いつもご紹介している通り、我々の投資方針は「良いビジネスを安く買う」事です。通常、良いビジネスが安く買えるというような、都合の良い機会などそれほどあるものではありません。しかし短期的なネガティブ要因によって株価が下落する典型的な「スペシャルシチュエーション」(特別な機会)に注目しておけば割安株に投資できる事が多い、というのが我々の経験であり、得意とするところです。このような観点で市場を見ている我々のレーダースクリーンにアップル(AAPL)とグーグル(GOOG)が現れたのは昨年の春の事でした。
アップルとグーグルにはいくつか財務上の共通点があります。第一に本稿執筆時点で、両社共株価は610ドル前後で取引されています。第二に、2013年ベースの予想利益はいずれも一株50ドル強です。第三に、この先数年予想される利益成長率はいずれも年率20%前後。第四に、いずれも無借金で一株当たり100ドル以上の手元現金を保有しています。第五に、営業利益率はいずれも32%前後です。
日本円で示すとこんな感じです。一株利益50円で年率20%で成長している株が610円で、しかもそのうち100円以上は現金。もちろん、これくらい割安な株はアメリカには沢山あります。ただこれまでと違ったのは、アップルやグーグルのような広く知られている超大型ハイテク株であった事です。というのは通常、「良いビジネスを安く」なるのは、一般にはそれほど知られていないか情報を入手しづらい中小型株が、何らかの市場の誤解等によって短期的に売られて割安になるケースです。しかしアップルやグーグルのように、その商品やサービスが広く消費者に利用されている会社で、しかも成長企業の株が割安になるというのは珍しいケースです。
通常安い物には必ず理由があります。そしてそれを徹底的に調べ上げ、その理由がビジネスにとって致命的なものではないか、短期的なものか判断する事が出来れば、それは「良いビジネスを安く買う」機会となります。しかしアップルやグーグルの場合、その理由を見出すのはかなり困難でした(投資に踏み切るには良い状況なのですが)。念のため、我々はハイテク大手数十社のバリュエーションを全て調べ上げ、比較する作業をしました。その結果判明したのは、第一に、昔のハイテクのイメージと異なり、今はハイテク=高成長ではなく、従って高い株価収益率が付く訳ではない事、第二に、ハイテク大手数十社と比較してもこの二社の割安は際立っていた、という事です。
結論から申し上げれば、この610ドルという株価水準でもこの二社は割安だと思います。そして恐らく、安くなっている理由は市場の誤解によるものでしょう。もちろんいつ、どの水準まで上昇するかはこれから市場が決める事ですが、少なくとも下値不安が限定的な「良いビジネスを買う」機会が提供されている状態である事は確かだと思います。しかし当然の事ながら、いつまでも両社共に同じような株価水準にいる訳はなく、いずれそれぞれの道を辿っていく事になるでしょう。それではどちらに投資する方が有利なのか? 5年後にこの原稿を読まれる方に笑われるのを覚悟の上で、敢えて私の考えを示しておきたいと思います。
今後の株価を占うに当たって主に考慮したのは、第一にビジネスの性質、第二に最近発表された株主還元策、第三にこれまで両社の株価が辿ってきた経路です。
両社のビジネスのルーツはご存知の通り、アップルはハードウェア中心のデザイン、グーグルは検索サイトです。特に2005年以降のアップルは奇跡とも思える成功に続く成功を収めてきた成長企業です。もちろん今後も成功を続けていく可能性は十分に有りますが、逆に言えばイノベーションにイノベーションを重ねていかなければならない、「しんどい」ビジネスに見えます。一方のグーグルの基本となるのは「金のなる木」に近い楽なビジネスです。この「しんどい」かどうかは両社の粗利益率に表れていて、アップルが40%に対し、グーグルは65%となっています(ただアップルが40%を維持しているのは、それはそれで凄い事だと思います)。
次に株主還元策です。手元現金の豊富な両社は株主の要求に応えるため、最近になって異なる株主還元策を発表しました。アップルは配当、グーグルは株式分割です。いずれの策も、それほど短期的には株価に影響のあるイベントだとは考えていませんが、経営陣がより中長期的な成長に自信を持っているケースを想定すれば、株式分割を選ぶ可能性が高いと考えています。
第三の、これまで両社の株価が辿ってきた経路ですが、これはアップル株がこの5年で6倍になったのに対して、グーグル株はほぼ横ばいです。要するにアップルの株主はこの5年間大きく報われてきたのに対して、グーグルの株主は全く報われていないのです。長期間報われない株というのは売られやすく、よって割安になる傾向があります。仮定の話ですが、「報われないから売る」というのはビジネスとは関係のない不合理な判断であり、もしそれが起こっているとすれば「良いビジネスを買う」機会となります。
前述の通り、2社とも甲乙つけ難い良いビジネスだと思います。手元現金が多い会社でありがちなのは、高い合併・買収等、資本配分の失敗です。本業もさる事ながら、両社の経営陣がどのような資本配分をしていくかによって、今後両社のパフォーマンスは大きく変わってくるでしょう。しかし現時点で得られる情報をもとに、敢えて1社と言われると私の結論はグーグルです。市場の事、最後の1日まで何が起こるか分かりませんので、結果は2017年4月27日にご覧いただければ幸いです。
P.S. グーグルは近々株式分割が実施され、株価が半分になる事をお忘れなく。
(2012年4月26日記)
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