投資小説:もう投資なんてしない⇒

1章 なぜ、個人投資家は、儲かっていないのか?

<プロローグ>投資から、退場させられた、男

 金曜日の夜、木村隆一はいつものように新橋で「千ベロ」の最中だった。千ベロとは千円でベロベロに酔えるということだが、新橋の大衆居酒屋の安くて濃いめの酎ハイは、見事に隆一を気持ちよくさせてくれた。

 いっしょに飲んでいる同僚は、ろれつが回らなくなっており、仕事のグチや上司の悪口で1週間溜まった毒を吐く。右隣に座る退職前のサラリーマンらしき2人は、もうそれほど仕事に根をつめていないのか、美味しそうにホッピーで喉を鳴らしながら、最近の政治についての持論をぶっていた。

 逆隣の40代風の男性2人は、投資の話をしていた。

「去年はビットコインや新興企業の株で200万くらいは儲かったよ」と少し派手目のスーツを着ている男性が自慢げに言うと、友人らしき男性が「200万かよ!? ゴチになりますー。俺もやってみようかな」と急に目をギラつかせた。

 かなり酔ってはいたが“投資”というワードに脳が反応した隆一は、3年前を思い出していた。

 同僚が株のデイトレードで毎月10万円のこづかいを稼いでいるという話を聞き、「あいつにできるなら俺にもできるはず」だと考え、ネットの証券会社に口座を開いて株をやってみたのだった。

 なんでもビギナーズラックというのはあるのもので、株価が上がっている銘柄のランキングから適当に1つ選び、10万円くらい買ってみたら、3日で13万円になった。

 3日で3万円も儲かったことに驚いた。

 隆一の月のこづかいも3万である。娘2人の教育費や住宅ローンに給料を根こそぎ取られ、妻にこづかいアップを頼もうものなら、「あの子たちの学費と、あなたの飲み代とどっちが大事なのよ」と逆に詰められ、ボーナス月の1万円上乗せをキープいただくのが精一杯。

 そんなところで、3日で3万円も儲かったのだから、ひと月で数十万稼ぐのも夢じゃないと、隆一は株にのめり込んでいった。

 株をやり始めると、スマートフォンで取引画面を見る頻度が増え、15分に一度は確認をしないと落ち着かなくなった。会議中も、ノートパソコンで資料を見ているフリをしながら、ネット証券のスマホアプリで株価を確認していた。

 株の短期売買をしていると自分が迷彩服を着た戦闘モードに入るのがわかった。神経はいつも高ぶったようになり夜は眠りが浅くなった。あげく独身時代に貯めた虎の子貯金100万円をまるごと1つの銘柄に突っ込み、倍になるのを期待した。その会社の業績はおろかビジネスモデルを調べることなく、ノリだけで選んだ銘柄だった。

 その年の夏、中国発の金融危機、いわゆる「チャイナ・ショック」が起きた。買っていた株の値下がりがいつまでも止まらず、株価がつかない、いわゆる「ストップ安」が何日も続いた。見る間に株価は買ったときから70%も下がり、ただ何もできずにその画面をボーと眺める日々を過ごした。

 隆一は、はじめて投資の怖さというものを知り、株から手を引いた。そして、もう二度とやるまいと心に決めたのだった。

 ただ、そのあとも頭の片隅でどこかに、本当に投資はやらないほうがいいのだろうか、と思いが残っていた。

 世界で2番目にお金持ちで株式投資だけで9兆円もの資産を築いた「ウォーレン・バフェット」は、たまたまラッキーだったんだろうか。アメリカ人が資産の大半を投資しているというのはなぜだろうか、と――。

 酔いも手伝い、その思いがぶり返した隆一は、短期投資で儲けたという隣の男に聞いてみた。

「すみません。私も以前、株をやっていて、最初は儲かったのですが、途中から自分の欲を抑えきれなくなり、最後は大損してしまいました。あなたは、どうして投資で利益を出すことができたのですか?」

 男は、居酒屋とはいえ隣に座っている客からのいきなりの質問に、迷惑を隠しきれない様子だったが、

「実は、私も最初はまったく同じで自分をコントロールできず損ばかりだったのですが、ある先生との出会いが私の資産運用、投資に対する考え方を、ガラッと180度変えました」と、答えた。

 まとものようだけど妙に気持ちの悪い返事がかえってきたものだから、隆一は言葉につまった。(ビットコインとか言ってたくせに、資産運用とかずいぶんキレイぶったこと言うじゃないか。しかも先生? 声をかける相手を間違えた・・・・・・)とまんま後悔が顔に出ていた。

 男は自分の台詞を後悔したのか取りつくろうように続けた。

「ビットコインとか新興国株というのは遊びのお金でやっているもので、私の資産運用の大半は先生の教えに沿った運用をしています」と。残念ながら怪しさは増したのだったが、隆一は、男が繰り返した言葉が気になって聞いてみた。

「先生?」

「ええ、日比谷神社の横に、地下室があります。ここから近いですよ。その地下室の存在は、私も友人から聞きました。恐る恐る階段を降りていくと、重厚な扉があります。その奥に、その先生の執務室があり、そこで投資を体系的に学ばせてくれるのです」

<体系的>にという言葉がひっかかった隆一は、詳しく場所を尋ねた。

「ただ、先生は誰に対しても教えるわけではなく、気に入った人にしか教えないので、そこはあなた次第ですね」

 隆一は、手帳を差し出し男に地図を書いてもらうと、連れの同僚にはたいした詫びもせず、居酒屋を抜け出し、先生のいる日比谷神社に向かって歩き出した。

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