今週の金融マーケットではファンドマネーの収縮と(ここ数年続いたハイレバレッジブームの終焉を予感させるような)損失回避行動が目立っている。これが単なるイースター休暇前のポジション整理なのか今後も継続する動きなのかはわからないが、これらの背景となっているのは「新BIS規制」とベアスターンズ証券の破綻で再燃した急激な信用収縮である。

今週の月曜日にドル/円は12年7カ月ぶりに1ドル=95円台に突入し、ユーロ/ドルは1.59ドル台の市場最高値を付けた。また3月19日NY時間にはコモディティ市場が急落し、金相場は2006年6月以来の大幅な下げを記録、原油相場も4ドル以上下落した。キャリートレードの手仕舞いもコモディティ市場の急落も基本的に信用収縮を背景とした損失回避行動である。

3月20日NY時間の外為市場では金融機関やファンドの調達通貨である円やスイスが比較的堅調に推移する一方で、ユーロ/ドルは1.5440、豪ドル/ドルは0.8989と大幅下落となっている。コモディティ市場の下落(ゴールドマンサックスが米成長減速で商品市場から資金が流出し原油は90ドルまで下落すると予想)を受けて投機筋にストップロス・ハンティングされた豪ドル/円は一時89円割れ、カナダ/円は96円割れ、ランド/円は12円割れと大幅に下落した。

一方、株式市場のほうはPUNK ZIEGELが「米金融問題は終結、金融関連銘柄は一生に一度の買い時である」とコメントしたことや「ポールソン米財務長官がアブダビやシンガポールのソブリンファンド幹部と会合を持った」との報道をうけ、NYダウが一時2%高となるなど金融銘柄が大幅高となっている。猫の目のようなめまぐるしい相場展開であるが、乱高下相場が続くとマーケット参加者の体力が消耗して相場は下方向のバイアスがかかるので今後も注意を怠れない局面といえよう。

2007年2月にも新BIS規制の導入による影響でリスクマネーが収縮し株式やクロス円が急落したことがあったが、今回の信用収縮は深刻さの度合いが違うようだ。金融機関は取引相手の倒産リスクの増大でファンドへの貸しはがしに動いており、リスクマネーは急激に収縮しファンドの担保や取引条件等も急激に悪化している。現在、ファンドはレバレッジを縮小せざるを得ない事態となっており、ファンドの保有するポジションの手仕舞い売りが負の連鎖を起こし始めている。

現在、信用不安の再燃で流動性のない店頭金融商品の市場では値段がないという状況に追い込まれており、売りたくても売れない事態となっている。この損失の穴埋めは他の市場に回ってくる。信用収縮によるドミノ倒しと利下げや自己資本規制の緩和といったFRBによるモグラ叩きが続いているが、倒産リスクがこれだけ強調されればこのような対処療法では歯止めが利かないのかも知れない。現在の米国株式市場が仮に20年周期の下落のプロセスにあるならば、利下げなどの対処療法では追いつかず「公的資金の注入」といった抜本的な対策が必要に思える。

現在、1ヵ月のインプライドボラティリティ(相場の予想変動率)は

(対ドル)
  • 円17.3%
  • ユーロ12.35%
  • 豪ドル14.32%
  • ニュージランドドル16.75%
  • カナダドル13.87%
(対円)
  • ユーロ16.00%
  • 豪ドル23.5%
  • ニュージランドドル23.5%
  • カナダドル21.35%

となっている。(3月20日NY時間)

VIX恐怖指数(黒)とドル/円の1ヵ月のインプライドボラティリティ(赤)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ボラティリティレベルが非常に高く、平時の2倍~3倍の変動率である。尋常な相場つきではなく、儲かっても損しても通常の2~3倍となるだろう。このような局面はポジションを通常より縮小するのが王道となる。それが相場を長く続けていく絶対条件だからだ。

ドル/円相場は3月17日安値95円78銭で当面の安値をつけた可能性があるが、数年来の防御線がほとんど破られており不安定な状況に変わりはない。持続的なドル高となるには、<財政引き締め+金融引き締め>、<財政緩和+金融引き締め>という米国のポリシーミックスが必要となるが、現在バーナンキ議長のFRBは<財政緩和+金融緩和>の恐慌回避策をとっており、ドルの上昇は周期的な自律反発の域を超えないものとなろう。だが、過去の循環や値幅からはドルがその自律反発にむかう時間帯にすでに入っている。下値を売り込めない怖さも同居しているわけで、これが今の相場のむずかしいところである。

ドル/円(月足1995-2008年)とサポートライン(青)


(出所:石原順、ブルームバーグ)