実はジワリと上昇していた。家計における電気代は、この20年で最大2万円増加

 以下のグラフのとおり、2人以上が住む世帯の電気代は、この20年間で、年間最大約2万円、上昇しました。

 家庭の電気代は基本的に、使えば使う分だけ増えますので、電気代の話の際には量の話が欠かせません。また、単価にも目を配ることが必要です。単価は、電力の需要動向、発電をするためのコスト、政策的要因などで変動することがあります。

図:二人以上の世帯の支出金額における電気代とその割合

出所:総務省統計局の家計調査(家計収支編)をもとに筆者作成

 年間2万円の負担増加は、1カ月あたり約1,700円の負担増加を意味します。この額を大きいととるか、そうでないととるかはご家庭により異なると思いますが、すでに家計の4%程度まで、電気代の負担が増加していることを考えれば、関心を抱かずにはいられません。

 本レポートでは、日本の家庭などにおける電力需要や、発電コストに関わる液化天然ガス(Liquefied Natural Gas、以下LNG)の輸入量や価格の変遷、今後のエネルギー価格の動向などについて、解説します。

電力は、豊かな生活を支えつつ、「脱炭素」を進める上で重要な役割を担う

 まずは、電力の需要面について述べます。電力需要は、世界的に見ても増加傾向にあります。人類が発展することを望んでやまない先端技術のほとんどが、電力を必要としているためです。

 人類は、特にこの20年間、さまざまなところでより多くの電力を使うようになってきました。暗くなれば明かりをともし、寒くなれば(暑くなれば)暖房(冷房)をつけ、煮炊きをするために熱を欲し、遠くに移動するための動力を欲する。

 豊かな生活を送るためのこうした最低限の電力のみならず、瞬時に膨大な情報を伝達することができる高度な電子機器を使用したり、デジタル通貨をマイニング(掘削)したり、軽くて加工しやすい金属を大量に精製したりするために、莫大(ばくだい)な電力を使うようになりました。

 人々の生活において、電力の重要性は、年々、というよりも日に日に、高まっていると言えるでしょう。

 以下のグラフは、日本における、家庭用のエネルギー消費機器の保有状況を示しています。暖をとるにしても、石油ストーブやファンヒーターなどの直接的に化石燃料を使用する機器ではなく、ルームエアコンといった電力を用いる機器が選ばれるようになったことが分かります。

図:家庭用エネルギー消費機器の保有状況

出所:資源エネルギー庁「エネルギー白書2021」などをもとに筆者作成

 また、携帯電話やパソコンなどの現代社会の必需品や、生活環境をより良くするための温水洗浄便座なども普及してきています。便利で豊かな暮らしを実現・維持するために、電気を消費する機器が、どんどんと身の回りに増えてきているのです。

 以下のとおり、電力を欲するのは、家庭だけではありません。工場などの産業用、サービス産業などの業務用にも、多くの電力が使われています。

図:分野別の最終電力使用量

 今後さらに省エネが進んだとしても、人々が豊かな生活を望む以上、全体的には、電力需要は高止まりするかもしれません。

 むしろ今後、世界的なブームとなった「脱炭素」を実現する上で欠かせない「電化」がさまざまな分野ですすんだ場合、電力需要は高止まりではなく、大きく増加する可能性があるでしょう。

現在の日本の電源構成は、火力がメイン。新エネルギー、水力が続く

「豊かな生活」「脱炭素」を維持・達成するために欠かせない電力を、日本ではどのようにして生み出しているのでしょうか。以下のグラフは、どの分野でどの程度発電しているのかを示す、いわゆる「電源構成」です。

図:発受電電力量の推移 (一般電気事業用)

出所:資源エネルギー庁「エネルギー白書2021」などをもとに筆者作成

 かつての日本は、石油火力による発電と水力による発電が主流でした。しかし、1970年代の「オイルショック」を機に脱石油が加速し、次第に、天然ガス火力と原子力が主流になっていきました。

 その後、東日本大震災が発生したり、「脱炭素」が世界的なブームになったりして、発電をめぐる環境は大きく変化しました。

 2019年度時点の構成比は、化石燃料(天然ガス+石炭+石油などを燃料とした火力発電)が76%、原子力が6%、再生可能エネルギー(地熱および新エネルギー+水力)が18%です。

 日本政府が現在検討している、2030年度までの新しい目標は、化石燃料が40%程度、再生可能エネルギーが30%台後半、水素・アンモニアが1%以上、原子力が20%程度、とされています。

 火力発電がメインの日本において、これから10年をかけずに、化石燃料の割合を76%から40%に減らすという、野心的な目標が検討されているわけです。

 実現のため、より多くの温室効果ガスを排出する石炭を減らし、比較的同ガスの排出量が少ないとされる天然ガスへのシフトが進む可能性があります。

 石炭を使用しなくなる(代替手段がなくなる)分だけ、今よりも、天然ガスの重要性が増すことになると、考えられます。

LNG(液化天然ガス)は東南アジアやオーストラリアなどから輸入している

「脱炭素」をきっかけとし、政策的な側面から、今後ますますLNG(液化天然ガス)による火力発電の重要性が増す可能性があると、書きました。そのLNGですが、どこから輸入しているのでしょうか。

 以下は、日本におけるLNGの輸入先です。

図:日本における液化天然ガス(LNG)の輸入先

出所:財務省貿易統計のデータをもとに筆者作成

 日本のLNG消費量は世界最大級です。天然ガスは、マイナス約162度に冷却すると、液体化し、体積は600分の1程度になります。タンカーでの輸送といった大量輸送や大量保管の際は、この性質が活用されています。

