毎週金曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄:塩野義製薬(4507)
1.新型コロナワクチン
1)新型ワクチンの現状
今回から、しばらく休止していた薬品株の調査を再開します。今回のテーマは新型コロナワクチンと治療薬、銘柄は塩野義製薬です。
2019年年末から流行し始め、その後世界中に蔓延した新型コロナウイルスに対して、新型コロナワクチンが使われています。10月8日現在の接種率(1回目)は、欧州では60~80%、日本でも73%、アメリカも64%と、各国の国民の過半数がワクチンを接種しており、その多くが2本目を接種するに至っています。
現在、多くの国で使われている新型コロナワクチンはmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンという新しいタイプのワクチンで、アメリカのファイザー、モデルナの2社が開発したものです。両方のワクチンともに感染予防効果、発症予防効果が高く、厚生労働省の資料によると、ファイザーのワクチンの場合、海外で実施された臨床試験後の追跡調査では2回目接種後6カ月間の発症予防効果が91.3%という報告があります(最近、ファイザー製ワクチンの感染予防効果が2回目接種から数カ月で急速に減衰するという研究結果がでている。ただし、入院と死亡を防ぐ効果は高い)。また、モデルナの場合、同様の調査で、2回目接種後6カ月の発症予防効果は90%以上と発表されています。
2)mRNAワクチンの作用機序
mRNAワクチンの作用機序(薬の効き方)は次のごとくです(厚生労働省等の資料による)。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の表面にはトゲトゲした突起の部分がありますが、ここに「スパイクタンパク質」というタンパク質があります。新型コロナウイルスがヒトの細胞内に侵入する時には、ウイルス表面に突き出しているスパイクタンパク質が、ヒトの細胞表面にある受容体、ACE2(アンジオテンシン変換酵素2。細胞表面にある酵素タンパク質)に結合して細胞内に侵入し、増殖を始めます。
ワクチンが接種されると、mRNAは注射部位近くの細胞に取り込まれ、細胞内のリボソームがmRNAの情報を読み込み、スパイクタンパク質を作ります。その後、スパイクタンパク質に対する中和抗体が作られたり、T細胞を介した免疫が誘導されたりすることで、体が新型コロナウイルスに対する免疫を持つことができます。
mRNAワクチンの中には生きたウイルスは入っておらず、遺伝情報を体内に接種しても、それによって人間の遺伝子情報は変わりません。また、mRNAは接種後数日以内に分解され、作られるスパイクタンパク質も接種後2週間でなくなるといわれています。このため、mRNAワクチン接種後1年以上がたってからの副反応はないとされています。
2.CDCのデータベースから見たmRNAワクチン
1)CDCの「VAERS」
CDC(Centers for Disease Control and Prevention。アメリカ疾病予防管理センター)は世界で最も権威のある保健衛生機関の1つであり、アメリカ保健福祉省所管の感染症対策の専門機関です。
このCDCは、「The Vaccine Adverse Event Reporting System (VAERS)」というデータベースを外部に公開しています(ネット上で誰でも使うことができ、CDCとFDAが共同で管理)。アメリカ人がアメリカ国内で承認されているワクチンを接種した後で、接種した人が接種後に死亡などの何らかの不具合(有害事象という)が起こった場合に、オンラインでCDCに通報する制度です。担当した医師に限らず、患者、医療機関など誰でもが通報でき、一般の人が閲覧できます。非接種群との比較ができないため、接種したワクチンと死亡などの有害事象の因果関係を調べることはこのシステムでは困難ですが、リスクの早期発見につなげるためのシステムといえます。
2)mRNAワクチン接種後の死亡者が多い
