毎週金曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄:メタ・プラットフォームズ(FB、NASDAQ)、マイクロソフト(MSFT、NASDAQ)、アップル(AAPL、NASDAQ)、アクセンチュア(ACN、NYSE)、エヌビディア(NVDA、NASDAQ)、AMD(AMD、NASDAQ)、クアルコム(QCOM、NASDAQ)、マイクロン・テクノロジー(MU、NASDAQ)
1.「メタバース」とは何者か?
今回は2022年のテック株投資を考える上で欠くことのできないテーマ、「メタバース」ついて考察します。
メタバース (Metaverse) とは、もともとはSF作家ニール・スティーヴンスンの1992年の著作「スノウ・クラッシュ」(1992年)の作中に登場するインターネット上の仮想世界のことです。これが転じて、インターネット上の仮想空間サービスの通称としても「メタバース」の名称が用いられるようになりました。
メタバースでは、仮想空間に自分自身のアバター(分身)を置き、そのアバターがさまざまな行動(遊びやビジネスなど)を行います。また、3Dゴーグルを装着することによって、VR、AR体験が可能になります。
メタバースが関連する分野は、ビジネス、教育・研修、エンタテインメント(ゲーム、音楽・ライブ、映画・ドラマなど)など、現実社会でデジタルに置き換えることができる分野になります。
メタバースの過去の事例としては、アメリカのリンデンラボ社が運営する「セカンドライフ」(2003年6月運営開始)があります。アバター、景観、建物、ファッションなどさまざまなものをユーザー自身で制作し、譲渡、販売することが可能で、アバター、文字チャット、音声チャット、アニメーションなどを表現することができました。また、コンサート、各種ショー、セミナー、研究集会などのイベント、各種のビジネスが行われていました。最盛期は2008年といわれており、2009年末時点で、同時ログインユーザー数は最大6万~7万人、1週間あたりのログインユーザー数は40万~60万人程度でした。その後は、SNSにユーザーを奪われる形で、下火になっていきました。セカンドライフが衰退した要因の1つは当時のネットワークやサーバーの容量が不足していたためともいわれています。
また、ゲームの中で「ファイナルファンタジー14」(スクウェア・エニックス)のようなMMORPG(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム、大規模多人数同時参加型オンラインRPG)や「あつまれ どうぶつの森」(任天堂)もメタバースの一種とされます。
2.今回のメタバースブームの特徴と課題
ところが、今回のメタバースブームは過去に起きたブームとは大きく異なります。それは、仮想空間に参加すると想定される人数の大きさと、投下される資金の額が、従来とはケタ違いに大きいからです。
2021年7月、フェイスブック(現メタ・プラットフォームズ)は、「メタバース」に会社を挙げて注力する姿勢を示しました。その後8月に、フェイスブックは仮想オフィスサービス「Horizon Workrooms」を公開しました。そして、10月28日付けで、フェイスブックは「メタ・プラットフォームズ」に社名変更しました。
メタ・プラットフォームズのこの動きに対して、大手ITの中ではマイクロソフトが追随します。マイクロソフトは、2022年前半にも、自社のメタバースでTeams、パワーポイント、エクセルが使えるようにする計画です。
そして、メタ・プラットフォームズは、2021年10月25日に開催された2021年12月期3Q決算の決算電話会議の席上で、2021年12月期から年間100億ドル以上をメタバースに投資すること、2022年12月期の設備投資が2021年12月期の190億ドルを大きく上回る290億~340億ドルになり、その中心はデータセンター投資とネットワーク投資になることを明らかにしました。投資額の大きさから考えると、いずれはフェイスブックのデイリーアクセスユーザー数19.3億人(2021年12月期3Q)をまるまる収容することができるような仮想空間ネットワークを構築することになると思われます。
さらに、メタ・プラットフォームズがメタバースに対する強気の投資計画を公表したのと前後して、いくつかの調査会社がメタバースの市場規模について強気の予測を公表しました。グラフ2はその1つです。調査会社のEmergen Researchは、2020年に476.9億ドルだったメタバースの総市場が2028年には8,289.5億ドルに拡大するとしています。
このような事態となり、アメリカの株式市場ではメタバースに対する関心が急速に高まっています。いまやテック系企業がこぞって決算電話会議やIRデイにおいて自社とメタバースとの関連を指摘するようになりました。
このように、今回のメタバースブームは過去のブームと規模がまったく違います。メタ・プラットフォームズは、個人情報の使い方を巡って、あるいは青少年の保護を巡って厳しい批判にさらされています。また、iPhoneユーザーはフェイスブック上で商取引を行っている事業者の広告による追跡を遮断することができるようになったため、フェイスブックの広告効果が低下し、広告売上高の伸びが鈍化することになっています。メタ・プラットフォームズとしては、メタバースという新しいフロンティアで自分の思い通りの事業を展開したいという考えでしょう。
