先週のドル/円は一時113.40円まで下落

 先週のドル/円は、1ドル=115円手前で利食いやクロス円の売りに押されました。

 21日(木)のNY市場では、原油急落とともに114円割れとなり、22日(金)にはパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長がオンライン会合で、物価高や供給制約について「予想よりも長く、来年にかけて続く可能性が高い」と述べ、インフレ圧力の長期化に対する警戒感を示したことから、米長期金利の上昇とともに一時ドル買いとなりました。

 しかし、その後「高インフレは緩和する可能性が高い」「利上げは時期尚早」と発言し、早期利上げを否定したことから、一転ドル売りが優勢となり、113.40円近辺まで下落しました。

 約3週間で5円超上昇したため、ドル/円の調整はしばらく続くかもしれませんが、米長期金利も原油も高止まりしていることから、ここからの調整余地は限定的かもしれません。同時に金利と原油の高止まりが続くのであれば、再び115円を目指すシナリオが顔を出してくるかもしれません。

 今週は月末週であると同時に、下記のように重要なイベントや経済指標が月をまたいで相次ぐため、波乱相場になりそうです。

10月27日(水) カナダ中銀金融政策決定会合
27(水)~28日(木) 日銀金融政策決定会合
28日(木) ECB理事会
28日(木) 米国7-9月期GDP速報値
29日(金) ユーロ圏7-9月期GDP速報値
11月2(火)~3日(水)  FOMC
4日(木) MPC(英国イングランド銀行金融政策委員会)

 ECB(欧州中央銀行)理事会では、9月の理事会で資産購入額を小幅に縮小するとの微調整を決定したため、今月の政策変更はないとの見方が大勢ですが、景気足踏みとインフレ高の中でハト派姿勢の軸をずらすのかどうかが注目されます。

 ラガルドECB総裁は記者会見ではかなり難しい対応に迫られそうです。記者会見中の発言によって相場が上げ下げする可能性もあり、注意が必要です。

 また、28日の日銀金融政策決定会合後の黒田総裁の記者会見は特に注目です。黒田会見では、必ず、円相場と物価のことが聞かれるはずです。前回のコラムでお話した黒田ライン(※)を意識しているのかどうか注目です。

 前回のコラムでは115円が近づくにつれて黒田ラインを警戒する必要がある、との前提でお話しました。しかし、先週、ドル/円が114円台後半へ円安が進行した時に、政府や日銀の動きが何もなかったことから、円相場への警戒感を示さないというシナリオにも注意を払う必要が出てきました。

 もし、円相場に警戒感を示さなければ、115円再トライの可能性が強まることが予想されます。そして、その時のドル/円の水準によっては115円を突破する可能性も出てきます。

 もし、115円を突破すれば、11月2~3日開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)も控えているため、テーパリングへの期待から115円台にとどまるシナリオも想定されます。そのような一連の動きになれば、月末をまたいで相場が大きく変わる可能性もあるため、今週後半の動きには特に注視する必要があります。

(※)黒田ライン…2015年6月、ドル/円が125円(名目為替レート)に近づいた時に黒田総裁が「ここからさらに実質実効為替レート(*)が円安に振れていくことはありそうにない」と、さらなる円安をけん制する発言をしました。黒田総裁がその時のドル/円の実質実効為替レートの水準(68程度)を円安の防衛ラインとして意識していることから、「黒田ライン」と呼ばれています。黒田ラインは、名目為替レートではなく実質実効為替レートであることが重要なポイントです。そして、現在のドル/円の名目為替レートは114円ですが、実質実効為替レートの水準(9月70程度)が円安けん制をした時の水準に近づいているためマーケットで注目され始めています。

*【実質実効為替レート】  
対象となる全ての通貨と日本円との為替レートを、貿易額に応じて加重平均し、海外との物価上昇率格差に基づいて算出した為替レート

資源価格の急騰で、インフレ懸念高まる

 10月6日、ニュージーランド準備銀行は7年ぶりの利上げに踏み切りました。また、英国イングランド銀行の11月の利上げ観測が急速に高まってきています。12月の連続利上げも織り込まれようとしています。

 パウエル議長は早期の利上げを否定しましたが、マーケットでは来年の利上げを2回織り込んでおり、利上げ観測は消えていません。これらの動きは、サプライチェーンの混乱や原油・天然ガスなどのエネルギー価格の急騰によってインフレの長期化懸念が強まっているのが背景です。

 日本経済新聞によると、83カ国の中央銀行の2021年の政策変更は、利上げ32カ国、利下げ8カ国と利上げが大幅に上回っています。2020年と比較すると、2020年は新型コロナウイルスの感染が急拡大したため、利上げ9カ国に対し、利下げは71カ国でした。

 このように2020年は景気対策のため利下げが大勢でしたが、2021年に入ると、ワクチン接種率の上昇や経済規制の緩和による需要の回復によってインフレが起こり、世界の金融政策の状況が一転しました。

 パウエル議長がオンライン会合で指摘したようにインフレが長期化すると、この利上げ状況は来年も続き、むしろ利上げ回数や利上げする国が増えることが予想されます。

 その中で日本は、9月の物価が1年半ぶりにプラスに浮上したとはいえ、まだ0.1%であるため、金融引き締めへの政策変更にはまだまだ時間がかかりそうな状況です。

 金融緩和から正常化を進める各国の金融政策との違いが、より鮮明になってきており、円安けん制発言だけではブレーキの力が弱いかもしれません。

 政策の違いによる意図せざる円安を防ぐためにも、日本も金融政策の次の一手を示唆する必要が高まってきています。黒田総裁の記者会見ではこのような観点からも注視する必要がありそうです。