今年も後一カ月弱で終えようとしています。今年のドル/円は、1ドル=103円台前半で始まり、現在113円台半ばですので、約10円の円安で終えようとしています。

 高安でみると、今年の最安値(円高)は1月の102.60円(*)、最高値は11月の115.52円(*)ですので、年間値幅は12.92円(*)となります。昨年(11.05円*)よりも値幅が拡大し、前年よりも円安で終わるのは6年ぶりとなります。

(*)筆者が各種情報から算定した参考値

 今年の年足は、このまま年末まで推移すると、終値で過去4年間の終値を超え、4年分を包み込むような強い陽線となります。

 強い陽線は、チャート的には来年も陽線が続くことを示唆するため、来年も円安が続くということになりますが、果たして、来年は円安に行くのでしょうか? あるいはチャートを無視した動きとなり、円高に行くのでしょうか?

今年の円安の背景

 来年、2022年のシナリオを考える前に今年の動きを振り返ってみますと、今年の円安の背景は、

(1)新型コロナウイルスの感染者が増えたが、ワクチン接種率が高まるとともに経済規制が緩和され、経済回復が進んだこと。

(2)一方で、原材料や部品の供給不足やサプライチェーンの混乱、人手不足によって資源や賃金が上昇し、回復した需要に供給が追いつかず、物価上昇が続いたこと。

(3)物価上昇は「一時的」とみていたFRB(米連邦準備制度理事会)が11月から長期化懸念との姿勢に転じ、11月のテーパリング開始決定、テーパリングの加速検討と金融緩和正常化のプロセスを早めたことによって、来年の利上げ時期の前倒しや利上げ回数が増えるとの期待や思惑が高まったこと。

 などが挙げられます。これらの要因が金利を押し上げ、ドル高・円安をもたらしました。来年もこのような要因が続くのであれば、円安が続くと予想されますが、果たして現在の軌道に沿って進むのかどうかがポイントになります。

2022年、来年の円安シナリオ

 来年も円安が続くと予想する見方が多いようですが、そのシナリオは以下のようなシナリオとなっています。

『供給不足や人手不足は来年も続き、物価は高止まりすることが予想され、この物価上昇を抑えるためにFRBは金融緩和正常化を前倒しで進める。政策として、テーパリングを加速させ、来年の2月か3月にテーパリングが終了し、6月には利上げが開始され、年末までに2、3回の利上げが行われる。その結果、金利は上昇し、ドル高・円安が進行する』というシナリオです。

 このシナリオは、前回2014年のテーパリング開始から利上げ開始までの期間と比べるとかなり速いペースで金融正常化が進むことが前提となっています。

 前回2014年1月から始まったテーパリングは10カ月かけて終了し、利上げ開始はテーパリング終了後14カ月たってからです。つまり、テーパリング開始後24カ月目に利上げが開始されました。

 今回のシナリオだと、来年6月の利上げはテーパリング開始後8カ月目に利上げということになります。かなりの速いペースです。

 今回、このようにかなり速いペースで金融正常化が進むのではないかとの見方は、足元のインフレの上昇が止まらず、一時的ではなく長期化するとの懸念がFRB内でも主流になったことが背景にあります。

 そして、現在のドル/円は、このことを織り込んだ結果、115円台半ばまで上昇したということになります。

今後の見極めポイント、春先以降の物価に注目

 今後のドル/円のシナリオを考える際は、すでに織り込まれたこれらの要因が思惑通りに進むかどうかを見極めることが重要になります。

 極端ないい方をすれば、思惑通り順調に進んで115円台への上昇、思惑以上に正常化プロセスが早まればそれ以上の円安進行、そして思惑よりも遅く進行すれば失望感からの円高方向に動くということが予想されます。

 今年最後のFOMC(米連邦公開市場委員会)から来年にかけて、以下のポイントを見極めることが重要になりそうです。

【1】12月14~15日のFOMCでテーパリングの加速が決定されるかどうか

 11月のFOMCでは月額1,200億ドルの資産購入を11月から毎月150億ドルずつ減額を決定。加速の場合、月300億ドルずつ減額するのか、月450億ドルずつ減額するのか。加速しない場合、テーパリングの終了は6月。加速の場合、2月か3月に終了。

【2】マーケットが期待する利上げ時期は、来年後半から6月に早まっている。それまでインフレが高止まりし、長期化するような環境が続いているのかどうか

 特に、原油動向に注目。一時85ドル台に上昇したWTI(ニューヨーク・マーカンタイル取引所で取引されている、米国産の良質な原油)は70ドル前後で推移しており、再上昇がなければ、インフレ上昇を抑制する可能性がある。

 また、供給不足やサプライチェーンの混乱は時間がたてば解消していくことが予想され、春先以降、その兆候がみられ始めた場合、利上げ後倒し観測が浮上する可能性。

【3】オミクロン株の感染が拡大し、経済規制が実施され、景気回復の足かせになるのかどうか

 オミクロン株の感染拡大によって景気回復が停滞すると、インフレ上昇圧力が弱まることが予想される。ただ、現時点ではオミクロン株の正体は不明であり注意が必要。

 重症化率が低い、既存ワクチンの効果が期待できるなど、新たなワクチン開発が短期間で可能になれば、景気回復の足かせにならず、利上げ期待は持続することが予想される。

 以上のような注目ポイントの中で、ハッサクは特に【2】に注目しています。春先以降、インフレの上昇要因であった供給不足が解消され、インフレ上昇の頭打ち傾向が見られると、6月利上げのシナリオが後退する可能性があります。

 そして11月には米国の中間選挙が控えているため、後倒しになればなるほど利上げは政治的に困難な環境になるかもしれません。場合によっては、来年中に利上げができないシナリオも浮上してくるかもしれません。

 そうなれば、来年は円安というよりも円高が主流になるかもしれません。現在の大勢のシナリオからはかなりかけ離れた見方かもしれませんが、相場に思い込みは禁物です。常に柔軟な思考で臨みたいものです。