注目されていた7月3日のECB理事会と米雇用統計は市場予想の範疇に収まった。ECBは市場の予想通り0.25%の利上げを実施したものの、トリシェECB総裁が会見で「今はバイアスを持っていない」とタカ派色を薄め中立的なスタンスを示したことで追加利上げ期待が後退した。そのため、対ユーロでドル買いが強まったが、米国の3連休を控えたショートカバーが主因の上昇である。ドル高反転の証には原油安が必要条件であるが、原油価格は145ドル台に上昇しており、昨日の急落でユーロ高のトレンドが反転するかは微妙であろう。

昨日の市場ではCTAやヘッジファンドの一部で、ECB理事会や雇用統計よりもポールソン米財務長官のコメントのほうが話題となっていた。「米財務長官:インフレよりも景気減速を懸念、下振れリスクに注目」(7月3日ブルームバーグ)と報道されているように、ポールソン米財務長官はBBCラジオのインタビューで「インフレ高進よりも米国の景気減速を懸念している」ことを表明している。先のFOMCでは米国の金利上昇観測が後退しドル高一服となったが、「インフレよりも景気減速を懸念している」という昨日のポールソン米財務長官の発言によって市場の金利高期待は一段と後退し、しばらくドルの上値は重くなると思われる。

マークイットCDX北米投資適格指数
(米企業の社債保証コストが15週間ぶりの高水準)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

FRBやポールソン米財務長官がインフレ重視から景気減速重視に転換したのには理由がある。それはCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)市場がベアスターンズ救済の3月以来、再び危機的状況を迎えているからだ。CDSはプレミアムを支払うことによって、債務不履行が起こった時に損害額を保証してもらう、あるいはプレミアムを受け取ることによって、債務不履行が起こった時に損害額を保証する取引である。

このCDS市場の規模はFRBの管轄外であるため公的な資料はないが、現在、保証対象債務の額面で62兆ドル(本当だろうか?)と言われている。シティやメリルの損失拡大観測、クライスラー破綻の噂、米GMメリルリンチが破綻の可能性を示唆、などこのところ毎日のように悪材料が出てきているが、決算シーズンを控えて信用市場の収縮が著しい。高リスク・高利回り融資の相場は4月来の安値に下落し、「今後1年間でデフォルトは3倍以上となる可能性がある」(ムーディーズ・インベスターズ・サービス)といった状況下で、CDSのカウンターパーティーリスクが(3月のベアスターンズ救済以来)再び浮上してきた。米当局がインフレより景気後退を重視するのは当然であろう。

ポールソン米財務長官は「回復がこれほど遅れているのは、監督当局や業界がこれまで見てきたよりもはるかに多くの、適切な水準を上回るレバレッジが金融システムに掛けられていたためだ。レバレッジ解消の期間が長期化している。さらなる増資が必要だ」と述べているが、米国の決算発表が終わるまで神経質な展開が続くだろう。

外為市場では先週来、対円相場の多くの通貨でATRが上昇に転じており、筆者は確率的な見地から円キャリー取引を休止している。円高トレンドは ATRの上昇がトリガーとなることが多いからだ。ATRが上昇している時期は宵越しのポジションを持たないデイ・トレードで相場に臨みたい。

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(注:ATR上昇でも円安トレンドが発生することはある)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(注:ATR上昇でも円安トレンドが発生することはある)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(注:ATR上昇でも円安トレンドが発生することはある)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ランド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(注:ATR上昇でも円安トレンドが発生することはある)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/ドル(日足)
フラクタルパターンでユーロの上昇観測も・・


(出所:石原順、ブルームバーグ)