FOMCをきっかけに、1ドル=112円台に上昇

 9月はFOMC(米連邦公開市場委員会)をきっかけに、それまでの1ドル=109.50~110.50円のレンジを上方にブレイクし、一気に112円台に上昇しました。22日に恒大ショックによって109.10円近辺を付けてから、わずか6営業日で約3円、上昇しました。

 月末は経済指標の悪化や月末要因から111円台前半に下落しましたが、この急激な動きは、10月波乱の予兆を思わせるような9月終盤の動きでした。

 10月は、9月終盤のドル高・円安をもたらした要因によって、さらに円安が進むのかどうか、あるいはそれら要因は9月に織り込まれたため円安は限定的なのかどうか、見極める月になりそうです。

 注目の要因は以下の4点です。

[1]テーパリング開始が次回11月2~3日のFOMCで決定されるのかどうか
[2]米国の債務上限問題
[3]中国恒大集団の債務問題
[4]インフレ長期化懸念

 まずは、FRB(米連邦準備制度理事会)のタカ派姿勢に影響を与える、8日(金)発表の米雇用統計が注目されます。

 今週の米雇用統計で、NFP(非農業部門雇用者数)が予想(50万人)を上回れば、金利は上昇し、112円台を再度トライする場面も予想されます。しかし、11月のテーパリング開始決定は、かなり織り込まれた感があり、ドル/円の上値は限定的な可能性があります。

 一方、米雇用統計が先月のようにネガティブサプライズとなった場合(75万人予想で23.5万人)、11月のテーパリング開始決定の可能性が低下することも予想され注意する必要があります。

 また、9月の終わりにタカ派のFRB連銀総裁2人が、倫理規定違反で辞任を発表しました。この辞任によってFRB内のタカ派の影響力が弱まることも、今後影響してくるかもしれません。この2人の他に、クラリダFRB副議長も倫理規定違反が報じられています。

 今後、パウエル議長の責任が追及され、来年2月に任期満了の再任問題にも影響してくるかもしれないため、要注目の材料です。

協議難航中の債務上限問題、Xデイは10月18日

 そして10月は、月末前に金利の一段上昇をもたらした米国の債務上限問題とそれに絡むインフラ投資法案と大規模財政支出の動向を探る月となりそうです。

 米債務上限問題は、インフラ投資法案と大規模財政支出を絡める共和党との協議が難航しています。4日、バイデン大統領は「債務上限はインフラ法案とは関係がない。共和党が協力しなければ、米国がデフォルト(債務不履行)に陥らないとは保証できない」と警告しました。

 共和党との協議も難航していますが、民主党内でもかなりもめている状況であり、イエレン米財務長官が警告したXデイである10月18日に向けて駆け引きが続くことが予想されます。

 格付け会社フィッチ・レーティングスは「米債務上限が引き上げ、もしくは停止されなければ米国債は現在の最上位信用格付け『AAA』を失う可能性がある」と警告しており、2011年8月の米国債格下げショックの再現になるのかどうか、このチキンゲームを注視する必要があります。

中国恒大集団の債務問題、Xデイは10月23日付近

 中国恒大集団の債務問題については、9月29日、恒大集団は傘下の地銀株を売却し、1,700億円の資金を確保しましたが、9月23日に次いで29日のドル建て債利払いも見送った模様です。

 年内社債の利払いは700億円超ありますが、売却資金は恒大集団がすべて自由に使えるわけではないとの報道もあり、デフォルト懸念は依然くすぶったままです。

 また、10月4日、香港証券取引所は、恒大集団と不動産管理子会社の恒大物業集団の株式取引の売買を終日停止しました。

 背景は不明ですが、複数の中国メディアは恒大が恒大物業の株式の約51%を400億香港ドル(約5,700億円)超で売却する計画だと報じました。資産の切り売りで資金繰りの確保を模索しているようです。

 国慶節明けの7日にかけてさまざまな臆測が流れる可能性もあり、引き続き警戒する必要があります。

 また、9月23日の米ドル債の利払いが履行されず、30日間の猶予期間に入っていることから、10月23日付近がXデイとなりそうです。今後、中国政府が思い切った処理に出るのかどうか注目です。

 このように米国債務上限問題や中国恒大集団の経営不安問題が解決されるまでは、引き続き下方リスクを警戒する必要があります。

資源高によるインフレ懸念高まる

 10月4日、OPEC(石油輸出国機構)プラスの閣僚級会議は、従来のペースを維持し、11月も協調減産を日量40万バレル縮小することで合意しました。

 米国を襲ったハリケーンの影響で原油の需給逼迫(ひっぱく)感が強まっていたため増産期待が高まっていましたが、増産見送りを受けて、4日のNY原油先物相場は78ドル台と7年ぶりの高値を付けました。そして原油上昇からインフレ懸念が高まり、NY株は下落しました。

 原油上昇の他にも、冬場を迎える前に、すでに高騰している欧州の天然ガス、中国の電力供給制限による操業停止などによって原材料や部品・製品などの供給不足が続くことなどインフレ長期化の懸念材料がくすぶっています。これらの動向は今後の要注目材料です。

 9月29日、ECB(欧州中央銀行)主催の金融シンポジウムで日米欧英の中央銀行総裁は、景気回復の妨げになっているサプライチェーン(供給網)の目詰まりなどへの警戒を示しました。

 FRBパウエル議長は「供給網の問題が改善せずに、少し悪化しているのはいらだたしい」と指摘し、供給制約は来年まで続きそうで「考えていたよりもインフレを長引かせる」可能性があると述べました。

 今のところ、景気回復のテンポを鈍らせ、インフレに拍車をかける供給制約は一時的なものというのが各国中央銀行の見方ですが、思惑通りにことが進むのか、各国中銀が神経をとがらせています。

 もし、インフレが長期化すれば、長期金利は高止まりする可能性もあるため、ドル/円のレンジ水準が切り上がることもシナリオとして想定されますが、インフレ長期化が景気や株の足かせになり、中国景気後退も加わり、円安は限定的とのシナリオにも注視しておく必要がありそうです。

 当面は、「米国債務上限問題」や「恒大集団の債務問題」と、「FRBのテーパリング開始時期」や「インフレ長期化懸念」との綱引き相場が続きそうですが、上記の2つのシナリオのどちらに引っ張られるのか、注目です。