Q3 株式投資って本当に儲かるの?

A3 投資先が好調なら、株価の上昇や配当金の受け取りで利益を得られる

パン作りで学ぶGDP入門」ではお金を得る方法としては、大きく分けて次の2つの方法があるとご説明しました。

1.自分の時間を使って従業員もしくは個人事業主として働き賃金を得る方法(勤労所得)

2.自分のお金を使って株式を所有し、その株式会社のビジネスから収益を得る方法(財産所得)

 本記事では、株式を所有しそのビジネスから収益を得る(つまり、株式へ投資をする)ということについて、具体的にご説明します。

株式会社を設立、その時のバランスシートは?

 具体例として、以下のような状況を考えてみましょう。

  • 太郎さんが、株式会社タローを設立、事業資金(資本金)は全額次郎さんに出してもらった
  • 株式会社タローは、1株1万円で株式を100株発行、すべて次郎さんが所有することに
  • 株式会社タローは、海外から商品を輸入し、日本国内で販売するビジネスを行う

 ビジネスを始めるのは太郎さんなのですが、太郎さんは資金を持っていなかったので、全額次郎さんが資金を出してくれることになったわけです。

 その時の株式会社タローの財務状況を図示すると以下のようになります。

 左側が「資産」、右側が「株主資本」となり、それぞれ100万円となっています。

 まず右側の「株主資本」ですが、これは「お金をどこから調達したか」を示しています。株主資本と書いてありますので、全額、株主(ここでは次郎さん)から調達したことを示しています。

 ここでは、1株あたり1万円で株式を100株発行し、次郎さんが現金100万円を支払う代わりに、株式会社タローの株式100株を受け取ります(今は株式は電子化されていますが、昔は紙の株券でした)。

 ちなみに、もし銀行から借入によって調達していたら、銀行借入といった項目も出てきます。

 一方、左側の「資産」ですが、これは「調達したお金をどうしているか」を示しています。「現金 100万円」とありますので、株式会社タローが現金として保持していることを示しています。

 例えば、10万円でパソコンを買えば

「現金90万円、パソコン10万円」

 となりますし、さらに携帯電話を5万円で購入したら、

「現金85万円、パソコン10万円、携帯電話5万円」

 となります。

 なお、この図はバランスシート(貸借対照表)と呼ばれるもので、「資産形成ハンドブック」の家計管理のところですでに出ていた資産残高一覧表と基本的に同じものです。

海外から商品を仕入れた!

  • 太郎さんが、海外から1つ1万円で50個の商品を仕入れた

 太郎さんが、1つ1万円で50個の商品を仕入れると、株式会社タローのバランスシートは次のようになります。

 左側の「資産」、つまり「調達したお金をどうしているか」の部分ですが、50万円を支払って商品を50個購入したので、半分が現金、残り半分が輸入品となっています。

 右側の「お金をどこから調達したか」については、特に変化ありません。

商品を30個販売!6万円の利益に!

  • 太郎さんが、1つ1万2,000円で30個の商品を販売しました。売上は現金で受け取りました。
  • 30万円分の輸入品が36万円の現金に
  • 利益が6万円発生

 1万円で仕入れた商品を1個あたり1万2,000円で、30個販売したとします。

 すると、売上が36万円となり、すべて現金で受け取ったとすると、バランスシートの左側では、30個、合計30万円分の輸入品が36万円の現金となります。

 そうするとバランスシートの左側が106万円、右側が株主資本100万円となり釣り合わなくなってしまうのですが、その差である6万円は、今回の売上による利益ということになります。

(なお、本記事では割愛していますが、このままでは太郎さんはタダ働きになってしまいますので、一般的には太郎さんに役員報酬/給与が支払われます)。

配当金は2万円?

  • 初年度は50個の商品を仕入れて、30個販売
  • 6万円の利益が発生
  • 6万円の利益のうち、2万円を配当金として株主へ支払うことに

 株式会社タローのビジネスは、初年度50個の商品を仕入れて30個販売し、利益を出すことに成功しました。

 太郎さんは、株主である次郎さんに初年度の事業報告をします。

 6万円利益が出たので、そのうち2万円を株主への配当金として支払うことにしました。

 2万円の配当金を支払った後の株式会社タローのバランスシートは以下の通りです。

 現金が86万円から、配当金2万円分だけ減少し、84万円となっています。

 配当金として支払われなかった4万円は内部留保と呼ばれますが、次年度以降のビジネスに活用していくことになります。

株式投資の収益はインカムゲインとキャピタルゲイン

 ここまでの太郎さんと次郎さんのやりとりをまとめておくと、以下のようになります。

  • 太郎さんが株式会社タローを設立
  • 次郎さんは、株式会社タローの株式を、1株1万円で100株購入(100万円)
  • 太郎さんがビジネスをして、株式会社タローは6万円の利益を出すことに成功
  • 6万円の利益のうち、2万円を配当金として株主である次郎さんが受け取った
  • また配当支払後の会社の価値(バランスシートの大きさ)は104万円に増大しているので、株式の価値も当初の10,000円/株から、10,400円/株に上昇(発行している株式の数は変化なし)

 当初100万円を出資した次郎さんは、2万円の配当金を受け取りました(「インカムゲイン」と呼ばれます)。

 さらに、株式会社タローのバランスシートも大きくなっていますので、次郎さんが所有している株式の価値もその分上昇し、1株1万円から1万400円に上昇しました(「キャピタルゲイン」と呼ばれています)。

