5月21日に発表された4月のFOMC議事録は「大半の委員にとって25bpの追加利下げがギリギリの判断だった」という文言が示すとおりインフレリスクを強調する内容であった。同時に発表された2008年の経済成長見通しは1月時点の1.3-2.0%から0.3-1.2%に下方修正された。市場はスタグフレーション(不景気の物価高)を警戒し、22日の米国市場は株・債券・通貨のトリプル安となった。

このスタグフレーション・シナリオをあおっているのは昨今の原油高であるが、5月22日のニューヨーク原油先物相場は一時、1バレル=135ドルをつけ過去最高値を更新した。ゴールドマンサックスが今年後半の原油価格見通しを1バレル=141ドルとしているが、最近の原油価格の年内予想は 120~200ドルといった強気の見通しが多い。予想価格の根拠はよくわからないが、ホットマネーが原油市場に集中しているなかで「上がるから買う、買うから上がる」といった投機筋によるバブル相場が展開されている。

原油先物(日足)とMACDの売買シグナル


(出所:石原順、ブルームバーグ)

シカゴ市場のファンド関係者は一様に「この原油高の担保は北京オリンピックである」と語っている。中規模発電所の多い中国では停電対策のバックアップ電源用に軽油備蓄の需要が続いており、それは北京オリンピックまで継続すると言われている。また中国の地震被害によってさらなる特需の発生が噂されている。

資源国といわれる国の多くは市場経済のメカニズムが働いていない。それは原油の供給量の推移をみれば明らかである。現在の原油市場は供給や生産量に限りのあるなかで、中国の資源需用がマーケットを動かしているのである。投機筋の過熱売買ばかりが報道されているが、コモディティ市場はそもそも価格形成において他のマーケットより実需の比重が大きい市場である。上記の事情を考えると8月8日の北京オリンピックが、原油高やグローバルインフレの先行きを考える上で大きな転換ポイントとなるだろう。

原油供給量の推移(1970年~2007年)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

原油価格が高騰している中で、米国の株式市場のほうからはあまり弱気な声は聞こえてこない。ほとんど報道されていないが、ポールソン米財務長官は産油国を頻繁に訪問している。米国の金融機関は4月と5月に永久債や劣後債を発行してかなりの資本増強を行ったが、足りない分はSWFから調達する交渉をしているのであろう。原油高とドル安という世界経済の2大不安要素をかかえながらも、ポールソン米財務長官率いる大統領府金融作業部会が積極的に動いていることが、投機筋のリスクテイクを促す要因となっている。

原油相場との相関関係でドル相場が解説されることが多いが、(ドルとの相関関係が継続しているのはゴールドとシルバー)ここにきて原油価格との相関性は低下している。やはり外為市場に影響が大きいのは金利市場である。

上段:原油先物(黒)CRBインデックス(緑)ゴールド先物(黄)
下段:ドルインデックス(赤)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

5月に入って米国の金利市場はインフレと景気後退の綱引きからこう着状態となっているが、それを受けて外為市場はレンジ内での往来相場が展開されている。ボラティリティ(変動率)の推移からみると、この先レンジブレイクが起きると大きく相場が動くことになろう。ドル/円、豪ドル/円とも標準偏差ボラティリティはかなり低下し調整が進んでいる。ドル/円は102円と105円のレンジブレイクを待ってトレンドに乗っていく準備段階で、それがブレイクされるまでは欲張らない逆張りが有効であろう。

金利収益に重点を置く中期投資の投資家は、前回の連載で紹介したATRの推移に注目していただきたい。いわゆるキャリー通貨と呼ばれるドル/円や豪ドル/円などのクロス円の取引は、ATRが下がる過程で円安、上がる過程で円高となるケースが多い。

ドル/円(日足)
上段:標準偏差ボラティリティと売買シグナル[買い=緑・売り=赤]
下段:ATR(アベレージトゥルーレンジ20日)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)
上段:標準偏差ボラティリティと売買シグナル[買い=緑・売り=赤]
下段:ATR(アベレージトゥルーレンジ20日)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/ドル(日足)
標準偏差ボラティリティと売買シグナル[買い=緑・売り=赤]


(出所:石原順、ブルームバーグ)