158年の歴史を持つ米大手証券のリーマンブラザーズが15日に破産法適用を申請した。米当局がベアスターンズを救済しておいて、リーマンを救済しなかったことに市場は驚き失望している。帳簿の中身は不透明で驚くような数字をみて買収候補先が躊躇したのは理解できるが、米当局が公的資金を投入すればリーマンは救済できたはずである。15日のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場では社債保証コストが急上昇している。リーマンの破綻によって今後クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場では債務保証の支払ができない金融機関がでてくるだろう。信用だけでなりたっている金融の世界で、契約が履行されないという事態はあってはならないことである。システミックリスクな金融リスクを考えればデリバティブ(金融派生商品)市場で大きな影響力を持っていたリーマンが破綻すれば金融収縮の負の連鎖を避けられないのは誰の目にも明らかであったが、米当局はモラルハザードを強調してリーマンを救済しなかった。

昨日話をした米国のファンドマネージャーは「11月4日の大統領選挙を前にもうブッシュ政権はリスクも取らないしやる気もない」「これでブッシュ大統領の任期中は何が起こるかわからない」と言っていたが、今回のリーマンの破綻はブッシュ政権のレームダック状態と残り少ない任期が大きく影響しているという意見も多い。ベアスターンズが救済され、「大き過ぎてつぶせない」といわれたリーマンが破綻した裏には、ブッシュ政権が最後の一仕事をやる気概がなかっただけと言うのである。案外、事の真相とはそういうものかもしれない。

リーマンが破綻したことで、今後米金融当局に対する信任は低下することが避けられないだろう。16日のFOMC(連邦公開市場委員会)での利下げ期待が大きく浮上しているが、利下げで金融市場の混乱が収まると思っている市場関係者はいない。いずれにせよ、金融機関は今後世界的にスケールダウンし寡占化していく。スケールダウンは必然的にマネーの本国回帰を促す。これまでグローバル投資は米国の金融機関やファンドマネーが牽引してきた。この縮小均衡(米国のグローバル投資資金の逆流)のなかでバブルするのは米国のドルである。現在、これまで円安バブルとなっていた日本円を除けば、海外の多くのファンドやシンクタンクがドルのアンダーバリュー(売られすぎ)を指摘している。ユーロやポンドあるいは資源通貨に対し、中長期ではドル強気の見方をとっているファンドが多い。

相場は複雑なようで、実は単純に動いている。ブッシュ大統領が2001年1月20日に大統領に就任して以来、いくつものバブル相場が展開された。原油バブル、ドル安バブル、円安バブル、住宅バブル、グローバリゼーションバブル、クレジットバブル、ドットコーン(穀物)バブルなどである。特に原油・穀物バブルについては、さまざまな要因があるものの、基本的にブッシュ政権の戦略が上昇の背景となっていたことは疑いようがないだろう。それらのブッシュ政権が作ったバブル相場はブッシュ政権が終わりに近づくとともに沈静化の方向に向かっている。市場はポスト・ブッシュ時代に向けて動き出しているのである。

ブッシュ政権(2001年1月20日~黄色の期間)とバブル相場

WTI原油先物(日足)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

REUTERS/JEFFERIES CRBインデックス(日足)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/ドル(日足)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

円相場の相場変動幅(ATR)の動向

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリートレードはリスクが高くなる。筆者はデイトレードおよびスウィングトレードでも緑の期間は円売り、黄色の期間は円買いを中心にしている。2008年相場ではうまく機能しているが、ATR上昇で円安、ATR下落で円高となった局面も過去には多いので注意されたい。

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ランド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)