毒性が弱く感染力が強いことから、警戒感は続くものの、感染は収束に向かうと予想しています。

――日経平均株価はどうなると思いますか?

 最悪のシナリオでは、米国景気が失速、中国景気が悪化、日本景気は腰折れ、という流れを受け、日経平均は2万1,000円まで下落すると考えられます。

天国シナリオ:世界景気は好調、国内で消費爆発!

――天国のシナリオでは、世界景気はどうなりますか?

 米国景気は高成長を続けます。中国景気も減速しつつ好調を維持するでしょう。2022年のGDP成長率は、米国が3%、中国が5%と予想しています。中国恒大集団の債務問題は中国政府がソフトランディング(軟着陸)し、世界経済全体には大きな影響を与えない可能性があります。

――天国シナリオの場合、国内の景気はどうなりますか?

 米国と中国の景気がよければ、日本もその恩恵を受けます。2021年の日本は中途半端な回復度合いでしたが、2022年は米国のように消費爆発が起こるとみています。

 感染者数が減っているにもかかわらず、行動制限を続けている国は日本だけです。多くの人が給付金をもらったのですが、統計上、個人預金にしてしまい、消費に回っていないことが分かっています。

 我慢が上手な日本人でも、「もう大丈夫だ」と分かった瞬間、消費に対するエネルギーが爆発するかもしれません。そうなると、まずは米国のようにモノの消費が拡大し、続いて国内観光産業やコロナ前から活況だったイベント市場が盛り上がるでしょう。

 僕はあんまりよく分からないんだけど(笑)2021年に多数中止になった音楽フェスに若い人はみんな行きたいんだと思うから、これも再開する可能性が大。良い材料はそろっています。

現在の日本株は割安な『逆バブル』状態です。銀行や商社、海運など、財務内容がよく高配当にもかかわらず、PER(株価収益率)が低い銘柄があります。25年間ファンドマネジャーを務めてきて、こんな日が来るとは思ってもみませんでした。

――日本への良い影響をもっと聞かせてください!

 2021年は国内の消費が盛り上がらなかったため日米の株価パフォーマンスに差がありましたが、2022年に日本で消費爆発が起これば、日本株が大きく上昇するでしょう。僕が毎日、「3分でわかる!今日の投資戦略」の記事で言及しているように、日本株は実際の価値より割安と考えています。「割安」を通り越して、「逆バブル」状態の株が増えていると思います。日本での消費爆発は、日本株の逆バブル状態を修正する一つの要因となりそうです。

 楽観シナリオでは、日経平均は3万9,000円と史上最高値を更新すると考えられます。


現実的なシナリオ:日経平均はどこまで上がる?

――最後に、2022年の現実的なシナリオを教えてください。

 日経平均は年前半に上値3万4,000円まで上がり、年後半は3万円くらいまで下がると予想します。前半は米国財政が大盤振る舞いを続けられるため世界景気が好調を保ちますが、後半は財政も息切れし始め、景気は徐々に失速する可能性があります。

 コロナの感染終息がみえることで、国内では行動制限が緩和され消費爆発が起こると予想します。モノの消費拡大に加え、旅行などイベント消費も拡大することで日本景気はよくなり、株式相場が上昇するでしょう。

 ただし、爆発も長くは続かず、消費に浮かれていた人もそのうち冷静さを取り戻し始めるでしょう。そのため、「景気はいいけど株が上がりにくい」というのが2022年後半の予想です。日経平均が史上最高値を更新し4万円に到達するのは、2025年ごろと予測しています。

2022年注目の投資テーマ

――個人投資家へのアドバイスをお願いします!

 日本株は引き続き、買い場と考えます。バリュー(割安)株、グロース(成長)株どちらも安く、特に大型の高配当株の割安度が目立ちます。配当利回り4%を超える景気敏感株がかつてない割安状態にあり、個人投資家はぜひ注目してチャンスをつかんでほしいところです。

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 東証マザーズ市場はインターネット関連のグロース株が多く、今後さらに成長が期待できると考えています。2021年に株価が下がった銘柄が多いので、狙い目といえます。

 2022年、特に注目してほしいのは、第4次産業革命です。日本は出遅れていた分野ですが、次世代通信規格『5G』の普及を追い風に、関連サービスが急速に広がりそうです。ソニーグループ(6758)トヨタ自動車(7203)など、製造業として高い技術をもちながら、IT分野で新たな成長を目指す企業も注目されるでしょう。

 また、日本企業のフロンティアは何といってもアジアです。中国や、インドネシア、マレーシアなどの東南アジアでは、中間層が富裕層となることで消費が拡大しています。アジアに生産拠点を置く製造小売業やサービス、食品、外食など日本の消費関連産業がアジアで強みを発揮し、成長する年になりそうです。