過去3カ月の推移と今回の予想値

※矢印は、前月からの変化

10月雇用統計のレビュー

 先月11月5日に発表された10月の雇用統計は、NFP(非農業部門雇用者数)は53.1万人増加。失業率は0.2パーセントポイント低下して4.6%。平均労働賃金は、前月比0.4%増、前年比4.9%増。

 非農業部門雇用者の増加数は、6月、7月のような「約100万人」に比べると見劣りしますが、53.1万人というのは予想の中央値以上。8月と9月が30万人台で低迷していたことと比較すると「グッド・ジョブ」な結果でした。

11月雇用統計の予想

 BLS(米労働省労働統計局)が12月3日に発表する雇用統計の予想は、NFPは53.0万人増加。失業率はさらに1ポイント低下して4.5%。平均労働賃金の予想は、前月比0.4%増、前年比5.0%増の予想となっています。

 今年これまでの平均月雇用者増加者数は54.7万人なので、55万人という数字が、今回の雇用の強弱のおおよその判断の分かれ目になるでしょう。

 パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は今月12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)において、緩和縮小をさらに急ぐための議論をすると発言しました。とはいえ、FRBがコロナ対策をないがしろにするわけではない。オミクロン変異株の経済的影響が不可避となって雇用者増が50万人未満にとどまるならば、緩和縮小ペース加速の可能性は低いといえます。

 100万人近くまで増加するなら、雇用市場回復の道筋が見えたとしてFRBはインフレ対策に専心できるので利上げが前倒しされる可能性もあり、2022年3月利上げがより現実的になってくるでしょう。

コンビニから店員が消える?

 新型コロナ感染拡大が引き起こした大量失業に対する政府の雇用対策は、「失業は一時的なものであり、経済が再開すれば元に戻る」という想定に基づいて、失われた所得を補うことに焦点を当てています。

 しかし、この考えは間違っているでしょう。なぜなら経済が再開しても、全ての業種で雇用が以前の状態に戻ることはない。失業は不況が原因ではなく、雇用の構造変化が生み出したものだからです。

 雇用の構造変化は、すでにコロナ前から始まっていました。その象徴ともいえるのが米アマゾンの無人コンビニで、「Amazon Go」がオープンしたのは2018年1月。日本でも同様の試みが2020年1月ごろにスタートしています。

 コロナ前までは無人店舗やレジなし決済システムが、対面式を大切にする日本の慣習に合わないと懐疑的な声も多かった。しかし直後に発生したコロナ感染大流行(パンデミック)によって、コンビニで現金を手渡しすることや店員と直接会話することが感染「危険行為」とみなされるようになった。

 新しい行動スタイルに合わせた雇用の構造変化は避けられないことでした。人手不足を解消することが目的だった無人コンビニですが、もはやそこで止まることはなく、人間の仕事をほぼ全て奪うまで広がっていくでしょう。

 しかし、このような変化は、新型コロナが発生しなかったとしてもいつかは起きたことで、ある意味健全な進化だといえます。しかし問題は変化のスピード。5年必要とするような変化が、新型コロナのせいで1年のうちに起きている。

 経済システムは長い時間をかけた変化には対応できますが、このような急激な変化は歴史上経験したことがなく、その結果さまざまな問題が起きているのです。

 先進国の雇用市場の特徴は、労働不足と労働余剰の共存だといわれています。雇用の構造変化が急激であるため、適さない仕事や地域にいる人が多く存在している。人が減ったビジネス街のコーヒーショップは多すぎるのに、リモートワークの普及で人が増える地域ではコーヒーショップは少なすぎるといった問題が起きています。

ビーチから人が消える?

 雇用市場の回復は一様ではなく、先行きのある企業が採用を拡大している一方で、衰退に向かっている企業は生き残りをかけて大規模な人員カットを断行するか、さもなければ運命を受け入れ廃業の道をたどっています。

 ブッキング(予約、Booking)、 エンターテインメント(Entertainment)、エアー(航空、Air)、クルーズ(Cruise)、ホテル(Hotel)など、いわゆる「BEACH」と呼ばれる業界では、売上減が特に深刻で、雇用の構造変化が進むなかで、これらの仕事は消えてしまうリスクにさらされています。

 世界観光協会の調べでは、新型コロナによって観光業界全体ですでに1億4,000万人以上が職を失い、観光業に携わる人の二人に一人が失業するといわれています。

 もっとも、コロナと共存を選択した国では移動制限が解除され、サービス・レジャー関連の仕事が急増しています。低スキルと高スキルの労働者の需要が高まる半面、一般企業で中程度のスキルしか持っていないサラリーマン、いわゆるゼネラリストと呼ばれる人たちが不要とされる時代になっています。

 米国、ヨーロッパや英国では、ロックダウンで外出できず時間を持て余した若者達による一大起業ブームが起きています。従来の仕事がロボットにとって代わられる一方で、新しいビジネスが生まれていることは、明るい材料です。

 政府の手厚い景気対策は次世代のために使われるべきですが、実際は新しいビジネスを支援することよりもゾンビ企業を増やすことに使われています。ゾンビ企業とは、実質的に破綻状態にあるにもかかわらず、銀行などの延命策で生かされているような企業のこと。問題なのは、それらゾンビ企業の多くが新しいビジネスの成長を妨げていることです。