このVAERSでワクチン接種後に死亡した人の数を調べると、グラフ1のようになります(因果関係が特定できないものを含みます)。2016年から2020年までワクチン接種後に死亡した人はおおむね年間400~600人(死亡した場所が海外を含む)でした。それが2021年には約1万6,000人(死亡した場所が海外を含む)と突出した人数になっています。増えた分はおおむね新型コロナワクチンの接種後に死亡した人です。
また表1~2は、直近のデータをまとめたものです。VAERSでは、各州ごと、アメリカ国内、海外も含めてと、死亡した場所で検索することもできます。そこでアメリカ国内、海外も含めての2通りで死亡者数、有害事象の数をまとめてみました(複数のワクチンを接種した人の重複計上を含む)。
これを見ると、アメリカ国内ではファイザー、モデルナとも死亡者数はほぼ同数ですが、海外を含めるとファイザー製ワクチンを投与した人の死亡者数がかなり多いことが分かります。VAERSは自己申告に基づいたシステムなので、申告しない人もいると思われますが、いずれにせよ、他のワクチンと比べると接種後に死亡する人が極めて多いことが分かります。
有害事象についても同様で、mRNAワクチン接種後の有害事象が数多く報告されています。
また、月ごとに死亡者数を追ってみると、一定の数の死亡者が発生し続けていることが分かります(グラフ2)。接種を拒否している人たちを解雇する動きがあるため、これまで接種しなかった人たちが接種を始めたであろうこと、2本目接種が始まっていることなどによると思われます。
CDCはこれまでのところ、新型コロナワクチン接種後の死亡とワクチン接種の因果関係はないか不明とする立場です。アメリカにはVaccine Safety Datalink(VSD)という、VAERSの欠点を補完して因果関係を調べる研究システムがあります。これによると、因果関係はないということのようですが、それにしてもVAERSでは大きな数字がでています。
グラフ1 アメリカにおけるワクチン接種後の死亡者数
表1 新型コロナワクチン:アメリカでの投与後の死亡者数の数(2021年10月6日現在)
表2 新型コロナワクチン:アメリカでの投与後の有害事象の数(2021年10月6日現在)
グラフ2 アメリカにおける新型コロナワクチン接種後の死亡者数(月次)
3)mRNAワクチンに対する疑問
ワクチンは治療薬とは違い、あくまでも病気を予防するものです。健康体に接種するため、死亡リスクはほぼゼロでなくてはなりません。日本で、インフルエンザワクチンで死亡したと疑われた人は2009年10月~2020年4月までに年間0~4人で、その全てで明確な因果関係は認められませんでした。ちなみに、日本では9月24日までに新型コロナワクチン接種後に死亡した例は1,233例になります(うちファイザー1,198人、モデルナ35人)。このほとんどが、「情報不足などによりワクチンと死亡との因果関係が評価できないもの」と区分されています。
ワクチン接種後の死亡とワクチン接種との因果関係を調べるのはもともと難しく、死亡直後に検死解剖を行う必要があると思われます。アメリカの医学誌「International Journal of Infectious Diseases」は2021年4月16日付けで「First case of postmortem study in a patient vaccinated against SARS-CoV-2」という論文を掲載しています(英文。オープンアクセスなので誰でも読めます)。ファイザー製ワクチンを1回接種した後に死亡した患者の検死報告を元にした論文です。要約すると、その患者は、新型コロナに感染した症状がなかったにもかかわらず、死後各臓器を調べるとウイルスのRNAとスパイクタンパク質が見つかったということです。
前述したように、mRNAワクチンの作用機序では、注射されたmRNAと生成されたスパイクタンパク質は早期に分解されることになります。ところが、この論文では患者の体の中はそうなっていなかったということです。この現象がこの患者だけに現れたものなのか、接種後に死亡した患者に幅広く現れ得るものなのかわかりません。
VAERSのデータを使った記事やブログの多く(特にワクチン接種に批判的な記事やブログ)はグーグル系検索(GoogleとYahoo!など)ではヒットしません。動画、ツイートもYouTube、ツイッターでは削除されます。ただし、Bing、DuckDuckGoで検索するとヒットします。また同種の動画はニコニコ動画にアップされています。情報の中身は玉石混合ですが、有用な情報もあります。
