緊張感が高まるTCMB(トルコ中銀)の政策会合

 トルコリラがまた急落している。トルコリラという通貨は、日本人の取引が圧倒的に多い通貨である。トルコリラ/円相場についての照会が多いが、トルコリラのような流動性のない通貨は決して運用のメインにしてはいけない。

 本日、11月18日はTCMB(トルコ中銀)の政策会合が予定されている。市場の予想では、1%の利下げ(政策金利16.0%→15.0%)となっている。

 トルコは10月のCPI(消費者物価指数)が前年比19.89%とインフレが高まっているが、エルドアン大統領は、「低金利を目指す闘いを続ける」と発言しており、利下げが今回だけでは終わらないことを示唆している。

「トルコのエルドアン大統領は17日、低金利を目指す闘いを続けると表明した。中央銀行の金融政策発表を翌日に控え、投資家に明確なシグナルを送った格好となった。これを受けトルコリラは下落した。大統領は議会演説で、「金利を擁護する人たちと同じ道をたどることはできない」と述べ、「市民から金利の重荷を取り除く」と言明。金利は物価上昇のブレーキではなく、インフレを引き起こす原因になるとの持論をあらためて主張した」

(11月17日 ブルームバーグ 「トルコ大統領、低金利を強く主張-「市民から金利の重荷を取り除く」)

 とりあえず、現在のトルコリラ安を止めるには、TCMBがインフレ抑制の利上げ姿勢に転換し、中銀が市場の信認を取り戻す必要がある。しかし、その可能性は小さいだろう。

 トルコリラ/円の長期下げ相場の教訓は、「いくら金利が入るにせよ、値頃感で買いポジションを取ってはいけない」ということだ。「損切りをして、利を伸ばす」ことが相場の王道である。

トルコリラ/円(月足)2000年~2021年

(上段:14カ月RSI・下段:トレンドフォローの売買シグナル)
出所:石原順

 現在、トルコリラ/円相場は日足と週足の両方でトルコリラ売りのトレンド相場が継続している。

トルコリラ/円(日足)

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

トルコリラ/円(週足)

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 不確かな世界でも最も理にかなう投資哲学はトレンドフォローであろう。「値頃感」というのは値段になれていないというだけの話で、本来ナンセンスなものだ。そもそも為替相場には理論値などないのである。

【私たちは必ずしも特定の時期にうまく乗れるわけではない。だが注意深く検討すれば、不確かな世界でも最も理にかなう投資哲学はトレンドフォローだ。トレンドフォローは高値で買い、安値で空売りする。19年間、私たちは一貫して高値で買い、安値で空売りした。もしトレンドが市場の根本的な性質でなければ、私たちのような取引手法ではたちまち廃業に追い込まれていただろう。しかし、トレンドはこの世の不可欠で根本的な現実だ】(ジョン・W・ヘンリー)

損切りをどこにおくか!?

 米著名投資家ポール・チューダー・ジョーンズの運用の特徴は<徹底したリスク管理>にある。彼は、「私は失うことを前提に考える。獲得することに夢中になるのではなく保護することを第一に考える。最も重要なルールは攻撃ではなく防御である。どのリスクポイントで自分は撤退するのかを把握しておかなければならない。私は1カ月あたりの損失率を絶対2ケタにしない」と、発言している。

 相場はトレンド期が少なく、保ち合い相場やランダム相場のなかでは平均回帰という現象が起こってストップロス注文をいれなくても相場が戻って助かってしまうことも多いので、ほとんどの市場参加者はストップロス注文を置かない。

 ストップロス注文を置かなくても助かってしまうということを繰り返していると、レバレッジのかかった取引では<3年から10年に1回の大きな下げ局面>で証拠金の多くを失うことになるだろう。

 現物取引の場合でもポジションが塩漬けになる。いずれにせよ、「何もできず見ているだけ」という塩漬けの状態になり、<投資効率>が死んでしまう。

 それでは損切りをどこにおくかという問題が発生する。これは投資家の懐具合やリスク許容度の問題と関わってくるが、証拠金がなくなってしまえば相場を続けることはできない。そのため、相場を続けていくための計画が必要となる。

 たとえば、100万円の資金で20万円まで損をしてもよいと思っている人は、取引1回あたりの損失を2万円として、相場観に関係なく1回の取引で2万円損したらやめてしまうのである。そうすると、10回連続損をしたところで20万円の損となる。

 逆に言えば、この人は10回連続損をするまでは相場を続けることができる。資産管理の問題は単純に言えばこういうことになる。あとは、相場の動的な変動幅(1日にいくら動くか・1カ月にいくら動くか等…)にあわせてレバレッジを調整し、資産管理を行っていくしかない。

 昨今の相場では、流動性リスクのある商品も運用難に苦しむ投資家の買いですぐに持ち直すことも多い。しかし、得られる金利に比べて、取っているリスクが大きすぎるという事実を忘れてはいけない。

 過剰流動性相場の危機のシグナルは、流動性のない商品が売られることである。日本の金融機関が買っているCLO(ローン担保証券)やジャンク債もトルコリラと同様の商品だ。

 個人投資家が株式取引やFX取引に広く参加できるような環境が整えられてきたことは、投資の「民主化」をもたらしたとも言えるだろう。

 しかし、その結果、巨額の財政金融緩和を背景に狂乱の投資ブームが引き起こされ、そのひずみが広がり世界の金融システムを危うくするリスクが高まっている。

 投資をする前に、以下の2つの質問の答えを知っておく必要がある。

(1) 自分の考えが正しければ、どのくらいの価格で売るか、利益を取るか?
(2) 間違っていたらどこで売るのか?

「希望」と「欲」は投資のプロセスではない。

11月17日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』

 11月17日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』は、永倉弘昭さん(楽天証券FX事業本部長)をゲストにお招きして、「年末に向けての有望銘柄は?」・「米国の景気と通貨政策」・「マクロファンドと通貨ファンドの動向」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube
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 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

11月17日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

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