金融市場が落ち着きを取り戻すかどうかは、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)のドル金利が低下するか否かにかかっている。いくらFF金利を下げても、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)のドル金利が低下しないことには実体経済はまわっていかない。米国の住宅ローン、車のローンなどすべてこのロンドン銀行間取引金利と連動して動いている。銀行の資金調達コストが下がらないと米国経済は立ち行かないだろう。

ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)3カ月物ドル金利=(青)・FF金利=(赤)の月足


(出所:石原順、ブルームバーグ)

先週からLIBORの金利がやや落ち着き、日足ベースでは低下傾向にある。FF金利=1.5%からの乖離は依然大きく危機は去ったとは言い難いが、LIBORの金利がこのまま低下基調に入るなら銀行間融資の逼迫状況は緩和され、市場も落ち着きを取り戻す可能性が出てくる。

ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の3カ月物ドル金利(日足)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

LIBORの金利が低下していけば、1987年ブラックマンデーからの上げ幅の半値押しを達成したNYダウもここからいったんは反発に向かってもおかしくない。今週以降の動きに注目したい。

NYダウ(日足)フィボナッチ級数による支持銭とファンライン


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ただし、米国経済は今オーバーレバレッジの解消中である。FRBの監督下にある米国の商業銀行は概ねレバレッジ10倍の経営である。米国の大手投資銀行(証券会社)はビジネスモデルが破綻し、銀行への転身や銀行へ吸収されることになった。これまでのレバレッジ30倍の経営を3分の1にスケールダウンしなければなるまい。住宅市場も調整に相当な時間を要すため、個人消費も低迷するだろう。バランスシートが痛んでいる金融や不動産ビジネスが経済の牽引車になることはないだろう。歴史をみれば大不況の後の経済復興はいつも政府主導の財政出動となる。公共事業や減税で人工的に需要が作り出されるが、それでも景気が回復しないと究極は戦争や紛争となる。戦争は経済学的には国家が行う最大の公共事業であるが、現在の世界的な株の暴落相場のなかで、たとえばロッキードマーチンなどの軍事関連株が比較的堅調な相場となっているのは株価の先見性かも知れない。

S&P/ケース・シラー総合20住宅価格指数(月足) 景気の先行指標


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ロッキードマーチン(日足) 財政拡張と地政学リスクの象徴?


(出所:石原順、ブルームバーグ)

いずれにせよ、市場経済、ファンド資本主義といった過去7年間の相場展開と全く異なるものに市場は変容していく。これまでの相場に対する固定観念は捨てるべきであろう。経済は循環である。決して同じようには繰り返さないが、概ねパターンは似ている。とくにバブルの形成過程とその後の修正過程というのは皆似たような動きとなっている。今後の為替・株式相場の大局をみるうえで参考となるのではないだろうか。

NYダウ(月足) 1929年10月24日の米国株式市場が大暴落したことを契機に世界規模の恐慌に発展した。


(出所:石原順、ブルームバーグ)

日経平均株価(月足) 不動産バブルの崩壊から日本は失われた10年に・・。


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ナスダック(月足)ITバブルの崩壊 NYダウやSP500が史上最高値を更新してもナスダックが追随することはなかった。


(出所:石原順、ブルームバーグ)