この1年半ほどで、アメリカの株式相場は5回のマイナーな調整局面を経験しました(マイナーな調整は、概ね5~7%の下落となります)。1回目は2012年末にかけて、いわゆる「財政の崖」に直面した場面、2回目は2013年5月、当時のバーナンキFRB議長が議会証言で量的緩和の縮小に言及した後、3回目は実際に量的緩和縮小が開始されると市場が見ていた9月のFOMC前、そして4回目は議会で財政協議が難航し、米国債がデフォルトするかもしれない、と大騒ぎになった10月でした。
いずれの局面も、S&P500指数で見て5~7%下落した後、前の安値を下回らないまま上昇するという、典型的な上昇相場の形となっています。即ち、上記の材料をもって売るのは誤りだった、という事になります。上記4つの局面を大きく分類すれば、1回目と4回目は財政政策、2回目と3回目は金融政策が要因である事が分かります。要するに市場は、財政政策も金融政策も、引き締めになるのを必要以上に嫌がっていた、という事です。それでは何故、このような材料をもって売る事が誤りになってしまうのでしょうか。
ここで簡単に、ここ十数年のアメリカ経済を振り返る必要があります。ここ十数年は、アメリカ経済にとっては非常に厳しい期間でした。2000年のハイテクバブル崩壊に始まり、2001年9月には同時多発テロ、2002年にはエンロンやワールドコムに代表される不正会計問題が市場を覆い、2003年3月にはイラク戦争が始まりました。アメリカ経済はその後数年かけて回復したものの、2007年7月に金融危機が始まり、2008年9月のリーマンショックに至りました。中でも同時多発テロや金融危機は間違いなく「100年に1度」級の大ショックであり、それがこの10年ほどの間に2回も訪れるという、大変な時期だったのです。
このような状況をそのままにしておけばアメリカ経済は恐慌に陥り、人々の生活水準は大きく低下、場合によっては命を脅かされる事態になるかもしれません。当然の事ながらアメリカ政府は、これらのショックを乗り越えるための措置を打ち出しました。財政においては同時多発テロを受けて2001年と2003年、いわゆるブッシュ減税が施行されました。また金融危機のショックを乗り越えるために2009年2月には、いわゆるオバマ景気対策が打ち出されました。また現在FRBが実施している、いわゆる量的金融緩和策が、金融危機をきっかけに始まった事は言うまでもありません。
このように、この十数年の間に実施された財政政策や金融政策は、あくまでも「100年に1度」級の大ショックを乗り越えるための緊急措置であったのです。ですので当然の事ながら、ショックが和らいでくれば解除していかなければなりません。人間に例えるとこういう事です。2001年と2008年、危篤状態で救急病棟に運ばれたものの、次第に体が回復してきた。ICUから一般病棟に移され、薬の量も次第に減らしても大丈夫になってきた。このまま行けば退院もそれほど先の話ではない-。
アメリカ経済は着実に回復してきている。本来はまず、この事実を喜ばなければなりません。アメリカは金融危機以降、870万もの雇用を失いました。しかし2010年以降、着実に回復し、このまま行けば今年5月頃には金融危機以降に失われた雇用を全て取り戻す事になります。特に2011年以降の回復ペースは月平均18万人であり、過去のアメリカの雇用増加ペースと比べても、何の遜色も無い状況です。
ブッシュ減税はもともと2010年末までの時限立法でしたが、オバマ大統領の下で2012年末まで延長されていました。金融危機に対応する形で実施されたオバマ景気対策は前倒し型であったため、2012年で殆どの効果が無くなる内容でした。そして、これら大型の財政政策が同時に失効するタイミングで訪れたのが2012年末の「財政の崖」であり、解決が一部先延ばしになって訪れたのが2013年10月の米国債デフォルト騒ぎだったのです。景気が悪ければ延長された可能性もあったでしょうが、それは必要ない状況です。金融政策も同様です。2013年春時点では既に、金融危機で失われた雇用の8割近くを取り戻し、しかも毎月着実に雇用が伸びている時期でした。量的緩和が金融危機という大きなショックをきっかけに導入された以上、継続していく意義が徐々に乏しくなっていたのです。
しかし市場は、薬の量が減る事、即ち緊急措置としての財政政策や金融政策が解除されていく事ばかりに目が行ってしまっているのです。実際、皆さんもメディアで目にされるのは、そういうニュースが圧倒的に多いと思います。言うまでもなく、財政政策や金融政策が解除されつつあるのは景気が回復しているからです。財政政策や金融政策の解除ばかりに目が行って、景気が回復している、という本質を見誤っていると、それを反映する株式相場の上昇に付いていけない事になるでしょう。
(2014年4月15日記)
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