ただし、メタ・プラットフォームズのみがメタバースに参入するわけではありません。もしメタ・プラットフォームズのメタバースが順調に立ち上がって、他社が参入しない場合、メタ・プラットフォームズのメタバースに、ビジネス、エンタテインメントのさまざまな需要の大きな部分が吸収されてしまう可能性があります。そのため、大手IT、大手ゲーム会社などさまざまな企業がメタバースへの参入を表明しています。
メタバースの課題は、大規模ネットワークシステムの構築、それに対する継続的な投資、個人情報保護などのセキュリティなどです。メタバース内のお金のやり取りには独自の暗号資産を使う場合もあると思われるため、さまざまな法規制も必要になるでしょう。これらの問題点は、メタバースが本格始動した後に、明らかになると思われます。
グラフ1 メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)の年間設備投資
グラフ2 メタバースの世界市場規模予測
3.メタバースでどうやってもうけるか、メタバースは何をもたらすか
メタバース関連の事業展開にはいくつかのタイプが考えられます。
1.プラットフォームの構築と運営:メタ・プラットフォームズ、マイクロソフトのようなプラットフォーム会社が、メタバース空間そのものを構築して、そこでビジネスやエンタテインメントを展開する事業者の各種電子商取引、コンテンツ販売などの収益に対して一定率の取り分を受け取る。あるいは広告を販売する。
2.コンテンツ販売:コンテンツ会社が、メタバースのユーザーに対して、ビジネスツール、ゲームソフト、音楽、動画などを提供して課金する(単品課金や月額課金)。
3.アバターへの課金:アバターに課金する考え方もある。エヌビディアの仮想空間開発ツール「オムニバース」では、アバターに年間1,000ドルを課金する構想である。この場合のアバターは、人間とは限らず、店舗や自動車の場合もある。
4.仮想空間の開発ソフト、開発機材の販売、3Dゴーグルの開発、販売など
メタバースをうまく立ち上げることができれば、メタのようなプラットフォーム会社は今以上の高収益企業となる可能性があります。メタ・プラットフォームズのデイリーアクティブユーザー数は2021年7-9月期で19.3億人、ARPU(ユーザー1人当たり売上高、3カ月間)は10.00ドル/人(うち広告は9.74ドル/人)です。この中で北米のデイリーアクティブユーザー数は1.96億人、ARPUは52.34ドル/人(同50.34ドル/人)です。メタバースによってまず北米の収益力が増すことになれば、メタ・プラットフォームズ全体の業績に大きく寄与すると思われます。
また、コンテンツプロバイダーから見て、メタ・プラットフォームズのような大手IT企業のユーザー数の多さは極めて魅力的と思われます。
今回のメタバースブームで重要なのは、SNSをそのままメタバースに移し替えることだけではありません。技術的には「デジタルツイン」が重要になります。現実の都市、機械、設計図の詳細なデジタル情報を収集して、それを仮想空間上に立体的に再現する技術です。
このデジタルツインを使えば、自動車や半導体の設計図を仮想空間上に3次元的に再現して、そこにかかわった全ての技術者(下請けも含めて)が集まり、さまざまなシミュレーションを繰り返すことができると思われます。あるいは、複雑な工場を仮想空間上に再現して、これもさまざまなシミュレーションを行うことができます。これが実現すれば、製造業に革命が起こると思われます。
教育、研修にも大きな成果が期待できます。例えば医療の分野です。臓器を立体的に表現して学ぶことができます。
こう考えると、メタバースの産業利用をはじめとした応用を先行して行った企業、国と、遅れた企業、国では、生産性と成長率に大きな格差が付く可能性があるのです。
グラフ3 メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)のDAU、MAU
グラフ4 メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)のARPU
表1 メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)の業績
4.メタバース関連企業―全てアメリカの手の中に?―
表2はメタバース関連企業の一覧です。
各社が今後追求することになるメタバースがどのような性格になるのか、十分わかっているわけではありません。プラットフォームでは、メタ・プラットフォームズが構築しようとしている総合型、マイクロソフトのビジネス系、エピックゲームズ(未上場)、ウォルト・ディズニー、ロブロックスのゲーム・エンタテインメント系などがあると思われますが、今はまだ確定したわけではありません。
ちなみに、ロブロックスはまだ赤字ですが、子供向け中心にスマホゲームを展開している会社です。以前からメタバースへ注力しており、自社のメタバース空間の中にナイキ、ライブネーション・エンタテインメントが出店しています。エピックゲームズは人気オンラインゲーム「フォートナイト」を軸にメタバースを構築すると思われます。一方、ウォルト・ディズニーのメタバース構想は詳細が明らかになっていません。
次にコンテンツ会社があります。メタバース内で使うビジネスツール、ゲーム、音楽、映画などのコンテンツを提供する会社です。これらのコンテンツ会社はさまざまなメタバースが軌道に乗ってから名前が出てくると思われます。メタバースの中で単純にモノ(靴やバッグなど)を売る会社も増えると思われます。
