サブプライムは「出口の見えない」問題か? (2007年9月10日)で書かせていただいた通り、「サブプライム住宅ローン証券の価値が市場に認められる形で、時価に引き直されれば、かなりの問題が解決すると考えています。しかもこれらが時価に引き直される事に伴う損失は一時的性格の強いものである事を忘れてはなりません。」というのが私の考えでした。しかし実際には現状、「金融機関の保有証券の価値が、市場に認められる形で時価に引き直される」からは程遠い状況にあります。

原因の一つとして、ちょうど金融機関でサブプライム関連証券の損失が出始めた2007年に実施された、資産・負債の時価評価に関する会計ルールの変更が挙げられます。

第一に、FAS159というルールが導入されました。これはこれまで資産のみに適用されていた時価評価を負債にも適用するというものです。例えばある会社の発行する社債が額面100から市場価格80に低下したとします。資産が値下がりしたら評価損を出すのと同じように、負債が減少したので、この20の評価益を計上するというものです。

一見、「自社の社債価格が下落したら利益が出る」というのは奇妙な感じがしますが、実は資産のみを時価評価していた以前のルールよりも公正なものです。よってこのルール自体は問題ではありません。問題はルール変更の時期が、金融危機によって多くの金融機関が発行する社債の価格が下落した時期と重なってしまった事です。換言すれば、本来もっと大きな金額の証券評価損が出るところが、負債減少の利益によって相殺されてしまったのです。その後当該金融機関に対する信用が回復する一方、保有証券の価値が回復しなければ、損失は膨らむ事になります。そして現在、正にその状況が起こっています。

第二に、FAS157というルールによって、資産の時価取得可能性によって3段階に分けて開示する事が義務付けられました。レベル1は市場価格をもとに時価評価する資産、レベル2は類似資産の市場価格を参考に評価する資産、レベル3は市場価格が入手困難なため、自社のモデルで評価を割り出している資産です。言うまでもなく、投資家にとってはレベル1の資産は市場で取引されている値であり、投資家にとっては最も信頼性が高い指標です。一方でレベル3は、恐らく市場が存在しないとか、極端に流動性に乏しいなどの理由で、実際にその「理論値」で売却できる可能性は非常に低いと推測できます。このような中、大手金融機関で仕組金融商品の多くをレベル3に放り込む動きが起こっています。

上記2つの会計ルールを合わせれば極端な話、負債減少による利益は計上するが、評価損が出そうな資産はレベル3に放り込む、という事も出来てしまう訳です。資本増強の必要性、報酬の多くが株式オプションで支払われている事などを勘案すれば、大手金融機関がこのような会計ルールを「利用」してしまう動機も説明できます。

しかしこのような事を続けているうちに、投資家の信用はどんどん失われていっています。3月から実施されている連銀によるプライムディーラー(大手証券会社含む)への直接貸出は早ければ9月にも打ち切られます。それまでに大手金融機関が投資家の信用を回復できるような、誠実な開示の姿勢を見せるかどうかは重要なポイントと考えています。