先週は、株高・ドル高・金(ゴールド)高、エネルギー安

 以下のグラフは、先月末から先週末までの主要銘柄の騰落率を示しています。

図:各種銘柄の騰落率(2021年10月29日と11月12日)

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 温室効果ガス排出権取引価格が大きく上昇しました。金(ゴールド)、主要株価指数、ドル指数、米10年債利回り、そして、ビットコインや生牛(生きた牛)の先物価格も上昇しました。一方、各種化石燃料価格が下落しました。

 本レポートでは、上記に挙げた銘柄のいくつかの、足元の値動きを確認しながら、それらから読み取れる、金(ゴールド)と原油相場の今後の見通しについて、筆者の考えを述べます。

金(ゴールド)が大幅上昇。「材料の足し引き」とは?

 以下は、世界の金(ゴールド)価格の指標の一つ、NY金先物価格の推移です。足元(赤の網掛けの期間)、価格が大きく上昇していることがわかります。

 今年春から夏までは、米国で金融緩和の縮小(テーパリング)が始まるとの観測から、金(ゴールド)相場は下落しました。テーパリング開始によって、米ドル相場が強い基調になり、相対的に金(ゴールド)を保有する妙味が低下するとの見方が浮上したためです。

図:NY金価格(日足 終値) 単位:ドル/トロイオンス

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 足元の金(ゴールド)市場の材料を確認すると、以下のようになると、筆者は考えています。冒頭の騰落率のグラフのとおり、足元、「株高・ドル高」であるため、代替資産(株の代わり)、代替通貨(ドルの代わり)の側面から、金(ゴールド)市場に下落圧力がかかっていると、考えられます。

図:足元の、金(ゴールド)市場における6つのテーマ

出所:筆者作成

 しかし、実際のところ、金(ゴールド)価格は上昇しています。この値動きを説明するには、簡単な「材料の足し引き」が必要です。足元の金(ゴールド)市場は、「株高・ドル高」起因の下落圧力を相殺して余りある上昇圧力を受けている、ということです。

 その上昇圧力は、「各種リスク拡大」と「インフレ懸念」がきっかけで発生していると考えられます。これら2つの材料は、6つのテーマの「有事のムード」と「代替通貨」に分類できます。

「インフレ(物価高)懸念」は、換言すれば「(相対的な)通貨安懸念」であり、その通貨安懸念が、「代替通貨」の側面から、金(ゴールド)相場に上昇圧力をかけます。

 また、「有事のムード」を強めている各種リスクについては、先々週のFOMC(米連邦公開市場委員会)でテーパリングが決定したことにより、「利上げ」が現実味を帯び始めたことが関わっていると、筆者はみています。

FOMCを経て生じた新しいリスク「ドルキャリー取引の巻き戻し」とは?

 先々週のFOMCで、米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)は、金融緩和の縮小(テーパリング。資産の買い入れの段階的な縮小)を決定しました。15日(月)より、国債の購入額を減額するとしています。これにより、今後、市中に放出される資金の額が徐々に減少し、来年秋ごろには資金の放出が止まる見込みです。

 資金の放出が止まったとしても、それまでに買い取ってきた米国債などを売却する、いわゆる「バランスシートの縮小」が始まるまでは、米国は、空前のカネ余りを指す「ジャブジャブ」な状態は続きます。

 この点は、テーパリング開始が決まっても、さまざまなリスク資産の相場が、大幅下落となっていない理由の一つと言えます。

 もう一つ、今月のFOMCで明確になったことは、近い将来「利上げ」が行われることでしょう。「資産の買い入れ」は来年秋にも終了する見込みですが、金融緩和策の一つとして「資産の買い入れ」とほぼセットで行われてきた「低金利」も、近い将来、終わりを迎えるとみられます。

 FRBはまだ、タイミングを示していませんが、市場は来年2022年に2回程度、利上げが行われることを予想しています。FRBによる利上げは、ドル高要因と目され、ドルと金(ゴールド)の相対関係から、金(ゴールド)にとっては下落要因と言えます。

「資産の買い入れ」の終わりが始まり、「利上げ」が現実的になった今もなお、足元、金(ゴールド)相場が上昇しているのは、先述のとおり「各種リスク拡大」と「インフレ懸念」が、株高・ドル高などで生じる下落圧力を相殺して余りある上昇圧力を生んでいるためだと、考えられます。

「各種リスク拡大」の「各種の一つ」に挙げられるのが、「利上げ」が始まることで想定される「ドルキャリー取引の巻き戻し」です。以下の図のとおり、「ドルキャリー取引」の巻き戻しは、新興国からの資金引き上げを意味します。

図:ドルキャリー取引とその巻き戻しの仕組み

出所:筆者作成

「ドルキャリー取引」とは、低金利のドルを借り入れて、高金利の金融商品や、新興国の企業へ投資をしたりすることです。そしてその巻き戻しとは、こうした金融商品や企業から資金を引き上げることです。

 FRBが利上げを実施した場合、投資中の高金利の金融商品の優位性が低下する、借り入れている資金(ドル)の金利コストが上昇する、などの理由で、新興国の株式や債券、新興国企業の投資案件からの資金引き上げが加速すると、考えられます。

 今年の春ごろ、一部の主要メディアは、今後「ドルキャリー取引」の巻き戻しが目立ち、新興国からの資金引き上げが加速する可能性があることを報じていました。

 米国の実質金利のマイナス状態が長期化していることを背景に、1月から5月の新興国の株式・債券への資金流入が今年、これまでの20年間で最大となったとのことでした。

 これまで、コロナ禍からの経済回復や投資収益の拡大などを目指し、「ドルキャリー取引」が大きな規模で行われてきましたが、大きな規模であったがゆえ、巻き戻しの規模が大きくなる(新興国経済(引いては世界経済全体)が受けるダメージが大きくなる)と、考えられます。