3.mRNAワクチン関連のみへの投資から、治療薬とmRNA以外のワクチンへの投資を考える
このレポートは、投資分析のレポートなので、医学の分析や医療政策の分析をするつもりはありません。グラフ1、2の数字について、医学的あるいは医療政策的見地から因果関係なし、あるいは因果関係は分からないから、ワクチンには異常なしという見解が各国の保健衛生当局から出たとしても、投資を考える場合には、これだけの異常値が出た場合は、因果関係がある可能性を考える必要があると思われます。
ワクチンは完全ではないので、ファイザー、モデルナともに2回打っても感染する場合はあります。従って、治療薬も重要になります。これについては、重要な動きが出てきました。10月1日、アメリカのメルクは、開発中の新型コロナウイルス感染症経口治療薬「モルヌピラビル」について、重症化の恐れがある患者の入院や死亡のリスクを約50%減らす効果がある、という中間臨床試験結果を公表しました。経口の治療薬が上市されて、感染者の自宅療養が容易になれば、今のようにワクチンだけの対策から、治療薬とワクチン両建ての対策に変化すると思われます。
また、日本の厚生労働省も含めて各国の保健衛生当局は、mRNAワクチンは長期的に健康には問題はないという立場ですが、通常の医薬品の場合、長期間(5~8年程度)の臨床試験を経て承認、上市となっても、上市後に未知の重大な副作用が見つかる場合もあります。副作用が出尽くすのは上市して1~2年たってからという説もあります。新型コロナワクチンの臨床試験の期間は1年未満、本格的に接種が始まってからまだ1年たっていません。ワクチンの長期的な安全性が確認できるのは今後1~2年以上たってからではないかというのが私の意見です。この考え方で投資判断をしています。
この分野では、mRNA以外のタイプの新型ワクチンにも注目したいと思います。現在開発中の新型ワクチンの第一のターゲットはもちろん高い効能(感染、発症予防と発症した場合の重症化防止)ですが、同じ程度に重要なターゲットは安全性です。VAERSのデータはこの分野に携わる企業や関係者は誰もが見ています。また、副反応をもっと軽くできないのかということも重要な課題になっています。
新型コロナワクチンの市場は、アメリカ、EU(欧州連合)各国の接種目標が人口の70~80%なので、日本もこれに準じるとすると、日米EUだけで6~7億人の大市場になります。これと効果的な治療薬を組み合わせると、さらに大きなビジネスチャンスがあると思われます。特に先発組であるファイザー、モデルナの弱点が分かっている後発組に注目したいと思います。
そこで今回は、新型コロナの治療薬、ワクチンの開発を行っている塩野義製薬に注目したいと思います。
表3 新型コロナワクチンの開発企業(日本、上場企業のみ)
4.塩野義製薬
1)塩野義製薬の対新型コロナ戦略
塩野義製薬では、新型コロナの早期終息に向け、次の5段階の取り組みを行っています。
1.流行予測:ウイルスの侵入と発生の傾向を早期に検出する下水疫学調査サービス。
2.予防:遺伝子組み換えタンパクワクチン(S-268019)の開発。
3.診断:抗原検査kit、重症化予測のための「Th2ケモカインTARCkit」、新規迅速診断法。
4.治療:新規抗ウイルス薬(S-217622)の開発。開発候補ペプチドの創製。
5.重症化抑制:asapiprantに関する外部連携。
この中で最も重要な「治療」(新規抗ウイルス薬S-217622)、「予防」(遺伝組み換えタンパクワクチンS-268019)について取り上げます。
2)新規抗ウイルス薬「S-217622」
外来使用が可能な経口薬として開発しています。もともと塩野義製薬は抗ウイルス薬が得意なので開発資源の多くを投入しています。
S-217622はウイルスが体内に入って最初に細胞に接着するところを抑えます。ウイルスが細胞内に侵入した後の増殖サイクルに、プロテアーゼ、ポリメラーゼの2つの酵素が大きな役割を果たしています。いま世界で開発されている経口剤は、この2つの酵素のいずれかを抑えるものになっていますが、S-217622はプロテアーゼを抑えるものです。
