執筆:香川睦

今日のポイント

  • 米国のシリア爆撃を受け、朝鮮半島を巡る地政学リスクが緊迫化。日米の「恐怖指数」は上昇し、リスクオフ(回避)の金買い、債券買い、円買いを受けて日本株は下落した。
  • 株価が下落した一方、業績改善(EPS拡大)見通しは根強く、予想PERは約13.3倍とアベノミクス相場でのレンジ下限まで低下。株価の底値が近づいている可能性を示唆。
  • 米政権の国防予算増額方針に武力行使観測が重なり、米国市場では「防衛関連株」が市場平均よりも優勢に推移。日本の防衛関連銘柄も一時的にせよ人気化する可能性。

(1)日米市場で「恐怖指数」が上昇している

米国によるシリア爆撃(4月7日)を受け、市場は地政学リスクの深刻化と向き合う展開となっています。特に、朝鮮半島における有事(米国と北朝鮮の衝突)の可能性は緊迫の度を増しています。こうしたなか、日米市場の「恐怖指数」(株式指数ベースのボラティリティ指数)は先週から上昇しており、投資家が先行きの相場変動に備える動きを強めていることを示しています(図表1)。韓国の株式(KOSPI指数)や通貨(韓国ウォン)も先週から下落し、有事(いざと言うときの)ニーズを受け、金相場は5ヶ月ぶり高値に上昇。安全資産としての米国債買いで債券利回りが低下すると、日米金利差縮小でドル円は下落(円は上昇)。「朝鮮半島に近く流動性が高い日本株」が売られる展開となりました。金日成・故主席生誕105周年を15日に控え、北朝鮮の新たな挑発行為やトランプ政権の対応が警戒されます。

 

(注:恐怖指数=株価指数ベースのボラティリティ指数、出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(4月13日))

(2)予想PER面からは株価の割安感が鮮明に

前述した「恐怖指数」上昇が象徴するように、市場のセンチメント(投資家心理)は悪化しており、特に(リスク回避による)円買い圧力が緩和しない限り、日本株の反発は見込みにくい状況です。ただ、今般の株価調整で割安感は強まっており、欧米政治や地政学リスクを巡る不透明感が後退するに連れ、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)面からは見直し買いが入りやすい水準と考えられます。

図表2は、「アベノミクス相場」と呼ばれる2013年以降の日本株について、TOPIX(東証株価指数)と同指数ベースの予想PER(株価収益率)の推移を示したものです。同期間中の予想PERの算術平均は約14.9倍で、主たるレンジ(平均±1σ(標準偏差))の上方(平均+σ)は約16.3倍、下方(平均-σ)は約13.5倍で推移してきました。そして今回、株価が下落した一方、EPS(1株当り利益)の拡大見通しは根強いことを要因に、予想PERは約13.4倍と「平均-σ」(13.5倍)付近で割安感を鮮明にしています。テクニカル面でも、東証1部の「騰落レシオ」(株価上昇銘柄数÷株価下落銘柄数(25日累計))も「売られすぎ」を示唆する80%を割り込みました(76.3%/4月12日)。日経平均は、昨年11月9日(終値16,251円)から3月13日(同19,633円)までの上げ幅の38.2%(1,291円)押しである18,342円に接近しており、値ごろ感からも買い戻されやすい水準となっています。

トランプ政治への過度の期待が剥落し、欧州政治を巡る不透明感(フランス大統領選挙)が燻っている状況ではありますが、悪材料を織り込んできただけに割安感からの買い戻しが入りやすい状況です。今後本格化する決算(1-3月期)発表で業績の堅調が確認されれば、下値を切り上げる動きに繋がる可能性もあります。

 

(注:予想PER=Bloomberg集計による市場予想平均、出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(4月13日))

(3)防衛関連の「トランプ相場」は続くのか

地政学(有事)リスクが高まるなか、米国市場では相対的に防衛関連株が物色されています。トランプ大統領は大統領選挙中から「強いアメリカ」を標榜。大統領就任後の3月16日に公表した来年度予算案(骨子)で「国防費増額」を提案しました。こうした状況を受け、昨年11月の大統領選挙以降、「S&P航空宇宙・防衛関連株価指数」は市場平均(S&P500指数)をアウトパフォームしてきました(図表3)。同株価指数には、ボーイング(BA)、ロッキード・マーチン(LMT)、ゼネラル・ダイナミクス(GD)、レイセオン(RTN)、ノースロップ・グラマン(NOC)など米国の国防関連銘柄が多く含まれています。また、トランプ大統領は日本や同盟国に対し「自分の国は自分で守れ」、「米国に守らせるなら資金をもっと拠出せよ」などと発言してきた経緯があります。今後、日本の自衛力強化(国防予算増額)で恩恵を受ける銘柄群への物色も強まる可能性はあります。防衛関連銘柄群としては、三菱重工(7011)IHI(7013)日本電気(6701)三菱電機(6503)川崎重工業(7012)OKI(6703)SUBARU(7270)などが挙げられます。とは言うものの、実際の朝鮮半島有事が4月7日付け本レポート「不確実性と向き合う市場-朝鮮半島有事は?」で示したようなメインシナリオ(短期決戦での決着)で終わるなら、不透明感後退(アク抜け)でドル円が買い戻され、日本株も反発に転じる可能性があります。この場合、防衛関連銘柄の物色もいったんは落ち着く可能性がありますので注意が必要です。

 

(注:2016年4月初=100とした場合、出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(4月12日))