FRBは4月30日のFOMCの定例会合を開き、政策金利を0.25ポイント引き下げた。今回の声明では利下げ休止を示唆する文言への変更や政策金利据え置きが望ましいと考えた2人の理事が利下げに反対票を投じた。声明後に「経済状況は引き続き弱い」との文言に反応しドルが売られたものの、投機筋のポジション調整の域を出るものではない。FF金利先物市場の動向や2人の理事の反対を考慮すると、声明は玉虫色ながらいったんは金融政策の緩和局面は終焉を迎えた可能性が高いと思われる。

5月1日に米USDAのチーフエコノミストJOE GLAUBERが食糧価格高についての米議会合同経済委員会によるヒアリングにて証言したが、2008年はインフレ5%増を予想している。国連の調査によると、3月末の世界の食糧価格は前年比57%上昇を記録しているが、この価格高騰が33カ国にて内政不安、紛争につながる可能性があると世銀が警告を発した。この日のNY市場ではドル高でドル建てのコモディティの売りが活発化し、原油2.5%安、砂糖4.5%安、ゴールドが1.5%安、となっている。(5月2日0時14分現在)

ドル高進行を背景にドル建てのコモディティが大幅安した事実が物語っているように、現在のインフレはドルを上げない限り(それが政治的に可能か否かは別として)収まらないのである。現在、先進国の景気は世界中どこも悪い。ユーロ圏の金利が下がらないのも景気が過熱しているからではなく、国際商品価格高騰によるインフレ懸念がその要因であろう。

ワシントンG7を契機に相場が反転しているのは、やはりインフレが放置できない水準まで達しているからであろう。このような背景を考えると、これ以上のドル安進行は世界的なスタグフレーションを招くだけである。すでにユーロ圏の要人からそのような指摘もでている。

ドルの戻しの指標として筆者の注目しているユーロ/ドルは5月1日のNY市場で1.5430まで下落、ドル/スイスは1.0509まで上昇した。1 日の市場では不動産市場の「王様」SAM ZELLが「機関投資家MBS市場に回帰傾向にある」「大手保険、年金ファンドなどはライアビリティーをカバーするため、最低6%のリターンが必要である」「大恐慌がない限り、一等商用物件が問題になることは無い」「海外投資家による米国商用不動産市場投資が、反ブッシュ政権感情を差し置いて投資機会・好機を逃さず市場環境を支持している」とコメントしているが、昨年7月にクレジットクランチが始まって以来はじめて、米国債市場に逃避していた投資資金が、商用MBS市場にシフトを開始しているようだ。

バーナンキFRB議長の迅速で大幅な利下げや流動性の供給により、世界の金融市場はシステマチックな危機をとりあえず回避した。ただし、クレジット問題の解決には時間を要するだろう。信用収縮が実体経済に波及してくるのはこれからである。Q1米住宅フォークロージャー手続き件数が前年比112%となっているように(REALTYTRAC調査)、住宅市場の急激な落ち込みは続いている。それでも目先は戻し減税の小切手(最大1,200ドル)の発送がおこなわれており、米税金リベート消費で4-6期の個人消費を押し上げるだろう。

そうなると、いましばらく売られすぎたドル安の修正が起こっても不思議ではない。仮に5月2日の雇用統計でドルが売られたとしても、3月のような急激なドル安リスクは考えにくい。3ヵ月周期のドルの底が到来するのはもう少し先で、まだドルの押し目買いに分があるような気がするのだが・・。

ユーロ/ドル(月足) ユーロは2005年の底から2008年4月まで27ヵ月の上昇


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/ドル(日足)標準偏差ボラティリティと売買シグナル[買い=緑・売り=赤]


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/スイス(日足)標準偏差ボラティリティと売買シグナル[買い=緑・売り=赤]


(出所:石原順、ブルームバーグ)