続投決定!パウエル議長はタカ!?

 11月22日、バイデン大統領は、次期FRB(米連邦準備制度理事会)議長に、パウエル議長の続投を決定しました。同時に、副議長に次期議長の有力候補だったブレイナード理事を指名しました。

 両氏は共に高インフレが米国の経済と家計に甚大な影響を及ぼしているとの認識を示しており、指名後の記者会見でも両氏はこの認識を示し、同時に「インフレの定着を防ぐために手段を行使する」(パウエル議長)、「インフレの抑制にコミット」(ブレイナード理事)とインフレに対して行動する決意を示しました。

 パウエル続投と記者会見後の発言を受けて、米株高とドル高が進行し、米長期金利も上昇しました。長期金利は2年債と5年債の入札が低調だったことも長期金利を押し上げました。

 NYダウは、一時300ドル超の上昇となりましたが、引けにかけて失速。17.27ドル高で終えました。しかし、ドル/円は再び1ドル=115円手前まで上昇し、米長期金利の高止まりとともに、翌日の東京祝日のアジア市場で115円台に上昇しました。

 このドル高と長期金利上昇には以下のような背景が考えられます。

(1)次期FRB議長が指名されたことによって金融政策の不透明感が後退し、マーケットが好感。

(2)ブレイナード理事が議長に昇格した場合、FRBの金融政策はよりハト派的になると予想されていたが、パウエル議長の続投によってこれまでの政策姿勢が継続され、FRBが来年の利上げに動くとの見通しはブレイナード理事の場合よりも高まるとの見方からドル高に反応。

(3)指名後の記者会見で、パウエル議長もブレイナード副議長もインフレの抑制にコミットすると強調したことも利上げ期待を高めた。

 これらの背景と思惑からドル/円は再び115円に上昇しましたが、このまま上昇圧力が持続するかというと、少し立ち止まって相場をみる必要がありそうです。その理由は、

(1)パウエル議長は、高インフレの影響とインフレの抑制に手段を行使すると述べていますが、従来の発言と変わらない内容です。また、インフレについては長引くかもしれないと認めながらも「一時的」とのスタンスは維持していると同時に、早期の利上げを否定しています。

(2)11月に開始したテーパリングの終了予定は来年半ばであり、それまでの間、利上げ期待だけでドル高上昇圧力を維持するのは無理がありそうです。インフレがさらに上昇すれば、期待を維持することもできるかもしれませんが、現時点では、天然ガスも石炭も、そして原油もついに一服感が出てきたことから、インフレ上昇も一服する可能性があります。

(3)利上げを早めるためにテーパリングの加速が必要、との意見もFRB理事から発信されていますが、テーパリングは11月に開始されたばかりであり、原油上昇一服の環境では、今すぐのテーパリング加速は、次回FOMC(米連邦公開市場委員会)では多数にならない可能性が高そうです。

(4)ブレイナード理事は議長に指名されませんでしたが、副議長に指名されたことによって、ハト派的な姿勢が、よりマーケットに影響を与える可能性が予想されます。また、ブレイナード理事は、オバマ政権時、財務次官としてドル安論者としても注目されていました。

(5)FRB議長指名前の相場環境は、欧州の感染再拡大による経済規制の動きと原油の急落がマーケット材料になっていました。先週の金曜日19日はユーロ、ユーロ/円が急落し、ドル/円も113円台半ばまで急落しました。これらの材料はまだ燻って(くすぶって)います。

 これらの理由を考えると、パウエル議長続投は、ブレイナード理事よりもタカ派的とみられたことによって、マーケットが期待する利上げシナリオに安心感を与えたため、ドル高になったと考えられます。

 しかし、パウエル議長はハト派であり、利上げについても慎重な姿勢を保持していることは変わらないため、FRB議長再任の要因が消化されると、再び、欧州問題と原油動向に焦点が移る可能性も想定されるため注意が必要です。

 それではこの2つの材料、欧州問題と原油動向を振り返ってみます。

欧州のコロナ禍再拡大でユーロが急降下

 欧州では10月以降、新型コロナウイルスの感染が再拡大し、ドイツ、オーストリア、ベルギーでは一日の感染者数が過去最多となっており、再びロックダウンの動きが出ています。

 19日、ドイツの保健相が「国内の新型コロナ感染状況が極めて深刻なため、ワクチンを接種した人も含めてロックダウンを排除できない」と発言したことからユーロが急落しました。

 その後「ドイツの外相がドイツ全土のロックダウンの可能性について否定した」との報道が伝わると、ユーロは戻りましたが、22日には、ドイツのメルケル首相が国内の新型コロナ感染状況について「これまでよりもひどい状況」と発言したことから、再びユーロは売られています。

 このようにコロナの感染再拡大によってロックダウンや経済が規制され、欧州景気の回復が遅れるとの懸念が強まっています。

 また、オランダやベルギーではワクチン接種者でも外出禁止や接種の義務化などの規制強化に反発し、デモや暴動が起こっており、社会的に不安定になってきています。感染者の増加が収まらない限り、ユーロやユーロ/円の上値は重たい状況が続きそうです。

OPECの原油供給過剰予想で原油も下落

 原油については、WTI(世界最大規模の先物市場:ニューヨークマーカンタイル取引所で取引されている原油先物)で85ドル台から75ドル近辺へと下落しています。

 その背景は、OPEC(石油輸出国機構)の事務局長が、世界の原油需給バランスについて、(原油在庫が増えているため)早ければ12月にも供給過剰になり、来年もその状態が続くとの見通しを示したことや、IEA(国際エネルギー機関)の月報で、価格上昇を受け産油量が世界的に増加し、石油価格の上昇が鈍化する可能性があるとの見方を示したことが、原油価格を下押ししました。

 加えて、バイデン大統領が石油備蓄の放出を各国に働きかけたことも原油価格の下押し圧力となったようです。ただ、OPECの当局者が、「OPECプラスは国家石油備蓄放出なら計画を調整する可能性がある」との報道が流れ、原油価格は若干反発しました。

 11月23日、バイデン大統領は今後数カ月かけて戦略石油備蓄を5,000万バーレル放出すると発表しました。日本や中国、インド、韓国、英国と協調して実施するとのことです。

 この発表を受けて原油は一時急落しましたが、備蓄放出がすでに織り込まれていたことやOPECプラスの対抗策が意識され、WTIは78ドル台に上昇しました。

 原油動向は、インフレ長期化あるいはインフレ一服につながる話であり、12月2日のOPECプラス(石油輸出国機構=OPECと、非加盟国で構成される組織)の会合に向けて、波乱材料としてその動向に注目です。 

 足元では、FRBの早期利上げよりも欧州経済停滞懸念や原油価格の動きの方が、目が離せません。