今週はリーマン、メリル、AIG、ワシントンミューチュアル、モルガンスタンレーなど破綻・救済・合併報道が飛び交い、それに一喜一憂する相場展開が続いている。その裏側では著名投資家であるG・ソロス氏が「ダモレスクの剣(迫り来る危機)だ」と指摘していたCDS市場が動揺している。

金融工学という分野は金融機関の仕事のなかでも最も収益性の高い分野で、インターネットで欧米の金融関連の就職を探してみると最も給料が高い職種である。博士号を持っていないとなかなか採用されない。高額の報酬を得られることから、本来なら航空宇宙分野やロケット工学などに進むべき優秀な人材がクオンツと呼ばれ金融の世界で働いている。

(CDSについては第31回「レバレッジの解消とセーフティネット」をご覧ください)

むずかしい話はとにかく、これだけの規模をもつCDS市場がおかしくなると大変なことになる。3月のベアスターンズ救済時にもCDS市場の危機があったが、なんとか回避された。しかし、GSE・リーマン・AIGなどの今回の信用不安で、このCDS市場の問題が大きく頭をもたげてきた。AIGは「米国が1929年の大恐慌の2倍の衝撃を受けるような事態にならない限り、CDSが損失を出すことはない」とコメントとしていたが、AIGが今回危機に陥ったのは同社の関連するCDSの保証料が30%まで跳ね上がったからである。9月17日の市場でも米大手証券会社の株が急落したが、これはCDSの保証料が過去最高の水準まで上昇したためである。

問題は、こういった複雑な商品の多くが簿外(金融機関本体の帳簿に載っていない)の運用会社であるSPC(特別目的会社)で運用されていることにある。現在の会計基準ではまだ簿外の運用会社が本体(金融機関)と連結対象になっていないので、どこにどれだけ損失があるのかがわからない。これが現在の金融危機と信用収縮の核心部分である。水面下の損が倒産するまではわからないので、どの金融機関も危ないという疑心暗鬼が市場を支配している。市場の疑心暗鬼は簿外のSPC(特別目的会社)やヘッジファンドに対してなんらかの【新しい会計基準】を作って連結対象としない限りおさまらない。いずれにせよ、これから政治主導で国際ルールを作る方向に進んでいくだろう。

世界経済の回復は米国の住宅市況の回復にかかっているが、これは住宅価格が安くなれば買い手が出てきて解決するのである。しかし、住宅価格が安くなる過程で不動産市況や金融機関の決算はさらに悪化する。資本主義の心臓ともいうべき金融機関はスケールダウンと再編による寡占化が同時に進んでいく。エントロピーの法則ではないが、「事はよくなる前に悪化する」のである。だが、悲観することはない。資本主義が続く限りマーケットがなくなることはないし、各国政府は経済成長をさせるための政策を打ち出していく。相場とは循環であり、バブルとその破裂の繰り返しだ。慌てることなく景気サイクルを確認し、その時々の投資サイクルにふさわしい商品を買っていけばよい。今後しばらくは信用収縮による現金のバブルとオーバーレバレッジの解消が続くことになろうが、この先到来する(それがいつなのかが問題だが・・)米国株の20年周期のボトム(前回は1987年)は歴史的な買い場となるだろう。

最も安全な金融商品である3カ月物米財務省短期証券(TB)に買いが殺到
利回りは第2次世界大戦以来の最低水準を記録(現金バブルの象徴)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

サブプライム住宅不況で昨年4,000万円していた一戸建てが2,000万円で買えるというのが現金のバブルである。現金が50%バブルしているという勘定になる。投資という意味からは、本来は使用価値である現金がバブルし続けることはない。いずれどこかの時点で現金は投資に回っていくだろう。しかし、現在のような現金のバブル状態が長引けばマネーの回転率が下がり世界経済が立ち行かなくなる。そこで各国の金融当局は必死になって対策を打ってくる。今後は政治主導で金融市場の問題が解決されていくだろう。歴史を見れば結論は見えている。現在のような信用収縮に対峙するにはプリンティングマネー(中央銀行のマネー増刷+国際協調)しかない。そして度重なる流動性の供給でマネーがジャブジャブになると、過剰流動性からまた新たなバブルが起こるのである。

筆者は今年の3月以降は【投機筋の売りVS当局の対策】の構図で市場が動いていると述べてきた。現状は信用収縮による売りや手仕舞い主導の相場が続いているが、各国金融当局も必死に動いているので今後の状況の変化には柔軟に対処する必要があるだろう。米国市場では9月18日午前零時から全公開株に空売り規制が適用されたし、ヘッジファンドに空売りポジションの開示を義務付ける計画も浮上している。SECのコックス委員長は「1億ドル以上の資金を株式市場で運用するヘッジファンドその他の投資家が、毎日の空売りポジションの報告を早期に義務付けられる見通しである」と発言している。