 つまり、当初100万円で株式会社タローの株式を購入した次郎さんは、2万円の配当金と4万円の値上がり益、つまり6万円相当の利益を得たことになります。

 これをバランスシートの変化ということでまとめておくと、以下のようになります。また、矢印の下あたりにあるのは、損益計算書と呼ばれるもので、売上、費用、利益などの損益を計算して示しています。

  • 当初現金100万円だった資産は、1年後に現金84万円と輸入品20万円となりました。
  • その間、36万円の売上を上げ、そのために30万円の現金を使って商品を仕入れました。
  • 結果として6万円利益が出たので、2万円を株主に対して配当金として支払い、残りの4万円を内部留保として今後のビジネスで活用することにしました。

 このことから分かる通り、株式投資による収益(リターン)の源泉は、その株式を発行している企業がビジネスを行い、利益を出すことです。つまり、売上を上げて、必要な費用を支払って、その結果として利益が残るという活動を行うことです。

 その結果、株主には配当金(インカムゲイン)や、株式の値上がり益(キャピタルゲイン)という形で、株式投資による収益がもたらされることになるわけです。

 よく「株式投資でもうけるためには、安く買って高く売ることだ」などといわれますが、これは誤解のあるいい方だと考えています。

 取引所で売買されている株式の価格、つまり株価は日々変動しています。もっといえば、1日の中でも、朝の取引開始から午後の取引終了まで刻一刻と変動しています。

 安いタイミングで購入し、高いタイミングで売却できれば、もちろん株式売買による利益を出すことは可能なのですが、それはたまたま安いタイミングで購入でき、高いタイミングで売却できた、という、投資というより投機という性格のものだと考えています。

 これまでずっとご説明してきましたように、株式投資の収益(リターン)の源泉は、その企業がビジネスを行い、利益を出し続けていくことです。

 つまり、ある日の安いタイミングで購入し、同日の高いタイミングで売却したというのは、株価のそのような動きをたまたま捉えられたというだけであって、その株式を発行している会社のビジネスがどうなっているかということとはほぼ無関係なのです(短期的なこのような株価変動は、株式を購入したい、売却したいといった需要と供給の要因が強いといわれています)。

トヨタ自動車の場合

 株式会社タローの事例で、1年間ビジネスをやってバランスシートや損益計算書がどのようになるか確認しましたが、実際の事例としてトヨタ自動車の例を取り上げてみたいと思います。

 株式会社タローと比較すると、数字の桁があまりに違いますが、基本的に見方は同じです。

 平成28年3月末時点で会社のバランスシートは47.4兆円(資産)あり、株主資本は18兆円、銀行などからの借入が29.3兆円ありました。

 平成29年3月末までの1年間でビジネスを行い(つまり、自動車部品を購入し、自動車を組み立て、販売することで売上を上げることで)、売上が27.5兆円、そのための費用が25.6兆円、営業利益が1.9兆円となったわけです。

 法人税などを支払いますので、株主に帰属する純利益としては1.8兆円となっています。そして、配当として0.6兆円を株主に支払っています。

 トヨタ自動車も株式会社ですから、株式会社タローと同じようにお客様に商品・サービスを提供することでビジネスを行い、売上をあげて利益を出し、そこから一部を配当として株主に支払い…という活動を継続的に行っているわけです。

 トヨタ自動車を例に出しましたが、どんな業種・業界の株式会社であっても同じです。

 株式投資の収益の源泉は、このように株式会社が世の中に商品・サービスという付加価値を提供し、ビジネスを行っていくことですから、株式会社がビジネスを行い、利益を出すには必ず時間がかかります。1週間や1日、ましては数時間、数分などで、ビジネスで大きな利益を出すことは基本的に不可能です(仮に、できるものがあると誰もがそれをやりますので、そのビジネスでの競争が激しくなり、魅力は急速に低下していくはずです)。

 このように考えると、株主となって収益(リターン)を得るためには、短期間の投資では難しく、長期の投資が必要になってくるのもご理解いただけるのではないでしょうか。

まとめ

 少し長くなってしまったのでまとめておきます。

  • 株式を購入することで、その会社の利益分配、つまり配当金を受け取る権利を持つことになります(インカムゲイン)。
  • また、株式そのものの価値(価格)が上昇することによって値上がり益を得られることもあります(キャピタルゲイン)。
  • もちろん、株式そのものの価値(価格)が下落することによる値下がり損失を被る可能性もあります。
  • 株式投資の収益(リターン)の源泉は、その会社がビジネスを行って利益を出すことであり、株式の価格の変動をうまく捉えることではありません(売買タイミングではありません)。

注)

  • 基本的な考え方を説明するため、税金などの面については省略しています。
  • ここでは簡単に説明するため、キャピタルゲインを、バランスシートの大きさの変化と同一視しましたが、キャピタルゲインおよびキャピタルロスは、取引所で取引されている株価の変化で計測されることが一般的です。

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ファイナンシャルプランナー。株式会社ウェルスペント 横田健一さん
大手証券会社にてデリバティブ商品の開発やトレーディング、フィンテックの企画・調査などを経験後、2018年1月に独立。「フツーの人にフツーの資産形成を!」というコンセプトで情報サイト「資産形成ハンドブック」を運営。YouTube「資産形成ハンドブック」も人気上昇中。

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