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一般的な「低分子薬」や、がんの免疫療法で使われる「抗体医薬」に続く「第3の医薬品」として、『核酸医薬』に注目が集まっています。投与された「核酸」が患部に届く仕組みが開発されたことで、近年急速に実用化が進んでいます。新型コロナのメッセンジャー・リボ核酸(mRNA)ワクチンも『核酸医薬』の一つですが、これまで治療が難しかった種類のがんを始めとする難病の治療薬として期待を集めています。
【ポイント1】『核酸医薬』ってなんですか?
『核酸医薬』はリボ核酸(RNA)に代表される「核酸」を患者に投与することで、私たちの身体に備わるさまざまなタンパク質を作りだす作用を使い、病気を治療しようとする医薬品の総称です。米ファイザー社や米モデルナ社が製造する新型コロナのmRNAワクチンも、この『核酸医薬』のテクノロジーを使い開発されたものです。
私たちの身体は、脳や手足、内臓などさまざまな部位から成り立っていますが、各部位を作り分ける過程でmRNAが重要な役割を果たしています。体の特定の部位が形成される過程では、まずDNAに書き込まれた膨大な遺伝情報から用途に応じた遺伝情報の一部を抜き出し、mRNAにコピーをします。そして、このコピーを設計図に用途に応じたタンパク質を合成することで、身体のさまざまな部位を作り分けています。
こうしたmRNAによる「遺伝情報の一部コピー」から始まるタンパク質の合成の仕組みを利用して、人工的に作られたmRNAを使い病気を治すタンパク質を体内で合成するのが『核酸医薬』の代表的なアプローチです。
【ポイント2】『核酸医薬』が凄いワケ
『核酸医薬』が注目されるのは、その用途が新型コロナのワクチンにとどまらないからです。人工的に作られたmRNAを使い、特定のがん細胞を標的にする「抗原」を体内で合成したり、病変を生む遺伝情報に直接作用することで、これまで治療が困難だった種類のがんでも治療が可能になるとされています。また、再生医療への応用も可能です。人工的に作られたmRNAを使って病気で傷ついた患部、例えば血管を再生することで、心臓病などの治療に応用できると言われています。
こうした『核酸医薬』による治療法は高い効果が得られるだけでなく、従来の医薬品と異なり副作用が少ないと見られることから、さまざまな疾患領域への展開が期待されています。
さまざまな病気の治療に応用可能な『核酸医薬』ですが、かつては体内の免疫機能が障害となり「核酸」を患部に届けることができず、医薬品として思うような効能を得ることができませんでした。しかし近年、「核酸」を構成する物質を部分的に置き換えたり、脂質の膜でコーティングすることなどにより、「核酸」を患部に届ける技術が開発され、急速に『核酸医薬』の実用化が進んでいます。
【今後の展開】『核酸医薬』関連企業の今後に注目
『核酸医薬』の関連企業としてはmRNAを使った新型コロナワクチンを開発したモデルナや、ファイザーと共同で同ワクチンを開発した独ビオンテック社が有名ですが、この2社はがんなどの難病治療の分野でも積極的な新薬開発を進めています。
海外の大手製薬会社も、この2社との共同で積極的に『核酸医薬』の分野に参入しています。米ジェネンテック社はビオンテックと共同して悪性黒色腫の治療薬を、米メルク社や英アストラゼネカ社はモデルナと共同で複数のがん治療薬を開発中です。また、再生医療や遺伝性疾患の領域では、同じくアストラゼネカがモデルナと共同で新薬の開発を行っています。
日系企業では、日東電工のグループ企業が『核酸医薬』の原薬受託製造で、世界シェアトップを誇ります。直近の中間決算でも、コロナワクチン向け『核酸医薬』の原薬ビジネスの好調などもあり、業績を上方修正しました。また、住友化学は「ゲノム編集治療」に使う『核酸医薬』の原薬を効率的に量産する新技術を開発し、今後その製造プラントに50億円強を投じる予定です。
新型コロナのワクチン開発で世界の注目を集めた『核酸医薬』ですが、今後はこれまで治療が難しかったがんなどの難病治療薬として、期待が高まることになりそうです。
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