ドル/円が4年8カ月ぶりの円安ドル高水準に浮上

 11月23日のアジア時間の外国為替市場でドル/円が一時、1ドル115円台まで上昇し、2017年3月以来、4年8カ月ぶりの円安ドル高水準となった。パウエルより緩和的でドル安要因となるとみられていたブレイナード理事への交代は起こらず、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の再任が決まったことにより、米国債金利が上昇したことがきっかけとなっている。

米10年国債金利(日足)

出所:石原順

 米アトランタ地区連銀のボスティック総裁はパウエル議長の再任について、「政策当局者にとって不透明感が取り除かれ、近く重要な決定を下す上で有益となる」との見解を示した。現状維持を期待している株式市場は、パウエルの再任を好感している。

 シーズナリー的に見るとドルは11月中旬まで上昇する傾向がある。一方、円は11~12月の時期は円安になりやすい。

ドルインデックス先物のシーズナルチャート(過去20年の平均)

出所:エクイティクロック

円のシーズナルチャート(過去20年の平均)

出所:エクイティクロック

 115円という節目を突破した現状のチャートを確認してみよう。ドル/円の日足は買いトレンドが点灯しているものの、ADXと標準偏差ボラティリティの上がり方はまだ鈍い。

ドル/円(日足)

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 一方、週足ではADXと標準偏差ボラティリティがそろって上昇中となっており、買いトレンド相場が継続している。

ドル/円(週足)

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 注目したいのはさらに長い月足だ。緩やかではあるもののADXと標準偏差ボラティリティが低い位置からそろって上昇しており、買いトレンド期に入っていることがわかる。

ドル/円(月足)

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 トレンドが発生しにくい通貨の代表のように言われてきた近年のドル/円だが、現在は日足・週足・月足の全てのタイムフレームで買いトレンド相場となっている。このパターンは、ドル/円相場のレンジを5円程度押し上げるポテンシャルエネルギーを内包している。

 2017年以降、頭を抑えられていた115円のミドルを明確に抜けてくると、120円台も視野に入ってくる可能性がありそうだ。

現金は、もはや安全ではない

 米国のインフレ率が過去30年間で最も急速に上昇している。ここ数カ月における燃料費や輸送費、また食肉製品などが大きく上昇する中、インフレは経済のさまざまな分野に広がっている。我々が何十年も見られない種類の世界的なインフレ体制にいることは疑いの余地がないだろう。

 米国は歴史的に前例のない大規模な社会実験を推進している。COVID-19の流行が始まって以来、連邦政府は5.8兆ドルの支出を米国経済に投入してきた。これは、GDP(国内総生産)を構成する消費の約5分の2にあたる。

 その結果、個人消費は爆発的に増加したが、同時に過去40年間で最高のインフレが発生し、主要な商品の慢性的な不足、サプライチェーンの混乱、貿易赤字の増大などが生じた。

 著名投資家のレイ・ダリオはインフレについて、リンクトインのブログで以下のように述べている。

 現時点では、1)政府が大量のお金を印刷し、2)人々が大量のお金を手に入れ、3)それが大量の買いを生み、さらに大量のインフレを引き起こしている。

 一部の人々は、自分の購買力がどのように損なわれているかを見ずに、自分の資産が値上がりしているので、自分がより豊かになっていると勘違いしている。

 富の衰退=権力の衰退。購買力を失って失敗しなかった個人、組織、国、帝国はない。成功するためには、少なくとも支出額と同等の収入を得なければならない。控えめに使って黒字を出している人は、たくさん稼いで赤字を出している人よりも、持続的に成功している。

 歴史を振り返ると、個人、組織、国、帝国が収入以上の支出をすると、不幸と混乱が待ち受けている。また、自給自足をする人の割合が高い国は、社会的にも政治的にも経済的にも安定している傾向があることも歴史が示している。

 現在の米国は、稼いだお金よりも多くのお金を使い、そのためにお金を印刷しては切り下げている。改善するためには、生産性と協調性を高めなければならない。今、私たちは間違った道を歩んでいる。

出所:リンクトイン 「On Inflation and Wealth(インフレと富について)レイ・ダリオ」

 Google Trendsによると、米国における「inflation」に対する関心度が過去10年間で最も高くなっていることが分かる。この数値は、特定の地域と期間について、グラフ上の最高値を基準として検索インタレストを相対的に表したものである。100の場合はそのキーワードの人気度が最も高いことを示し、50の場合は人気度が半分であることを示している。

グーグル検索で「インフレーション」に対する関心度が最高値まで高まっている

出所:Google Trends

 1ドルショップのダラー・ツリーが1.25ドルに値上げしたり、全米でアパートの家賃が急上昇していることが話題となっているが、今、どんなカテゴリーが最もインフレの影響を受けているのだろうか?

