衆院選の投開票日は10月31日
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10月4日就任した岸田文雄首相が臨時国会の最終日14日に衆議院を解散します。総選挙は19日公示、31日投開票の日程で行われます。
乱戦模様の自民党総裁選を制した岸田首相は「成長と分配の好循環」を掲げて中間層の生活改善を目指す一方、株式市場では増税路線が警戒されています。
報道各社の世論調査では岸田内閣の支持率が低い一方、野党の支持率は伸び悩み、与野党とも選挙の行方を予測しかねているのが現状のようです。
解散の好機がなかった与党。総選挙勝敗のラインも大幅に下げる
前回衆院選は2017年10月、安倍晋三元首相の下で実施されました。今の衆議院議員が4年の任期を満了するのは10月21日。前回まで48回の衆院選のうち任期満了で実施されたのは第34回総選挙(1976年12月)だけです。残りはすべて議員任期の満了前に衆議院が解散しています。
任期満了前の解散は、衆議院は最新の民意を反映すべきだ、というのが建前です。実際には時の首相が最も有利な状況を選んで解散に踏み切ることが多く、任期満了ぎりぎりの解散は、政権与党にとって総選挙で勝てそうな局面がなかなか巡ってこなかったことを意味します。
衆議院の定数は465(10月7日現在、うち欠員4)。このうち約6割の276議席を「自民党・無所属の会」が占め、第2勢力の「立憲民主党・無所属」が112議席です。第3党の公明党は29議席あり、自公連立与党(無所属含む)で305議席、65.6%と3分の2近くになります。
岸田首相は9月29日、自民党総裁就任の記者会見で選挙の勝敗ラインを「与党で過半数」と設定しました。過半数が233議席なので、現時点での自民、公明両党の合計から72議席の大幅減でも「勝った」ことになります。
選挙前に首相が勝敗ラインを明示するのは昭和時代からの慣例で、有権者より党内向けアナウンスの性格が強いものです。明確な基準はなく、自民党内の派閥対立が激しいときは非主流派が高い目標を押し付け、選挙後の責任追及のハードルを下げることもあります。
今回はコロナ禍による国民の不満や不安の高まりを背景に、与党陣営の引き締めを強く意識し、現有議席を大幅に下回る目標を設定したようです。
岸田内閣に変わり、自民党優位の声が台頭するも…
永田町周辺では、自民党優位を予想する声が多いようです。菅政権末期はコロナ対策への批判が集中し、自民党内でも過半数割れがささやかれました。しかし、菅前首相の退陣直後からこうした悲観論は急速に後退しました。
さらに、野党の準備が整っていません。今回、10月4日の首相就任から10日後に解散し、月末31日には投開票という史上最短スケジュールを岸田氏にアドバイスしたのは元首相の麻生太郎副総裁とのうわさがあります。
野党の準備が整う前に、新総裁就任の熱気を残して選挙に突入するというわけです。
立憲民主党は非自民勢力の結集を掲げ、共産党と「部分的な共闘関係」を築こうとしています。
自民党が苦戦する都市部を中心に候補者を一本化して共倒れを防ぐ作戦ですが、現在のところ、野党候補者の一本化作業は難航が予想され、政権獲得に必要な233議席獲得とはほど遠いようです。
それでも自民党苦戦の可能性は消えていません。世論調査での岸田内閣の支持率は59%(日経新聞・テレビ東京が10月4~5日に調査)。菅内閣や第2次安倍内閣の発足直後を下回っています。
一方、過熱した自民党総裁選の影で野党は存在感が薄れています。投票したい候補者のいない選挙では投票率が低下し、強固な組織票を持つとされる公明党や共産党が相対的に有利になるシナリオも考えられます。
マーケットは過去、衆院選前後でどう動いてきたか
では、衆院選前後の株式市場はどう動くのでしょう。
衆院解散の前日と投開票日の日経平均株価の終値を比べると、投開票日にかけての株高傾向が顕著です。