 日本はLNGのほとんどを、輸入に頼っています。輸入先は、2019年度時点(コロナ前)で、オーストラリアからが39.2%、東南アジア(マレーシア、ブルネイ、インドネシアなど)が27.7%、中東(カタール、オマーン、UAEなど)が17.0%、ロシアが8.3%、米国が5.4%、アフリカが1.6%、その他が0.9%です。

 グラフのとおり、20年前に比べて、輸入先の国の数が増えたことが分かります。2000年度は8カ国でしたが、2019年度は15カ国でした。調達先の多角化が進んでいることが分かります。

 先述の通り、日本政府は、2030年度までに化石燃料を使用した火力発電を40%程度まで低下させることを検討しているわけですが、このことは、2030年度までは、火力発電をゼロにしないことをも、意味していると言えるでしょう。

 石炭の使用量を減らし、少しでも温室効果ガスの排出量を低減させながら、火力発電のメインをLNGにすることになるでしょう。エネルギーの安定供給を目指すべく、今後もますます、調達先の多角化が図られることになるかもしれません。

輸入LNG価格は、原油価格の半年あとをたどる。海外の天然ガス価格にも注目

 電力需要を拡大させるさまざまな社会的要素が存在する中、日本政府が検討している「2030年度までは火力発電をゼロにしない」方針により、2030年度までに、日本の火力発電のメインがLNGになる可能性があると書きました。

 ここからは、日本が輸入に頼るLNGの価格について、述べます。以下は、先述の日本の輸入先ごとの、輸入量・輸入総額から算出したLNGの輸入価格です。WTI原油先物の推移を併記しています。

図:液化天然ガス(LNG)の輸入価格と原油先物価格の推移

出所:財務省貿易統計とブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 算出したLNG輸入価格は、2021年7月時点で1トンあたりおよそ5万5,000円です。2019年8月に近い水準まで反発しています。全体的には、LNG輸入価格は「原油価格の半年あと」をたどっていると、言えます。

 原油価格と似た動きになるのは、価格決定の仕組みがそうなっているためです。原油価格リンク方式と呼ばれ、アジアや一部の欧州諸国で採用されています。(欧米では天然ガス自体の需給で決まるハブ方式で価格が決まっています)

 今から半年前の原油価格は1バレルあたり60ドル前後でした(WTIベース)。レポート執筆時点(9月下旬)では75ドル前後です。

 この半年間、原油価格が上昇し続けたこと、そして、LNGの輸入価格が原油価格の半年あとをたどる傾向があることを考えれば、短期的には、今年の冬場の電力需要期は、LNG輸入価格が今よりも(比較的大きく)上昇している可能性があります。

 また、参考までに、米国の天然ガス先物価格の動向と見比べてみます。

図:液化天然ガス(LNG)の輸入価格と米天然ガス先物価格の推移

出所:財務省貿易統計とブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 2013年ごろ以降、主に米国国内の需給動向で決まる米国の天然ガス先物価格が低水準から反発した局面で、日本の輸入LNG価格も同様に、反発色を強めていることがわかります。

 価格決定方式が異なるとはいえ、「エネルギー」「天然ガス」という共通項が存在するため、連想的な価格反発が起きているのかもしれません。

単純だが、家計における電気代上昇の負担を、エネルギー価格に連動する商品で補う

 現在は9月下旬です。今後数カ月間、日本を含んだ北半球では気温がどんどんと低下し、暖房のための電力が必要となる、いわゆる「需要期」に入っていきます。

 電力需要が増加しながらも、半年間、反発し続けた原油価格の動きを受け、短期的に、LNGの価格が上昇し、発電コストが押し上がる可能性があります。

 長期的には、2030年頃までは、石炭からのシフトが進んでLNGの需要が増すと、同時に、以前の「OPECプラス、4度目の正直でようやく合意。今後どうなる原油相場」で述べた通り、LNG価格の指標となる原油価格が上昇する可能性があります。

 また、世界的に「脱炭素」が進んでも、前回の「クイズでおぼえる、誰かに言いたくなる「原油の基礎データ」」の最後で述べたとおり、原油価格は上昇する可能性があると、筆者はみています。

 こうした状況を考えると、冒頭で述べた、目下、長期的に上昇傾向にある家計における電気代が、今後さらに増える可能性があることを、簡単には否定することはできないでしょう。

 何か、運用で対応できることはないか、と考えた時、単純ですが、エネルギー関連銘柄を、資産の一部として保有してみる、というアイデアが思い浮かびます。

 とはいえ、電気代の上昇分を補うために、大きな投資資金は必要ないでしょうし、エネルギー関連銘柄を保有したことで全体のパフォーマンスを悪化させてしまうことがあれば、本末転倒です。

 ですので、もし、具体的に同銘柄の保有を考えるのであれば、少額で始められる商品がよいのではないでしょうか。以下に具体的な投資商品を記載しますので、参考になれば、幸いです。

[参考]天然ガスと関わりが深い投資商品例

種類 コード/ティッカー 銘柄
国内ETF/ETN 1671 WTI原油価格連動型上場投信(東証)
1690 WTI原油上場投資信託 (東証)
1699 NF原油インデックス連動型上場(東証)
2038 NEXT NOTESドバイ原油先物ブル
2039 NEXT NOTESドバイ原油先物ベア
投資信託   UBS原油先物ファンド
外国株 XOM エクソンモービル
CVX シェブロン
COP コノコフィリップス
BP BP
GLNG ゴラールLNG
NFE ニュー・フォートレス・エナジー
IXC iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF
XLE エネルギー・セレクト・セクター SPDR ファンド
海外先物   ミニWTI原油、ミニ天然ガス など
CFD   原油 (10月4日取り扱い開始)