米雇用統計発表で、前回の宿題が早くも決着
前回のこのコラムで、『当面は、「米国債務上限問題」や「恒大集団の債務問題」と、「FRBのテーパリング開始時期」や「インフレ長期化懸念」との綱引き相場が続きそうですが、上記の2つのシナリオのどちらに引っ張られるのか注目です』と書きましたが、先週の米雇用統計の結果を受けて、早くも綱引きの結果が出てしまいました。
先週8日(金)に発表された米雇用統計の9月NFP(非農業部門雇用者数)は、予想50万人を大きく下回る+19.4万人、伸びは8月の+36.6万人から縮小しました。この数字を受けてドル売りに反応しましたが、過去2カ月分のNFPが+16.9万人の上方修正となったことや、失業率が4.8%と8月の5.2%から改善されたこと、また、賃金(平均自給)が前年比+4.6%と8月の+4.0%から上昇幅が拡大したことから、ドル売りからすぐに切り返し、金利の上昇とともにドル/円は2019年4月以来の高値を抜き、112.20銭台まで上昇しました。
この流れは、週明けのマーケットでも勢いを増し、2018年12月以来、約2年10カ月ぶりの113円台まで上昇しています。
米雇用統計の結果は、FRB(米連邦準備制度理事会)の今後の方針を大きく変えるものではないと市場が受けとめたようですが、やや前のめり感が強い気がします。しかし、原油が下がらないこともあり、円は全面安となっています。
112円台はさまざまな節があるため、綱引きはしばらく続き、簡単に素通りする大台ではないと思っていたのですが、一気に113円台に乗せてしまいました。このまま113円台にとどまると、115円が視野に入ってくるかもしれません。
ただ、113円台は2年10カ月ぶりの水準ですが、この5年間でみると、ドル/円はおおむね105~115円の間で動いていたことから、大きな流れが変わったという動きではありません。115円を上抜ければ、大きな流れが変わったとみる必要がありますが、まだ、そこまでの勢いは感じられません。
しかし、この3年でみると少し景色が異なってきます。ドル/円は、この3年は105~115円のレンジの中の105~110円を中心に動いていましたが、このコアレンジが110~115円に切り上がった可能性があるかもしれません。今後、このレンジでしばらく動くかもしれないというシナリオは想定しておく必要があるかもしれません。これ以外のシナリオで動くとすると、このコアレンジの滞空時間が短く、再び105~110円のコアレンジに戻るシナリオ、あるいは115円を上抜け、新たなレンジに入っていくシナリオが想定されます。
どのシナリオになるのか判断するためにも、今回、コアレンジが切り上がった背景を振り返ってみたいと思います。
9月のマーケット、5つのリスク
9月以降のマーケットのリスクは、
(1)中国恒大集団の債務問題
(2)米国債務上限問題
(3)商品市況上昇、供給制約、人手不足によるインフレ長期化懸念
(4)景気、企業業績の足踏み懸念
(5)コロナ感染再拡大懸念
が挙げられます。そして、このようなリスクの中で、8月にパウエル議長がテーパリングについて「年内開始は適切になり得る」と述べたことから、FRBが年内にテーパリングを開始するかどうかが注目されていました。
これらのリスクの中で、(1)の中国恒大集団の債務問題については、ドル建て社債の利息は利払い日に払われず、30日の猶予期間に入っていることや、他の不動産会社のデフォルトリスクも高まっており、リスクはくすぶり続けていますが、今のところリーマンショックのように国際金融市場に大きな影響は与えないとの見方が大勢となっています。
また、(2)の米国債務上限問題は10月7日に米国議会の与野党が2カ月延長と合意したため問題先送りとなりました。
このように(1)と(2)のリスクが当面後退したことや、(5)のコロナ感染再拡大のピーク感が出てきたところに、原油価格の上昇が加速し、インフレ長期化懸念が高まり、金利が急ピッチで上昇し始めました。
そして注目の米雇用統計は悪くはないとの評価から、FRBが模索するテーパリングは11月告知、12月開始の動きで進んでいきそうな気配となっています。そして日米金融政策の違いが改めて鮮明になり、米金利上昇とともに円安は一気に進みました。
しかし、テーパリングの年内開始は材料としてかなり織り込まれた感があります。今後も同じような材料で円安が進み、115円を上抜けるのはシナリオとして可能性が低いかもしれません。それよりも、これ以上の金利上昇や原油高が企業や景気の足かせにならないか、その影響を確かめる動きになりそうです。
今週から米企業の四半期決算が相次いで発表されますが、ドル高や原油高、あるいはインフレの原因のひとつである供給制約がどの程度企業の足を引っ張っているのか注目です。
そして、10月28日には米国7-9月期のGDP(国内総生産)速報値が発表されます。“GDP Now”と呼ばれるアトランタ連銀の7-9月期GDP予想は、10月8日現在で+1.3%と、かなり低い予想となっています。
アトランタ連銀の予想は直近の経済指標の結果をすぐに反映する速報性があるため、マーケットの注目度が高い予想です。果たして11月2~3日のFOMC(米連邦公開市場委員会)の決定に影響を与えるGDPとなるのかどうか、注目です。
また、金利上昇は米国だけでなく、各国の金利も上昇してきており、世界的に景気にブレーキがかかる可能性もあります。原油高が世界経済の足を引っ張ることも警戒材料です。そして、ドル高は新興国の通貨や株に影響を与える可能性もあります。ここから先は、インフレ懸念や金利上昇は新たな警戒材料を生み出す可能性があり、注意が必要です。
113円台は2018年12月以来の水準ですが、この時の12月の月間の動きをハッサクのメモからみてみますと以下のような動きとなっています。
『月初は、米中首脳会談で追加関税措置が見送られたことを好感し、当月高値の113.87円を付けたが、6日、中国ファーウェイ社CFO逮捕報道を受けて米中関係悪化懸念が高まり、上値の重い展開に。19日のFOMCでは、市場の期待に反しFRBの利上げスタンスが変わらなかったことを市場が嫌気し、株は急落し、長期金利は急低下したため、ドル/円は下落。翌20日には日米欧株式が軒並み下落したことに加え、米政府機関閉鎖への懸念が高まったことや、トランプ米大統領のパウエルFRB議長の解任報道から110円台前半に下落。31日には中国製造業PMIが節目の50を割り込み110円をブレイクし、当月安値109.56円を付けた』
FRBの引き締め姿勢、これを嫌気した株安、米政府機関閉鎖懸念、パウエル議長の去就、中国景気の悪化など現在と似たような環境が目に付きます。
必ずしも現在と同じ環境ではないですが、FRBの金融引き締めが株安を引き起こすことや中国景気の悪化は気になるところです。
果たして今年は、年末にかけてFRBの政策変更とインフレ懸念が続く中で、企業業績や景気にどのような影響が及ぶのか、注目です。
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