デルタ変異株の沈静化で年末の旅行シーズンに期待

 米国ではようやく、新型コロナウイルスのデルタ変異株が沈静化の様相を見せています。おとなに加えて、学童へのコロナワクチン接種も承認されました。これによって、年末の旅行シーズンにかけて、行楽需要が爆発することが予想されています。

 例年、サンクスギビング(感謝祭、今年は11月25日)前後は一年で一番、米国の旅行者が多くなる時期として知られています。

 新型コロナに影響を受けたレジャーと出張需要のこれまでを振り返ります。

 2020年末に相次いでコロナワクチンが承認され、接種が始まると、2020年に極端に落ち込んでいた旅行需要は、2021年春ごろから回復し始め、夏にかけてはレジャーを中心として力強い回復が見られました。その一方、出張需要は在宅勤務が主流だったことから回復が遅れました。

 その後のデルタ変異株のまん延で、レジャーの需要は後退しました。しかし、学校が再開されたこと、ビジネスパーソンがゆっくりオフィスに戻り始めていることなどから、逆に出張需要は回復の兆しを見せています。

 デルタ変異株が下火になったので、ここへきて初めてレジャー、出張の両方が本格回復できる見通しになっているのです。そこでホテル株の投資機会を探ります。

注目の米国ホテル株1:マリオット・インターナショナル

 マリオット・インターナショナル(MAR)はホテル業界の中で最もよく経営されている企業として知られています。世界で7,892のホテル、部屋数にして146万室を展開しています。

 同社は高級ブランドを中心に最も多くのブランドを展開しており、ていねいに顧客の特異なニーズに応えています。

 それら多くのブランドを一つにまとめたポイントプログラムが「マリオット・ボンボイ」です。これはマーケティング面でとても重要な役割を果たしています。

 同社の第3四半期決算はEPS(1株当たり利益)が予想99セントに対し99セント、売上高が予想37.1億ドルに対し39.5億ドル、売上高成長率は前年同期比+75.1%でした。

 システムワイドRevPAR(販売可能客室当たり売上高)は前年同期比+118.4%でした。新型コロナウイルスまん延前の2019年と比べると、▲25.8%でした。

 米国・カナダの自社所有物件のRevPARは次の通りです。

ブランド RevPAR
(販売可能客室当たり売上高)
前年同期比
JWマリオット 133.2ドル +203%
リッツカールトン 254.66ドル +144.3%
Wホテルズ 152.07ドル +297.4%
マリオット 100.16ドル +345.2%
シェラトン 100.83ドル +617.5%
ウエスティン 119.69ドル +336.8%
コートヤード 83.23ドル +205.2%
レジデンスイン 120.56ドル +89.4%

 いずれも力強く回復中です。

注目の米国ホテル株2:ハイアット・ホテルズ

 ハイアット・ホテルズ(H)は高品質なサービスを主にビジネス客に提供しています。地域的には北米の割合が高いです。現在、99%のホテルが営業を再開しています。

 同社の第3四半期はEPSが予想▲35セントに対し2.31ドル、売上高が予想8.69億ドルに対し8.51億ドル、売上高成長率は前年同期比+113%でした。

 マネージド&フランチャイズド・ホテルにおけるシステムワイドRevPARは93.7ドルでした。これは前年同期比+137.8%でした。客室稼働率は54.7%でした。これは24.4%の改善でした。

 ブランド別RevPARは次の通りです。

ブランド RevPAR
(販売可能客室当たり売上高)
前年同期比
パークハイアット 143.59ドル +83.4%
グランドハイアット 90.93ドル +126.3%
アンダース 153.89ドル +200.8%
ハイアットリージェンシー 83.89ドル +174.5%
ハイアットセントリック 94.98ドル +235.9%
ハイアットプレース 84.06ドル +99.6%
ハイアットハウス 99.67ドル +87.3%

 客室稼働率は次の通りです。

ブランド 客室稼働率 前年同期比
(パーセンテージポイント)
パークハイアット 42.0% +14.4pts
グランドハイアット 47.5% +20.1pts
アンダース 52.2% +22.4pts
ハイアットリージェンシー 49.1% +26.2pts
ハイアットセントリック 58.2% +34.2pts
ハイアットプレース 65.7% +22.8pts
ハイアットハウス 71.4% +23.2pts

 RevPARの戻りはマリオットに比べると弱々しいですが、これは同社が大企業のビジネス客に強いことと関係しており、ビジネスマンがオフィスに戻ればいずれ回復すると思われます。

注目の米国ホテル株3:ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングス

 ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングス(HLT)は「ウォルドルフ・アストリア」「コンラッド」「LXR」「キャノピー」「ヒルトン」「ダブルツリー」「エンバシー・スイーツ」「ハンプトン」などのブランドを、グローバルに展開するホテルチェーンです。