衆院選のあった2017年は9月27日の2万267円05銭から10月20日の2万1,457円64銭へ約6%上昇。2014年は0.4%高と小幅でしたが、その前の2012年は10%高でした。
民主党に政権交代した2009年選挙が12%高と解散前・投開票日前の比較では最大の値上がり率でした。バブル最高値(1989年)以降の10回の解散・総選挙では、すべての回で投開票日にかけて日経平均が値上がりしています。
選挙の投票日が近づくにつれて、与野党ともに支持率獲得のために有権者受けのいい公約を小出しにしてくるものです。まして今回は首相就任から投票日まで日数が短く、与野党が政策を披露するのはこれから。
岸田首相は大型経済対策に意欲を示していますが、内容どころか予算規模も明らかになっていません。投票日に向けてインパクトのある政策が出てくると、株価には当然プラスに作用するでしょう。
株式市場は自民党大勝を警戒
ただ、相場は過去の例の通りには動かないものです。今回は自民党の「勝ち方」が問題になります。
世論調査で支持率が低迷する岸田内閣ですが、政党支持率と実際の投票行動は一致しません。世論調査に回答しても投票に行かない人もいれば、特定の政党は支持していないが、地元の候補者を応援しているケースもあるからです。
株式市場が警戒するのは自民党大勝のケースでしょう。これまで自民党大勝は理屈抜きで株高材料でした。2012年12月総選挙で安倍首相率いる自民党が圧勝し、アベノミクス相場がスタートしたのが好例です。
今回、自民党大勝と株価上昇の直結を妨げるのは岸田氏の増税路線です。岸田氏は10月4日の記者会見で、金融所得課税の見直しを検討すると表明し、「1億円の壁」にも言及しました。株式で潤う超高額所得者の実質的な税負担率が低下する実態を踏まえたものです。
株式の売却益や配当にかかる税率は現在一律20%ですが、これを引き上げるとなれば投資家の反発は必至です。「貯蓄から投資へ」の政策との整合性も揺らぎ、株価にはマイナス材料です。
新聞・テレビではあまり話題になりませんが、岸田氏は総裁選公約で四半期開示制度の見直しを掲げました。
情報開示は重要ですが、四半期業績にとらわれるばかりに企業経営者も投資家も中長期的な成長に関心が薄れてしまう弊害が指摘されるためです。情報開示の後退には投資家の反発が予想され、難しい判断を迫られるでしょう。
自民党勝利なら、この株が上がる
一方、岸田内閣は経産省内閣とも呼ばれています。自民党ナンバー2として岸田氏を支える甘利明幹事長は商工族議員のトップ。岸田氏は萩生田光一経産相とも近く、秘書官に嶋田隆・元経済産業次官と荒井勝喜・商務情報政策局長を起用しました。
このため、選挙で自民党が議席を減らしても、野党に転落する事態にならない限り、原発再稼働の加速が予想されます。
菅義偉前首相の掲げた「2030年度46%削減」の脱炭素路線の実現には、石油・石炭依存度を下げ、代わりに原子力発電でエネルギーを賄うのが現実的だというのが自民党の考え方です。
東京電力ホールディングス(9501)をはじめとする電力会社や日立製作所(6501)など原子力大手の業績拡大をはやす相場が予想されます。
経産省主導で構想が具体化しつつある「大学ファンド」も注目点です。官民合わせて10兆円規模の資金を拠出し、運用益を研究開発支援に充てるプロジェクトです。
「第2の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」とは少しおおげさな表現ですが、日本株の有力な買い手として期待したいところです。
与党大敗のケースは株価にとってマイナスです。海外投資家は意思決定の遅れにつながる弱体政権を嫌い、ヘッジファンド勢による短期的な売り攻勢も考えられます。
岸田首相が増税をためらう程度の自民党の「ちょい勝ち」くらいが、目下の株式市場にとって好都合なのかもしれません。
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