オミクロン株の影響で日経平均急落
11月25日は米国の感謝祭でした。そして感謝祭の翌日はブラックフライデーと呼ばれています。
ブラックフライデー(Black Friday)とは、感謝祭(11月の第4木曜日)の翌日(金曜日)から本格的なクリスマス商戦が始まり、多くの企業や商店が大規模セールスを仕掛け、売上が伸びて黒字になるイメージから「ブラックフライデー」と呼ばれています。
しかし、今年のブラックフライデーは、株式市場が急落したことから、下落を意味する「レッド(Red)」をイメージし、「レッドフライデー(Red Friday)」だと呼ぶ人もいます。また、「ブラック」の印象から、「ブラックマンデーの再来」だと呼ぶ人もいます。
ブラックマンデー(Black Monday)とは、1987年10月19日の月曜日に起こったNY株式市場の大暴落のことです。1日の取引で508ドル(22.6%)下落しました。
現在の水準だと、約8,000ドルの下落となります。26日のNYダウ平均株価の下落率は2.5%ですので、「ブラックマンデーの再来」は言いすぎだと思います。
さて、今年のブラックフライデーがレッドフライデーになった背景は、南アフリカ共和国で新型コロナウイルスの新しい変異株が見つかった、という報道が流れたことです。
25日、米国が感謝祭の真っただ中、英政府は南アフリカなどで新型コロナウイルスの新たな変異株が流行しているとして、南アフリカなどアフリカ南部6カ国から英国への航空便の乗り入れについて一時的に禁止すると発表しました。
「オミクロン株」と呼ばれるこの変異株の発表を受けて、翌26日の東京・アジア株は急落し、欧米でも株が急落しました。日経平均は一時900円近く値下がりし、NYダウは一時1,000ドルを超える場面もありましたが、905ドル安の今年最大の下げ幅となりました。
原油もWTI(WTIはウエスト・テキサス・インターミディエートの略。米国西テキサス地方で産出される、ガソリンを多く取り出せる高品質な原油)は一時67ドル台まで急落し、14%の下落率となりました。
ドル/円は、東京市場の115円台からNY市場では113円台前半まで約2円の円高となりました。ユーロ/円やポンド/円、豪ドル/円などのクロス円も軒並み円高となりました。
このように、ブラックフライデーの日に、南アフリカで新型コロナウイルスの新しい変異株が見つかったとの報道を受けて、世界的に株安、長期金利低下、外貨安・円高、原油などの国際商品価格下落と一気にこれまでの反対の流れに振れました。
このオミクロン・ショックは、NY市場が感謝祭休暇の狭間で参加者が少なく取引が薄かったことから値が振れやすかったことや、年末に向けてのポジション調整がオミクロン株流行の兆しの報道で早まったことも理由として考えられます。
パウエル議長の変節
週明け月曜日は、東京市場は売られたものの、欧米市場では先週の売られ過ぎの反動で買い戻されていますが、過度の懸念は和らいだとはいえ、オミクロン株のデータがまだ不明なため先行きの不透明感から大きく買い戻されるという動きではありませんでした。
ただ、各国の水際対応は早いため、感染スピードが抑えられれば、先週の動きは一時的な動きとなる可能性はあります。
もしそうなれば、ポジション調整一巡後は、再び来年の利上げシナリオにそった動きになるかもしれません。
逆に、各国の対応の早さ以上にオミクロン株の感染拡大が速まれば、一気に消費者心理は冷やされ、世界経済の停滞懸念から来年の利上げシナリオは、後退するシナリオが浮上してくる可能性があります。
ただ、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は30日の議会証言で「最新の新型コロナ感染者の増加とオミクロン株の出現は雇用と経済に下振れリスクをもたらし、インフレの不確実性を高める」と警戒感を示しながらも、「テーパリングを想定より数カ月早く終了させることが望ましい」と述べ、次回12月14~15日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で議論の対象になると述べました。
また、「高インフレは『一時的』だとしてきた表現を撤回するのが適切な時期かもしれない」と述べ、従来の姿勢を変えることも仄めかしました。
オミクロン株が出現したにもかかわらず、パウエル議長がタカ派に変節したことを受けて、ドル/円は112円台後半から113円台後半まで上昇し、株は下落し金利も上昇しました。しかし、株安を受けて長期債利回りはその後下落したため、ドル/円は113.10円近辺まで下落しました。
この議会証言によって12月のFOMCでのテーパリング加速の期待が高まりましたが、それまでのオミクロン株の感染状況によってはFOMCの議論も慎重になる可能性も想定されるため、柔軟に臨む必要がありそうです。
欧州はダブルパンチ
オミクロン株は欧州でいち早く拡散していますが、忘れてはいけないのは、欧州ではこのオミクロン株発表以前に、すでにデルタ株の感染者が急増していたということです。
一日の感染者数が過去最多の国が相次いだことから、各国でデモや暴動が起こるほどの経済規制の動きが出ていたということです。
この規制の動きによって欧州経済の停滞が懸念されていたのですが、今回の新しい変異株、オミクロン株の流行次第では、欧州経済は相当ダメージを受けることが予想されるため、特にユーロの動きには要注目です。
今年は静寂なきクリスマスシーズン?!
オミクロン株については現在分析中のため、感染力や重症度がどの程度強力なのかその正体はまだ分かりませんが、さまざまな報道が流れているため注意が必要です。30日、モデルナ社のCEO(最高経営責任者)は既存のワクチンの効果が低くなると述べました。
この発言を受けて米株は急落し、ドル/円も112円台半ばまで急落しました。一方でファイザー社のCEOは、もし既存のワクチンの効果がないことが分かれば、100日以内でワクチンを開発できるだろうとの見通しを示しました。
米国の感謝祭が終わるとクリスマスシーズンに入り、投資家が休暇を取り始めることからマーケット参加者が少なくなり、相場は閑散となるのが従来のパターンです。
しかし、今年の12月は静かなクリスマスシーズンに入るというよりも、来年に向けた思惑が交錯し、オミクロン株のニュースのヘッドラインによって荒れそうな12月になるかもしれません。
そして注意すべきは、マーケット参加者が少なくなるため、相場が大きく動きやすいということにも留意しておく必要があります。
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