また、自らメタバースを運営しようとする会社だけでなく、メタバース空間を構築するための開発ソフト、開発機材、あるいはメタバース空間に入っていくための3Dゴーグル、パソコン、スマートフォンの会社も重要になります。
アップルは、メタバースに対する対応を明確にしていませんが、VR、ARへは投資しており、2022年にも何らかのVR関連機器を発売するのではないかと観測されています。また、テレビやネットで見るメタバース内のアバターは3Dとはいえアニメ絵ですが、これはいずれ背景を含めて高精細CGになると思われます。高性能の画像処理PCの大きな需要が発生する可能性がありますが、筆頭候補が最新型のMacの最上位機種です。また、メタバースに入っていく端末としても、iPhone、Macは有力な候補になると思われます。
開発ソフトでは、エヌビディアの「オムニバース」があります。また、ゲームソフト開発ツール大手のユニティ・ソフトウェアが2021年11月に買収したVFXスタジオ、ウェタ・デジタルのテクノロジー部門は同社のメタバース戦略の中核になると思われます。
このような新しく有望な巨大市場が現れた時には、ITコンサルティング会社の活躍の場も広がります。アクセンチュアに注目したいと思います。
今後を展望すると、メタバース内に各国から人が集まってきたときに、アバターに翻訳ソフト、通訳ソフトが搭載される可能性があります。その場合、これまでサイバースペース上で国と国とを隔ててきた言葉の壁、文化の壁が取り払われ、強く優秀なものが全てを獲得する弱肉強食の世界になる可能性があります。要するに、メタバースが世界全体に展開したときには、その中核はアメリカ企業、その秩序や法規制を作り出すのはアメリカになると思われます。このように見ていくと、メタバース関連の株式投資では、アメリカ企業を主軸に考えたほうがよいと思われます。
表2 メタバース関連企業
5.メタバースに投資するならITか半導体か
メタバースに投資する時には、どの分野に投資すべきでしょうか。
改めて投資対象を大きく分けると、次のようになります。
- プラットフォーム構築会社(大手IT会社、大手ゲーム会社など)
- 半導体関連会社(先端半導体メーカーと半導体製造装置メーカー。最先端CPU、GPUだけでなく最先端メモリ(DRAM、NAND)も重要になる)
- コンテンツ会社(ゲーム、音楽、映像関連会社)
- 開発ツール、開発機材の会社、3Dゴーグルの会社
などです。現時点では、メタバースブームにおける有望企業、スター企業がどのような企業群か明確にはなっていません。そのため、特定の分野に投資を集中するよりも、幅広く銘柄を組み入れてポートフォリオを構築するほうが良いと思われます。
投資候補銘柄としては以下の通りです。
コア企業
メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、アップル、アクセンチュア、エヌビディア、AMD、クアルコム、マイクロン・テクノロジー、TSMC、半導体製造装置メーカー(ASMLホールディング、アプライド・マテリアルズ、KLAコーポレーション、シノプシスなど)
準コア企業
ロブロックス、ユニティ・ソフトウェア、オートデスク、ウォルト・ディズニー、ソニーグループ、バンダイナムコホールディングス、日系半導体製造装置メーカー(東京エレクトロン、レーザーテック、アドバンテスト、SCREENホールディングス、ディスコ)
ここでいうコア企業とは、世界的規模でメタバース事業を展開するための十分な規模、技術力と資金力を持ち、自らメタバースへの積極的な関与あるいは関連をコメントしている会社です。足元の業績も順調であり、2022年3月からアメリカで予想される実質的な金融引き締めに株価が耐えられると思われる企業群です。メタバース投資には、まずこのようなコア企業に分散投資したほうがよいと思われます。
次に準コア企業とは、メタバースへの進出を宣言してはいますが、構想がはっきりしない会社(ウォルト・ディズニーなど)、構想は明確だが収益力が低いか赤字の会社(ロブロックス、ユニティ・ソフトウェアなど)、メタバースとの関連はあるが会社側が明確な姿勢を示していない会社(オートデスク)、日本株(メタバースと強い関係があるものの、様子見の態度をとっている会社、値嵩株で最低投資額が大きい会社が多い。十分な資金がない場合は無理に投資する必要はないと思われる)です。コア企業だけでは不十分と考える場合は、準コア企業から選ぶのがよいと思われます。
日本企業の中では、ソニーグループやバンダイナムコホールディングスのような、複数のエンタテインメント事業に展開している、技術と事業の間口が広い会社が重要と思われます。
ただし、日本のゲーム会社の場合、ソニーグループ、任天堂、カプコンなどはメタバースに対しては様子見の姿勢です。様子見している間に、世界の大勢が決せられてバスに乗り遅れてしまうリスクが日本のゲーム会社にはあります。ちなみに、バンダイナムコホールディングスはメタバースへの関心を表明しているため、その点では安心感があります。
メタバースという大きなテーマが2022年のテック株投資で重要になります。まんべんなく網を張りたいと思います。
本レポートに掲載した銘柄:メタ・プラットフォームズ(FB、NASDAQ)、マイクロソフト(MSFT、NASDAQ)、アップル(AAPL、NASDAQ)、アクセンチュア(ACN、NYSE)、エヌビディア(NVDA、NASDAQ)、AMD(AMD、NASDAQ)、クアルコム(QCOM、NASDAQ)、マイクロン・テクノロジー(MU、NASDAQ)
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