これは去る1月28日、横浜にて開催された楽天証券新春講演会2012で講演させていただいた内容を要約したものです。

金融危機は2007年7月に始まりました。住宅価格の下落をきっかけに証券化商品など様々な資産の価格下落が顕在化してきました。資産の価値は減少しても負債の価値は減少してくれませんから、その差額である自己資本はどんどん減少していったのです。そして資産に対する負債の比率が高い、即ちレバレッジの高い主体ほど自己資本が減少するスピードが速く、破綻が訪れていきました。

金融危機が始まって、最も早く破綻、又はそれに近い状態に陥ったのは、2007年にこのコラムでも数回にわたって取り上げたモノライン(金融保証会社)で、レバレッジは100倍以上でした。次に50-60倍の政府系住宅金融機関、リーマンを含む30-40倍の大手証券会社、10-20倍の銀行へ、次々と破綻が連鎖していきました。しかし政府としては、銀行といういわば公的使命をも負っている主体までも放ったらかしにしておくわけにはいきません。そこでようやく政府が重い腰を上げ、大手金融機関に対して、税金負担となる公的資金注入に踏み切ったのです。

当然の事ながら、これは負担が政府に移っただけの話なので、今度は政府にリスクが飛び火します。このコラムでも再三にわたってこのリスクを指摘してきましたが、遂に2011年夏、欧州債務危機やアメリカ国債のトリプルA喪失によってこれらの予想が現実のものとなりました。ここまではこれまで私のコラムや講演をお聴きくださった方はご理解いただいていると思います。問題はここから何が起こるか、という事です。

実はこの政府のリスク、即ちソブリンリスクが大きな問題になるのは多くの場合、金融危機が最終局面に来ている時なのです。当社(ホリコ・キャピタル)にはこれまで世界で起きた数多くの金融ショックを洗い出し、その後どのような経路で景気が回復してきたかを調査した資料があります。その資料によると、金融ショックが起こった後のパターンは概ね下記の通りです。

景気が後退します。すると民間部門が債務圧縮にかかります。それが極限に達すると政府部門が景気対策なり公的資金注入等を行うので、公的債務は増え続け、やがてソブリン危機に発展します。しかし多くの場合、その頃既に景気は回復の兆しを見せ始めており、民間部門も債務圧縮を控えるようになっています。景気回復と共に民間部門はむしろ積極姿勢に転じ、税収も回復する結果公的債務は徐々に減少していきます。

このパターンの中で、株式投資に最も望ましいのはどのタイミングでしょう? 景気回復の兆しが見え始めている時、というのは明らかだと思います。(講演の)前日、アメリカの昨年10-12月期のGDPが+2.8%と発表されました。これは1年半ぶりの高水準です。政府部門のマイナス0.9%がなければ+3.7%となり、民間部門は既に景気回復局面に入っていると見て良いと思います。一方でニュースでは連日「ソブリン危機」の報道。これは典型的に、株式投資に踏み切るべきタイミングなのです。即ち、景気回復の初期にソブリン危機が騒がれているのは当然の事であり、株式投資を躊躇う理由になってはいけない、ソブリン危機にだまされてはいけない、という事です。

景気回復の証拠は他にも観測できます。今回の金融危機は住宅価格の下落から始まったわけですが、その住宅市場に最近底打ちの兆しが見られます。私は住宅関連指標の中でも最も先行性の高い住宅市場指数を重視しているのですが、この住宅市場指数がここ4カ月連続で上昇、既に2007年夏金融危機が始まる前の水準にまで回復しているのです。先行性が高い分、実際の住宅指標に回復が反映されてくるのは時間がかかると見られますが、今年が住宅市場底打ちの年となる可能性は高まっていると言えます。住宅市場が回復すれば一連の金融危機は終わりです。

それでは株価の水準はどうか? アメリカの主要株価指数であるS&P500指数はまだ、12年前とほぼ同じ水準です。その間、利益はほぼ2.5倍になっていますから、バリュエーションは当時よりもずっと割安と言えます。さらにドル・円は当時よりも30%ほど円高になっていますから、日本の人にとってはかなり有利な条件でアメリカ株に投資できる状況が提供されているのです。現在、S&P500指数の配当利回りは10年物国債の利回りをやや上回っています。これは金融危機の時以外には見られなかった現象です。アメリカ企業の業績は堅調なので配当は安泰、FRBは2014年後半まで低金利維持を表明している訳ですから、この現象が解消するには株式が上昇するしかないのです。

従って私が今年最も魅力的と見ている投資対象は第一に、最初にお話させていただいたドル・円。そして第二はアメリカ株なのです。

(2012年1月28日横浜にて)