ファニーメイとフレディマックの問題やCDS市場の信用収縮の問題はベアー・スターンズ救済のスキームでは手に負えない金額である。これはもう政治問題であろう。ここからの市場の焦点、すなわちマーケットテーマは、「金融機関の破綻処理のセーフティネットが用意されるか否か」であろう。(現在このレポートを書いている最中に「米当局者が政府系住宅金融機関国有化の見解示す=NYタイムズ」とのニュースが飛び込んできた)7月8日にバーナンキFRB議長が「連銀窓口での証券会社向け貸し出しを2009年まで延長する可能性がある」と発言したことで金融市場は一息ついているところだ。「異常事態に対し公的資金の投入もあり得る」とポールソン米財務長官が公的資金の投入について言及しているが、公的資金の投入がないと株式市場の本格的な底打ちは難しいだろう。

英銀行協会会長のスティーブン・グリーンは銀行協会の年次総会での講演の中で次のように述べている。「欧米の銀行が過去5年間に展開してきたレバレッジを拡大すればするほど儲かる金融ビジネスのモデルは破綻した。バブル崩壊という循環的な変化ではなくビジネスモデル自体の破綻である」

資本主義は21世紀に入り金融資本主義あるいはファンド資本主義へと変化した。金融資本主義は、米英を中心とする先進国で調達された資金を BRICS・VISTAなどの高成長の新興市場で運用する国際金融システムと、金融工学を駆使した金融デリバティブ(派生商品)で運用するレバレッジ金融システムの2つの構造を持っている。

過去20年間、本来なら航空宇宙分野やロケット工学などに進むべき人材が金融バブルの影響で投資の世界に大挙して押し寄せてきた。このクオンツと呼ばれる連中が作るクレジット・デリバティブと呼ばれる複雑な商品は、顧客のほうで原価がわかりにくいため収益幅が大きく金融機関に膨大な収益をもたらした。このクレジット・デリバティブと呼ばれる商品のバブルが崩壊していることが、昨今の世界の金融市場見通しを暗くしている。クレジット・デリバティブの商品群の中で最も信用不安にさらされているのがCDS市場である。この市場が2008年3月のベアー・スターンズ破綻騒動以来の危機的状況を迎えていることは前回のレポートで書いた。

このCDS市場の規模はサブプライム住宅ローン市場の比ではない。ケタが2ケタ違うのである。62兆ドル(約6634兆円)と言われるCDS市場が連鎖崩壊すれば、とても金融機関の手には負えない数字である。問題はこの市場の実態を誰も把握できていないことだ。この数年のデフォルト率低下で金融機関や金融当局はカウンターパーティーリスクを楽観視していた。監視を怠っていたためどんなリスクがあるのかがわからないのが現状である。住宅ローンなどの債券化と相まって過去5年間、欧米の銀行は皆レバレッジを急拡大させたが、そのツケが現在まわってきているのだ。

決算を控えた金融機関の損失拡大報道に加え今週は米住宅金融大手のファニーメイとフレディマックの信用不安があおられ、7月10日にファニーメイとフレディマックの株価は17年ぶりの安値をつけた。米ウォールストリートジャーナルは、ファニーメイとフレディマックが破たんした場合の対応策をブッシュ政権が協議していると報じた。「政府系住宅金融は破綻状態にあり、救済が必要になる」とプール前サンフランシスコ地区連銀総裁は発言している。ファニーメイとフレディマックは破綻しなくても、「暗黙の了解」が破られ格下げされれば世界の機関投資家のポートフォリオに与える影響は極めて大きい。

金融保証会社(モノライン)のアムバックやMBIAの株価はすでに倒産株価といわれる水準まで下落している。CDSを発行するモノライン保険業界がすでに破綻している現在、著名投資家のジョージ・ソロス氏が指摘する「CDS市場での支払い不能の連鎖が次の世界的金融危機を引き起こす可能性」は政治的な救済がなければかなりの確率で起こりうる状況にある。現在、米国の信用リスクの指標であるマークイットCDX北米投資適格指数は、ベアー・スターンズ救済から1週間後の3月21日以来の高水準となっている。

「当局、混乱時に緊急権限が必要」=ポールソン米財務長官、「金融市場の混乱がなお続いている」=バーナンキFRB議長、「金融システム安定化に向け努力」=バーナンキFRB議長「金融市場の混乱がなお続いている」「異常事態に対し公的資金の投入もあり得る」=ポールソン米財務長官と金融当局の警戒もかなりのものだ。

米国はこれまで過剰なレバレッジをかけて借金経済によって経済成長をしてきたが、サブプライムローン問題に代表される借金経済ももはや限界に達している。モノライン保険業界の破綻や原油高でファンド勢は現金比率を高めている。スターリン暴落以来の日本株12日連続安やNYダウの20%超の下げが金融危機の予兆であるのかどうかはわからない。信用不安とインフレ不安の現状で投資家がリスクを回避する方法は、ポジションの縮小と売買の短期化であろう。

ドル/円相場は104円99銭を下回らずに107円台に入ってきたことから108円まで上昇余地が出てきた。105円を下回らない限り目先の相場はドルの押し目買いに分があるが、ADX(方向性指数)をみても強い方向性が出ているわけではないので、押し目をじっくり狙うか短期売買に徹するのがよいだろう。

ドル/円(日足)
ADX(方向性指数)・MACD・ストキャスティック


(出所:石原順、ブルームバーグ)

今週のドル/円は日替わりの猫の目相場と言われているが、その背景にあるのは通貨オプションに絡むガンマプレイ(上がったら売って、下がったら買うというオペレーション)の応酬によって相場をレンジに納めようとする投機筋の動きだ。このガンマプレイによって、ATRは今週に入り再び低下している。

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(注:ATR上昇でも円安トレンドが発生することはある)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(注:ATR上昇でも円安トレンドが発生することはある)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ランド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(注:ATR上昇でも円安トレンドが発生することはある)


(出所:石原順、ブルームバーグ)