11月の米国は大幅な物価上昇、市場は神経質な動き

 先週の米国11月CPI(消費者物価指数)は、前年比+6.8%と、1982年6月(7.1%)以来約39年ぶりの大幅な伸びを記録しました。

 しかし、予想通りの伸びだったことや前月比では+0.8%と前月10月の+0.9%から鈍化で、株は上昇し金利が低下。この金利低下からドル/円も113.70円近辺から113円台前半に下落しました。今週12月14日(火)~15日(水)のFOMC(米連邦公開市場委員会)を控えていることから、39年ぶりの大幅な物価上昇にもかかわらず、神経質な動きです。

テーパリング終了は早まるか?マーケットは織り込み済だが…

 FOMCでは、テーパリング(資産購入の段階的縮小)の加速(毎月の減額幅を増やすこと)や、2022年の利上げ回数増が金利見通し(ドットチャート)で期待されています。

 前回のFOMCの見通しでは、2022年の利上げは0.5回でした。0.5回ということは、2022年に利上げなしとみるメンバーが半数いたということになります。

 テーパリングの加速とは、11月に決定した資産購入の減額幅を増やすことです。FRB(米連邦準備制度理事会)は、10月までは月額1,200億ドル(米国債800億ドル、住宅ローン担保証券400億ドル)の資産購入を行い、市中に資金を放出していました(金融の量的緩和)。さらに11月のFOMCで、11月からの資産購入を毎月150億ドルずつ(米国債100億ドル、住宅ローン担保証券50億ドル)減額する方針を決定しました。

 このペースだと、テーパリングは2022年6月に終了予定です。しかし、物価上昇が続いていることから、金融引き締めの次の段階である「利上げ」を早く実行するためにも、テーパリングの減額幅を増やし、早く終了させる必要があります。

 今週のFOMCでは、この減額幅を毎月300億ドル、あるいは450億ドルに増やして、2022年2月か3月にテーパリングを終了させるのではないかとの期待が高まっているのです。

 そして、金融引き締めの次の段階である「利上げ」時期については、FOMCメンバーによる金利見通しが注目されています。

 現在のマーケットの金利先物から予想される2022年の利上げ回数は2回が多く、3回の利上げ予想も浮上してきています。

 このように現時点では、テーパリングの加速や2022年の利上げ複数回は、かなりマーケットに織り込まれている状況となっています。

 そのため、月150億ドルから月300億ドルへの減額幅増や2022年に利上げ2回の見通しでは、先週のCPI発表後の反応に見られたように、相場の反応は限定的、あるいは材料出尽くしから逆の動きになるかもしれないため、注意が必要です。

 2022年に利上げ3回の見通しはどうでしょうか。

 利上げ3回も徐々に織り込まれてきているため、この見通しだと金利上昇、ドル高反応になる可能性があり、ドル/円が115円に届くかもしれません。そして、月450億ドルの減額幅増と、2022年に利上げ3回の見通しのセットなら、ドル/円の115円超えが視野に入ってくるかもしれません。

FOMC後のパウエル発言に要注意

 FOMC後のパウエルFRB議長の記者会見にも注意が必要です。記者会見でテーパリングの早期終了に触れたとしても、新型コロナウイルスの感染拡大による経済の下振れリスクを警戒し、早期利上げで柔軟に行動できるよう、慎重姿勢を取る可能性も予想されるからです。

 新型コロナのオミクロン株の感染者が急増していますが、重症化率は低いとの見方からマーケットには安心感が広がっています。

 一方で、新型コロナによる米国の死者数の増加が加速しています。

 先週、新型コロナの死者数が、ノースダコタ州の全人口80万人を超えたと報道されています。過去2週間で感染者が倍増したカリフォルニア州では、15日から1カ月間、屋内のマスク着用を義務化しました。今後の感染拡大によっては行動規制を厳しくする州も出てくるかもしれません。

 このような環境の中で、パウエル議長は経済の下振れリスクをどの程度考慮するのか注目です。

世界の中銀イベントがめじろ押し

 今週は、中央銀行の金融政策委員会は米国だけではありません。

 16日(木)は英国のBOE(イングランド銀行)のMPC(金融政策委員会)、その45分後にECB(欧州中央銀行)理事会、日本銀行は16~17日に金融政策決定会合が開催されます。

 11月のBOEのMPCでは利上げが期待されていましたが、予想に反し見送られました。英国でも新型コロナ感染者の急増、オミクロン株による死者も出たことから行動規制も徐々に厳しくなってきています。12月も利上げは期待されていますが、こういった環境では難しいかもしれません。

 欧州も物価上昇や新型コロナ感染者が急増しているため、難しい判断に迫られそうです。

 ECBのラガルド総裁は、FRBがインフレ上昇は一時的との認識を修正したのに対し、インフレはいずれ落ち着くというECBの見解を維持し、2022年の利上げを否定する姿勢です。

 さらに、ECBはコロナ危機を受けて導入したPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)を2022年3月に終了の見通しを既に示していますが、この見通しを今回は維持すると予想されています。

今年最後の波乱相場が予想されるワケ

 BOEもECBも、インフレ上昇に対してよりタカ派的になるのか、それよりも新型コロナの感染急増に対応するためハト派的な姿勢を維持するかどうかに注目です。ユーロ、ユーロ/円の頭の重さは当分続くかもしれません。

 16日は、15日深夜(東京時間16日午前4時)のFOMCの決定を受けて、東京時間の市場は波乱が予想され、16日の夜はBOE(同午後9時)、ECB(同午後9時45分)と続くため、一日中、波乱相場が続きそうです。

 翌17日の正午前後に日銀の金融政策決定会合の結果が発表されますが、この決定はあまりマーケットには影響を与えないと予想されます。

 今週は日米欧英の中央銀行の委員会が相次ぎ、今年最後の波乱相場に展開する可能性もあるため、精神力、体力ともにかなり消耗する週になりそうです。