投資とは、企業や経済の成長のために今使わないお金を貸してあげること

 投資を悪いイメージのまま行うのはあまり気持ちいいことではありません。私は確定拠出年金の投資教育に携わっていますが、1,000万人の現役世代が、投資を悪いことだと思いながらお金を回しているのだとしたら、もったいないことだと思っています。

 投資は(いろいろなスタイルがあることは承知の上ですが)、今あなたが使わないお金を、企業や経済の成長のためにあなた以外の誰かに使ってもらうことです。

 株式や債券を保有する(あるいはそれらが含まれる投資信託を保有する)ことは、あなたのお金を企業や国、地方自治体などにいったん預けて活用してもらうことです。

 企業であれば、新商品の開発や生産、広告宣伝などの費用を確保することになります。国や地方自治体であれば、国内産業の発展や地元企業の成長のためにその資金を先取りして使うことができます。税収を得てから道路や企業団地をつくるようでは、成長の遠回りをしているようなものです。

 あなたがもらえるリターンの源泉は、企業や社会の成長そのものです。どんな企業も衰退したいと思って事業展開をしているわけではありませんし、長期的にみれば社会全体は成長していきます。

 企業の成長は社会の豊かさとあいまって促され、そこから私たちが投資で受け取るキャピタルゲイン(株式売却益)やインカムゲイン(配当)が生まれます。

この20年、こんなに私たちは豊かになっている

 よく、「日本は豊かになっていない」といわれます。でもそれは本当でしょうか。

 モノの値段が上がらず、むしろクオリティーが上がっているとしたら、そこにはとてつもない企業努力が隠されているはずです。それはファッションブランドの新作ウエアであったり、ファミリーレストランの人気メニューであったり、100円ショップのとても便利な新商品であったりします。

 あるいは、まったくの新しいイノベーションが私たちを便利にしてくれることもあります。いまでは身近なスマートフォンやタブレット端末も、実は2000年には存在しなかったテクノロジーです。

 テレビはアナログから地上デジタル放送になり、タブレットを使ってどこからでもドラマやアニメを見られます。音楽も同様です。

 便利なEC(電子商取引)サイト、株式などをインターネット経由で取り引きする「オンライントレード」、SNS(交流サイト)などの情報サービスも、実用的なものとして私たちの生活を支え始めたのはまだ10年くらい前のことです。

 さらに前世紀を20年ほどさかのぼれば、固定電話しかなく、パソコンもなく(仕事は全部紙でやる)、独身暮らしの部屋は風呂もトイレもない木造でした。

 私たちは徐々に豊かになっていくのでピンときていないのですが、間違いなく「数十年前よりも豊か」になっています。

 そしてそれこそが、経済の成長であるわけです。

あなた自身、毎日人事評価されるわけじゃない。企業も経済も中期的に評価してあげたい

 投資といえば短期的な値動きが激しく、短期目線で考えるトレーダーが多いことも事実です。しかし、企業の成長は一朝一夕に成し遂げられるわけではありません。

 ゲームの新タイトルやスマートフォンの新機種、ファッションブランドの新製品など、新たなモノを生み出すには開発準備に何年もかけられています。試作品を生産ラインに乗せたらトラブルがあったりします。NHKのドキュメンタリー番組「プロジェクトX」のようなことは今でも世界中の現場で起きているのです。

 小さなニュースが入るたびに頻繁な売買を繰り返すのが投資だと思っている人は、それは「毎日、人事評価を下す会社」のようなものだと考えてみてはどうでしょうか。

 あなたの業務について毎日人事評価をされたら、たまったものではありません。本気で取り組む大事なプレゼンテーションもあれば、将来の仕込みのために学んで1日が終わる日もあります。調子が悪くて貢献できないことだって時にはあるはずです。

 毎日のアウトプットを反映して給料が変動することはありません。一般的な人事評価であれば年単位、それを半期に分けて行うくらいでしょう。企業の評価だって半期や年ごと、あるいは数年のスパンでみてあげたいものです。

 今でこそ世界の株式時価総額でトップを牛耳っているGAFA(アルファベット、アップル、メタ=旧フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)ですら、10年前には成長性への疑問符を何度も投げつけられたものです。当時のアナリストが(結果としては)間違っていたのは明らかです。

 もちろん、駄目な会社や市場に見切りをつけるのはけっこうですが、一時的な下落のたびに損失確定するのでは、むしろ経済回復時の上昇を取りこぼすことになってしまいます。

 中長期的な投資は、短期的な下落による損失の積み重ねを回避する方法の一つです。そして、企業業績や経済が長い目でみて回復したり、失敗を克服し、成長に転じることを信じ、そこからリターンを得ようとしていることなのです。

成長を信じられないのなら、あなたは投資をしない方がいい

 ところで、日経平均株価など指数に連動した運用成果を目指す「インデックス投資」であっても、長い目でみた経済の成長に資金を提供しているという点は同じです。

 個別銘柄の投資や個別銘柄を選別して投資する「アクティブ投資」のように「集中的」であるか、広く市場に投資をするかの違いであり、どちらも企業活動に用いられていることには変わりないからです。

 逆にいえば、経済の成長を信じることができない、という人は本来なら投資をするべきではないことになります。

 例えば「日本の未来はない」と思っているなら、日本株式に投資をすることはあまり論理的行動とはいえません(日本企業が海外でも事業を営んでいることを織り込むというなら話はまた別ですが)。

 投資の考え方として、世界中のGDP(国内総生産)に比例して分散投資をしたいか、日本以外の主要先進国に重きを置きたいか、はたまた新興国に注目したいかは人それぞれですが、いずれも経済成長や社会の発展を見込んで投資をすることには変わりありません。

 投機マネーがどんなに流れ込んだとしても、現実として企業のビジネスが存在し、成長しなければ、投資のリターンは生まれないのです。

 今年もそろそろ終わりを迎えますが、たまには、こんな「青くさい原則」に立ち返って投資を考えてみてはいかがでしょうか。