 ビジュアル・キャピタリストの記事「DATASTREAMU.S. Inflation: Which Categories Have Been Hit the Hardest?(データストリームUS インフレーション: 最も打撃を受けたカテゴリーは?)」からご紹介したい。

インフレの影響を最も受けたカテゴリーは?

出所:ビジュアル・キャピタリスト

 現在、ほとんどの商品カテゴリーでインフレ率が上昇しており、全てが二桁の割合で値上がりしている。これらのカテゴリーのうち、ガソリンが51%と最も上昇しているほか、天然ガスも3割近く値上がりしており燃料に関するものが大打撃を受けていることが分かる。また中古車の価格も26%上昇している。

 車社会である米国において、ガソリン価格の上昇は増税と同じだ。パンデミック後の経済再開に伴う需要の急増に対して、世界的な供給不足が起きており、それが価格上昇につながっている。

 天然ガスの価格は、ガソリンと同様の理由だ。供給の回復が遅れていることに加え、9月に発生したハリケーン「アイダ」の影響で、メキシコ湾の石油・天然ガスの生産量が減少したためだ。米国の家庭の60%は化石燃料で暖房していると言われており、価格の上昇がホリデーシーズンの個人消費に直撃しそうだ。

 世界的な半導体不況は、さまざまな業界に混乱をもたらしたが、中でも自動車業界は特に大きな影響を受けたセクターだ。最新鋭の自動車には1,000個以上の半導体チップが使われているという。供給不足により、米国だけでも100万台近くの自動車生産に支障をきたしている。

 このチップ不足が中古車市場にも影響を及ぼしており、中古自動車やトラックの価格はこの1年で26%も急上昇した。また、レンタカーも同時期に40%近く増加している。最近の調査によると、米国人の88%がインフレを懸念していると答えている。

 では、今後もインフレ率は上昇し続けるのか? 半導体のサプライチェーンが改善され、世界各地の港の混雑が緩和され、トラック運転手が仕事に戻れば、今後インフレ率は低下する可能性がある。FRBも米国のインフレはあくまで一時的との姿勢を崩していない。

 しかし、インフレをコントロールするのは難しく、ちょっとした出来事によって価格がオーバーシュートする可能性も否定できない。短期的には、消費者はスティッカー・ショック(値札についている価格の上昇に驚くこと)を経験することになるだろう。

 バンク・オブ・アメリカのアナリストは、「ボラティリティ指標や原油、エネルギー、米ドル、実物資産に対するロングポジションを含む推奨する」、「昨年の「成長ショック」、今年の「インフレショック」に続き、来年は「金利ショック」の一年になる」と、指摘している。

 米国史上最大の消費刺激策により、年率5%を超える持続的なインフレが発生する可能性が最も高いと思われる。

エド・ヤルディーニの「戦慄のチャート」米国10年国債金利 VS 消費者物価

出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート

 米国の債権者は、拡大し続ける米国債の山からいつまでもマイナスのリターンを受け入れることはないだろう。今からそう遠くないある時点で、米国は急激に高い金利と、放漫な第三世界の債務者の典型的なパターンである予算制約に直面することになるだろう。

 永遠に続けられないものは、続けられない。実質賃金の低下と利益率の低下が生産高を押し下げ、米国経済はスタグフレーション(不景気の物価高)の時代に突入するだろう。

 現金は、もはや安全ではない。私は中央銀行がお金の印刷を加速せざるを得ないと思う。だから、株は上がるかもしれないが、平均的な米国人の生活水準は下がるだろう。すべてのお金の印刷は、人々の反乱を抑えるための必死の措置である。

 エリートたちは市民の不満を、補助金や配給によってなだめなければならない。それらが尽きれば、もはや不満分子を監視し、人々を弾圧するしかなくなる。

 金融インフレに積極的に関与するシステムは、つまるところ破綻する。インフレ期には実質賃金が減少して大衆の生活水準が落ちてしまうからだ。

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート)

11月24日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 11月24日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、土居雅紹さん(楽天証券 株式・デリバティブ事業部長)をゲストにお招きして、「土居さんの夢のある新規ポートフォリオ銘柄」・「インフレ懸念と株式市場」・「中間選挙と米株式市場」・「ゴールド相場の考え方」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube
出所:YouTube
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 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

11月24日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

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