プロテアーゼを抑えることで、新型コロナの武漢株だけでなく、α、β、γ、δ、いずれの株に対しても同じように効くことが想定されます。変異株で変異するのはスパイクタンパク質であり、プロテアーゼに変異は起きていないからです。
マウスによる動物実験は良好な結果を得たため、今年7月からフェーズ1に入りました。安全性で大きな問題は起こっておらず良好な結果が得られたため、9月27日からフェーズ2/3試験を開始しました。国内で無症候の感染者と軽症患者、約2,100例の試験を行います。この試験をもって年内に国内申請をしたいという意向です。順調に進めば、国内での販売開始は2022年1-3月期になります。ニーズが高いため、ワクチンに先行して臨床試験を進める方針です。
また、海外向けについてもグローバルフェーズ3の試験準備を進めているところです。
3)新型コロナワクチン「S-268019」
遺伝子組み換えタンパクワクチン(ウイルスのタンパク質[抗原]を、遺伝子組み換え技術で作成し人に投与)です。昨年12月から、安全性と中和抗体価を見るための フェーズ 1/2 を実施していましたが、十分な中和抗体が得られませんでした。そのため、アジュバンド(ワクチンと一緒に投与して、その効果(免疫原性)を高めるために使用される物質)と抗原の組み合わせを変え、新製剤でのフェーズ1/2試験を8月に開始しました。
今のところ重篤な有害事象は発現していないため、今年10月下旬にフェーズ2/3試験(安全性、免疫原性試験)に移行する予定です。次いでフェーズ3として実薬対照中和抗体価比較試験(既存のワクチンとの抗体価比較試験)、ブースター試験、プラセボ対照発症予防試験を計画しています。いずれもグローバル試験です。
試験の終了は2023年に入ってからになる予定です。
今後のワクチンの方向性としては、経鼻ワクチンも検討しています。
なお、会社側の安全性に対する考え方は、mRNA もベクターワクチン(アストラゼネカ)も長期の安全性がどうなってくるかは誰も分からないが、遺伝子組み換えタンパクワクチンは、それを5 年、10年続けたときの安全性は、他のウイルスでの経験である程度以上読めているというものです。
4)業績動向
2022年3月期1Q(2021年4-6月期)は、売上高689.65億円(前年比3.4%減)、営業利益187.94億円(同34.2%減)となりました。親会社の所有者に帰属する当期利益は322.38億円(同31.6%増)でしたが、これは大阪国税局からの税金還付135億円によります。
業績動向は減益基調が続いています。売上高では重要な収益源であるHIVフランチャイズ(抗HIV治療薬のロイヤルティ収入)が288億円(同7.1%減)となりました。実質横ばいでポンド高、ドル安の影響で減収となりました。HIVフランチャイズは四半期ベースでは円ベースで減収が続いています。
また販管費、研究開発費が増加したため、営業減益率が大きくなりました。
2022年3月期通期の会社予想は、売上高2,900億円(同2.4%減)、営業利益900億円(同23.4%減)ですが、今1Q決算でもこれが維持されました。
一方、来期以降に向けては、これまで見てきたような新型コロナ治療薬、新型コロナワクチンをはじめとした新薬のラインナップがあります。これらの開発、上市、販売動向が今後の注目点となります。
楽天証券では、2022年3月期を会社予想と同じ、2023年3月期を新型コロナ治療薬の寄与を見込んで、売上高3,100億円(同6.9%増)、営業利益1,000億円(同11.1%増)と予想します。当面は新型コロナ治療薬と同ワクチンが、2023年3月期~2025年3月期の業績を左右することになると思われます。
表4 塩野義製薬の業績
表5 塩野義製薬:医薬品別売上高
5)今後6~12カ月間の目標株価を9,400円とする
塩野義製薬の今後6~12カ月間の目標株価を9,400円とします。楽天証券の2023年3月期予想EPS (1株当たり利益)325.1円に成長性を考慮して想定PER(株価収益率)25~30倍を当てはめました。リスクはありますが、中長期で投資妙味を感じます。
本レポートに掲載した銘柄:塩野義製薬(4507)
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