先月、楽天証券13周年記念セミナーで、アメリカの代表的株価指数であるS&P500指数は1999年後半と同じ水準である一方、利益はその後の13年間で2.4倍になっているというお話をさせていただきました。確かに1999年後半といえば、S&P500指数が最高値を付ける数カ月前の事であり、当時の株価が単にバブルだったという見方もできるかもしれません。しかし金融危機前後を除いてはアメリカの大半の企業は着実に利益を伸ばし、それが2.4倍にまで積み上がってきたとなっては、さすがに株価の水準を疑い始めても良いでしょう。その典型的な銘柄が世界最大の小売チェーン、ウォルマート(WMT)です。

ウォルマートは先月初、創業50周年を迎えました。ウォルマートの創業者は故サム・ウォルトン氏ですが、ウォルトン一族は今も米フォーブス誌の富豪リストに名を連ねています。資産10億ドル以上の「ウォルトン」さんは6人で、その合計1,000億ドル以上。ビル・ゲイツ氏とマイクロソフトの共同創業者であるポール・アレン氏、そしてCEOのスティーブ・ボルマー氏を合わせても900億ドルで、如何に成功を収めている会社かがお分かりいただけると思います。ちなみに5月に上場したフェースブックは4人合わせて250億ドルです。

そのウォルマートが、それまで13年近く更新していなかった最高株価を先月、遂に更新しました。13年間、株価が最高値を更新できなかったのは、特にウォルマートの業績に問題があった訳ではありません。それどころか、ウォルマートはこの25年間一度も、売上や利益が前年比で減少した事は無いのです。100年に一度と言われたあの金融危機の前後でさえも、です。この25年間の利益成長率は平均16%。この13年間に限っても平均12%の成長を続けています。

それなのに、どうしてウォルマートの株価は13年も最高値を更新できなかったのでしょうか。それは第一に2000年3月以降始まった、いわゆる「ドットコム」バブル崩壊の影響であり、第二に2001年9月に起こった同時多発テロの影響であり、第三に2002年夏にピークに達した不正会計問題の影響であり、第四に2003年3月に始まったイラク戦争の影響であり、第五に2006年後半に始まった住宅バブル崩壊の影響であり、第六に2007年7月に始まった金融危機の影響であり、第七に2008年9月に始まったリーマンショックの影響であり、第八に2010年春に始まった欧州債務危機の影響が挙げられるでしょう。

確かにアメリカのこの10年は、他の10年に比べれば特別だったのかもしれません。しかし50年前からずっとアメリカでビジネスをしているウォルマートにとって、少々の景気変動への対応は慣れたものです。むしろ在庫管理がしっかりしており、景気変動に応じたコスト管理で知られるウォルマートの真の腕の見せ所だったとも言えます。

何を申し上げたいかというと、結局、ビジネスに大きな変化は無いのに、景気変動に一喜一憂していたのは専ら投資家の方だったという事です。この13年間でアメリカは2回のリセッションを経験しています。リセッションに入ると個人消費が減少するので小売業は厳しい、という論調をどれだけ聞いた事でしょうか? これはマクロばかり見ていて、ミクロレベルでビジネスを理解していない典型の論調です。実際には、ウォルマートの売上も利益も、前年比では減少などしていないのです。

今後も「財政の崖が懸念される」「大統領選挙が不透明要因」「ギリシャ離脱懸念」等、マクロのヘッドラインをご覧になる事は多々あるでしょう。しかし懸念材料など、市場には常に存在するものです。投資家がこのようにマクロのヘッドラインを気にしている間に、ウォルマートのような会社は着実に利益を積み上げていっているのです。ウォルマートだけではありません。ここ10数年着実に業績を伸ばしてきた優良企業の株価が、ここに来て次々と最高値を更新しようとしています。そして10数年前との大きな違いは、それが業績という、ファンダメンタルズにしっかり裏付けされたものであるという事です。

(2012年8月10日記)