9月18日には日銀・FRB・ECBなど各国中銀がドル資金の流動性確保のため協調する(19兆円分のドルの供給)ことが決まった。中央銀行や金融当局が力ずくの規制・物量作戦に出てきたことは売り方にとって大きな悪材料である。そして、このレポートを書いている最中に「ポールソン米財務長官が議会にRTC(整理信託公社)型の金融問題解決を提案した」(CNBC)というニュースも飛び込んできた。チャールズ・シューマー米上院議員は「財務省と米連邦準備制度理事会(FRB)は"恒久的な"金融危機対策を検討している」と述べでいる。金融システム安定に向けての政治的な材料はG7(先進7カ国首脳会議)待ちとなろう。現在のところ「経済状況に関する協議を定期的に行っているが、10月の定例会合前の緊急会合は予定していない」(G7関係筋)らしい。一方、9月16日に予定されていたGSE関連の公聴会が延期されてしまったが、GSE関連の公聴会で悪材料が噴出するとドル全面安となる可能性もあるので注意したい。

現在のような日中の上下動が激しい大変動相場では、値頃感や予想レンジというものが役にたたなくなっている。逆指値で遠いところにストップロス注文を置いても簡単にヒット(ストップロス注文が約定すること)してくる。デイトレーダーは一度に大きい収益を狙わず、小さい収益を確保しながら何度も相場についていくのがよいだろう。筆者はデイトレード(日計り売買)もスウィングトレード(2日から3週間程度ポジションを持ちつづける売買)もやっているが、コアとなるポジションはATR(変動幅の計測)の示唆するシグナルに従っている。

【楽天FX】のチャートに、筆者が相場の方向性の確認に使っている【ADX】というテクニカル指標がある。この【ADX】が連続して上がってくる局面は、相場の方向性が明確な局面である。【ADX】のカスタマイズ設定の数字をいくつにするかは最適化も含めて難しい問題だが、筆者は5分足、1時間足、日足など、どのタイムフレームでも14を使っている。(14がもうかるということではなく昔からの習慣)

また、【ボリンジャーバンド】は筆者が短期トレードでメインに使っている指標である。バンドが縮小から急拡大に向かうと相場に大きなトレンド(方向性)が発生しやすいという特徴を持っている。順張り・逆張りともに使える便利な指標だ。筆者は相場がボリンジャーバンドのσ1の外側で推移しているときのみ売買を行う。これは、相場がσ1の外側で推移しているときのみ、相場は方向性をもっているという相場認識に基づいている。ボリンジャーバンドのカスタマイズ設定は5分足、1時間足、日足など、どのタイムフレームでも周期は21、ボリンジャーσは1を使っている。

(注)以下のチャートは相場が上がるのか、あるいは下がるのかという相場の方向を認識する方法についての参考資料で、売買手法の推奨および将来の収益を保証するものではありません。

楽天FXチャート ドル/円(5分足)
(カスタマイズ設定 ADX=14、ボリンジャー周期:21 ボリンジャーσ1)
ボリンジャーσ1の外側(黄色の枠)で相場が推移している時やADXが上昇しているときに相場はトレンド(方向性)を持っている


(出所:石原順、楽天証券)

楽天FXチャート ドル/円(1時間足)
(カスタマイズ設定 ADX=14、ボリンジャー周期:21 ボリンジャーσ1)
ボリンジャーσ1の外側(黄色の枠)で相場が推移している時やADXが上昇しているときに相場はトレンド(方向性)を持っている


(出所:石原順、楽天証券)

楽天FXチャート ドル/円(日足)
(カスタマイズ設定 ADX=14、ボリンジャー周期:21 ボリンジャーσ1)
ボリンジャーσ1の外側(黄色の枠)で相場が推移している時やADXが上昇しているときに相場はトレンド(方向性)を持っている


(出所:石原順、楽天証券)

ADXのカスタマイズ設定


(出所:石原順、楽天証券)

ボリンジャーバンドのカスタマイズ設定


(出所:石原順、楽天証券)

円相場の相場変動幅(ATR)の動向

ドル/円およびクロス円市場は“円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する”という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間では円の売り放置やキャリートレードはリスクが高くなる。筆者はデイトレードおよびスウィングトレードでも緑の期間は円売り、黄色の期間は円買いを中心にしている。2008年相場ではうまく機能しているが、ATR上昇で円安、ATR下落で円高となった局面も過去には多いので注意されたい。

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ランド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)