 テーパリングを決定したFOMCを経て、市場は少しずつ、「ドルキャリー取引の大規模な巻き戻し」により、新興国経済(引いては世界経済全体)が大きなダメージを被ることを不安視し始めたと、筆者は考えています。

 米国における「利上げ」というテーマは、「利上げ」→「ドル高」→「金(ゴールド)安」という、教科書的なシナリオだけではなく、「利上げ」→「ドルキャリー取引の巻き戻し」→「新興国経済(世界経済)の悪化」→「金(ゴールド)高」というシナリオに結び付くことに、留意が必要です。

 今後、巨大に膨れ上がった「ドルキャリー取引の巻き戻し」が始まることを示唆する報道が目立ち始めた時、金(ゴールド)相場は、上値を伸ばす可能性があると、考えます。

原油は強弱材料拮抗でレンジ相場

 以下は、温室効果ガス排出権価格の推移です。長期的に見れば、2020年11月にバイデン氏が米大統領選挙で勝利宣言をしたタイミングから、価格上昇に勢いが出たことが分かります。

図:温室効果ガス排出権先物価格 単位:ユーロ/トン

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 価格上昇は、「脱炭素」ブームが、今まさに拡大中であることを示唆しています。排出権取引は、温室効果ガスを過剰に排出せざるを得ない企業や国が、排出量が少ない企業や国から、排出する権利を融通する(購入する)手法として、存在します。

 また、価格上昇は、権利(温室効果ガスを排出できる権利)を欲する企業や国が増えてきていることをも意味します。権利を購入することは、「脱炭素」時代を生きるための、一つの術(すべ)と言えるでしょう。

 夏場を過ぎて一時、反落したものの、先日まで行われたCOP26で、同ガスの排出削減目標が再確認されたことなどを背景に上昇に転じ、足元、史上最高値をうかがう展開となっています。

「脱炭素」が人類共通の超長期的な目標である以上、温室効果ガスの排出権価格の上昇や、「脱炭素」がもたらすさまざまな世の中への影響は、今後も長期的に続くと、考えられます。

「脱炭素」がもたらす世の中への影響の中には、「1.産油国の態度硬化」「2.米国の原油生産量の回復鈍化」「3.石炭代替のための石油需要増加」といった、原油相場に上昇圧力をかけるものもあります。

 数十年先を想定すればその限りではありませんが、目先、数カ月程度の時間軸で考えれば、「脱炭素」は、上記3つの経路から、今後も原油相場に上昇圧力をかける可能性があると、筆者は考えています。

 以下のとおり、3つの化石燃料(石炭、天然ガス、原油)価格は、下落あるいは横ばいで推移していますが、原油が石炭や天然ガスほど、下落していないのは、原油相場に「脱炭素」起因の複数の経路からの上昇圧力がかかっているためだと、筆者は考えています。

図:各種エネルギー価格の推移 2021年10月1日を100として指数化

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 足元の原油相場の動きと、上昇・下落、両方の材料をまとめたものが、以下です。

図:WTI原油先物価格(期近 日足)の推移 単位:ドル/バレル

出所:マーケットスピードⅡより筆者抜粋

不安は、消えないどころか大きくなる一方。金(ゴールド)は上昇、原油は高止まりが続くか

 先日閉幕したCOP26は、開幕当初、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリ氏により、「明白な失敗」「美しい言葉で絵空事の目標を発表するPRイベント」などと痛烈に批判されました。また、閉幕直前には、石炭火力がメインのインドなどが合意に反対したため、期限が延長され、文書が一部修正される一幕も見られました。

 COP26は、「脱炭素」をめぐるさまざまな思惑が会場内外でぶつかり合い、ようやく閉幕したわけですが、この会合で浮かび上がったことの一つに、「脱炭素先進国と脱炭素途上国の間にある溝の深さ」が挙げられると、筆者は考えています。

「溝の深さ」は「不確定要素、リスク、混乱などの大きさ」と言えるでしょう。「脱炭素」が人類共通の超長期的目標であるため、先述の原油相場に上昇圧力をかける3つの材料と同様に、(ドルキャリー取引の巻き戻しリスク以外に)「脱炭素」起因の「不確定要素、リスク、混乱(いずれも金(ゴールド)相場に上昇圧力をかける「有事のムード」を強める要因)」が、今後も続く可能性があります。

 このため、年末までの金(ゴールド)と原油相場の見通しについては、以下の通り、ともに基本的に上昇することを想定した10月の内容を踏襲します。

 ただし、気をつけなければならないリスク要因に、金(ゴールド)は「ドルを急騰させる程の早期利上げ観測」、原油は「過度な化石燃料不要論」「石油在庫急増」を、追記しています。

図:年内の予想レンジ(10月25日と変わらず)

出所:筆者作成

 また、金(ゴールド)は次回のFOMC(12月14日・15日)、原油は次回のOPEC(石油輸出国機構)・非OPEC閣僚会議(12月2日)が、注目すべき大きなイベントだと考えます。重要イベントを見据え、両相場の動向を注目し続けたいと思います。

 [参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

 楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

商品CFD(金・銀)

[参考]原油関連の具体的な投資商品

国内ETF/ETN

WTI原油上場投資信託 (東証)1690
NF原油インデックス連動型上場(東証)1699
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ブル2038
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ベア2039

投資信託

UBS原油先物ファンド

外国株

エクソンモービルXOM
シェブロンCVX
トタルTOT
コノコフィリップスCOP
BPBP