 ブランドのポートフォリオからすればマリオットに比べて安い価格帯が多くなっています。部屋のグレードで言えばラグジャリーが2%、アッパー・アップスケールが29%、アップスケールが33%、アッパー・ミッドスケールが33%、ミッドスケールが2%などとなっています。

 同社は、いわゆる「持たない経営」を行っています。

 修正EBITDAのうち73%が米国から稼ぎ出されており、欧州は11%、アジア太平洋は10%、その他が6%となっています。

 同社の新規開業予定の案件はアジアに傾斜しており、高品質で、最小限の資本投資で良いリターンが見込まれる案件ばかりです。開業を待っている建設中物件の数はライバルのマリオットやインターコンチネンタルより多いです。現在の建設中客室数は40.4万室です。

 純負債は75億ドル、ネット・レバレッジ比率は修正EBITDAの5.7倍です。向こう3年間は償還を迎える社債は無く、平均デュレーションは7年です。

 同社は「ヒルトン・オーナーズ」と題されたメンバー・プログラムを展開しており現在のメンバー数は1.23億人、過去9年間、平均して年率15%で会員が伸びてきました。同社のホテルに宿泊する客の60%がヒルトン・オーナーズの会員です。

 また同社はデジタル・キーによりチェックイン時にフロントに寄らなくてもスマホをかざせば自分の部屋に入れるシステムを順次導入中です。

 10月27日に発表された第3四半期決算ではEPSが予想84セントに対し78セントと予想を下回りました。売上高は予想17億ドルに対し結果17.5億ドル、売上高成長率は前年同期比+87.5%でした。同社のビジネスは引き続き新型コロナで極端に落ち込んだレベルからの回復中です。

 スモールビジネスの出張が大企業の出張より速く回復しています。一方行楽客は夏に勢いよく改善したのですが、学校が始まったこと、勤め人が会社に戻ったことでやや下落しました。これはノーマルな現象だと思います。

 システムワイドRevPARは90.39ドルで、前年同期比+98.7%、2019年の同期と比較すれば▲18.8%でした。客室稼働率は64.3%でした。前年同期は21.5%でした。

 同社のビジネス・トラベル客のうち70%は中小企業に勤めるビジネスマンです。

 2021年の客室数成長率は+5.0~5.5%を見込んでいます。

注目の米国ホテル株4:チョイス・ホテルズ・インターナショナル

 チョイス・ホテルズ・インターナショナル(CHH)は7,147のホテル、客室数58.8万室を主にフランチャイズ方式により展開しています。同社のブランドはバリューを前面に打ち出しています。

 同社の第3四半期決算はEPSが予想1.36ドルに対し1.51ドル、売上高が予想3.37億ドルに対し3.23億ドル、売上高成長率は前年同期比+53.5%でした。

 RevPARは前年同期比+56.4%の61.37ドルでした。前年同期は39.24ドルでした。

 ブランド別のRevPARは次の通りです。

ブランド RevPAR
(販売可能客室当たり売上高)
前年同期比
カムフォート 75.03ドル +62.3%
スリープ 63.55ドル +55.4%
クオリティー 58.76ドル +57.7%
クラリオン 52.47ドル +79.1%
エコノロッジ 43.66ドル +45.4%
ロードウェイ 43.37ドル +37.2%
ウッドスプリング 46.26ドル +30.3%
メインステイ 60.18ドル +21.7%
サバーバン 43.54ドル +23.9%
カンブリア 94.15ドル +107.2%
アッセンド 98.50ドル +52.0%

 RevPARの増加幅が他のホテルより小さく見えるのは、そもそもコロナ下での同社のビジネスの落ち込みが他社より少なかったことが関係しています。同社のホテルは高速道路沿いなどにあり、ロードトリップの際に利用されるため、新型コロナで空の旅が落ち込んだ際、漁夫の利を得ました。

注目の米国ホテル株5:ウインダム・ホテルズ&リゾーツ

 ウインダム・ホテルズ&リゾーツ(WH)は「スーパーエイト」「デイズイン」「ハワードジョンソン」「トラベロッジ」「ラマダ」「ラキンタ」「ウインダム」など合計で9,000軒のモーテルやホテルをフランチャイズ方式で展開している企業で、部屋数(80.3万室)ベースで世界最大です。

 同社の物件は高速道路沿いや郊外に立地しており、おもに車で行楽に行く客を相手にしています。

 同社は顧客サービスを省略し、コストを安く抑えることで安い値段で勝負しています。ロイヤリティーメンバーシップの加入者数は9,000万人です。

 同社のフランチャイジーの多くはスモールビジネスの個人オーナーです。

 10月27日に発表された同社の第3四半期決算はEPSが予想91セントに対し1.16ドル、売上高が予想4.63億ドルに対し4.63億ドル、売上高成長率は前年同期比+37.4%でした。

 第3四半期のRevPARは45.80ドル、前年同期比+56%、2019年の同期との比較では▲3%でした。

 2021年度のEPSは、予想2.68ドルに対し新ガイダンス2.93~3.03ドルが提示されました。