無限にお金を印刷するマネープリンターがいる中で、何が安全なのかもうわからない!?

 ウェルシオンのAdam Taggartとのインタビューで、著名投資家のマーク・ファーバーは次のように語った。

「安全だと思われているもの、つまり現金は、もう安全ではない。安全ではないのだ。何が安全かと聞かれても、私には何が安全なのかわからない。無限にお金を印刷するマネープリンターがいる中で、何が安全なのか、私にはもうわからない。彼らはやめられないと思う。むしろ、お金の印刷を加速させなければならないと思う。つまり、株は上がっても、実質的には生活水準が上がるわけではないのだ。世界で最も裕福な50人の生活水準は上がるかもしれないが、典型的な米国人の生活水準は上がらない。その生活水準は下がるだろう」

「多くの人があまり考慮していないことだが、賃金インフレが起こるだろう。1970年代後半以降では初めて賃金インフレが加速し、場合によっては非常に劇的なものになるだろう。州によっては、最低賃金が15ドルのところもある。これがあっという間に時給30ドルになるのは目に見えている。インフレは(FRBが宣言するように)「一過性のもの」ではないと思う。スタグフレーションにはならないだろう。もっとひどいことになるだろう。物価が上昇し、ほとんどの人の生活水準が落ち込むことになるだろう」

出所:『「セントラルバンカーたちは犯罪者」 マーク・ファーバーが警告 「COVIDが終わればエリートは戦争を始める」』(ゼロヘッジ)

 私たちが現在みている市場は、もはや「バブル」という領域を離れて「国家管理相場」となっている。無限大量的緩和(QEインフィニティ)相場は、1718年から1720年にかけてフランスで起きた「ミシシッピ・バブル」に似ている。

 中央銀行であるバンク・ロワイヤルの理事として通貨を管理していたジョン・ローは、通貨インフレと資産投機の奨励を組み合わせて、同様の富の効果を生み出した。

 市場を支えるための通貨の印刷は、今日繰り返されるであろう理由で失敗した。「ミシシッピ・バブル」とはいかなるものであったのか? 今回のレポートでは、「量的緩和相場のひな型」である「ミシシッピ・バブル」を検証することで、現在の「国家管理相場」がいかなる形で崩壊するのかをイメージしておきたい。

1718年から1720年にかけてフランスで起きた「ミシシッピ・バブル」は量的緩和バブルの先例

「いつの時代にも、その時代ならではの愚行が見られる。それは陰謀や策略、あるいは途方もない空想となり、利欲、刺激を求める気持ち、単に他人と同じことをしていたいという気持ちのいずれかが、さらにそれに拍車を掛ける」

『狂気とバブル―なぜ人は集団になると愚行に走るのか』の著者チャールズ・マッケイの言葉である。

 途方もない狂気や荒唐無稽な計画、大衆をけむに巻く詐欺事件など、古今東西を問わず、どんな時代においても、いかに大衆がいかに無分別なヒステリー症にかかりやすいかを示している。大衆の狂気、群衆の行動、人々の愚行など、なぜ人は集団になると狂うのか…。

 現在、金融資産に対する国民の信頼を維持するために、国家が介入して金融資産の価値を高めようとしている。それが量的緩和(QE)の最大の目的となっており、現在、欧米と日本の主要国で展開されている政策だ。

 その結果、金融資産の価値を維持するためには、これまで以上に大量のQEが必要となる。この政策は金利抑制に加えて、政府の赤字を手頃な価格で調達するために不可欠なものとなっている。

 1718年から1720年にかけてフランスで起きたミシシッピ・バブルは現在のバブルの先例と言えるだろう。このバブルはある一人の男が引き起こした壮大な信用拡大の結果によるものである。

 1671年スコットランドのエディンバラで生まれたジョン・ローは14歳から父親が営む会計事務所で働き、数字には強かった。その後、大賭博師として知られるようになるが、破産の憂き目にあう。

 14年にわたり、オランダ、ドイツ、ハンガリー、イタリア、フランスと放浪の旅を続け、その放浪期間中に各国の貿易や財政に精通するようになる。

 1715年、当時まだ7歳だったルイ15世が王位につくと、成人に達するまでオルレアン公フィリップが摂政としてフランスを統治することになる。ジョン・ローはオルレアン公フィリップの友人であった。

 当時、ルイ14世のぜいたくを極めた暮らしと政治により、フランスの財政は逼迫(ひっぱく)しており、国家財政は破綻の一歩手前にあった。

 困窮を極めたフランスの信用回復の手段として、ジョン・ローは銀行の設立許可を政府に申請し、1716年5月に「ロー・アンド・カンパニー銀行」を設立する。証券を発行すると、この証券の評価が高まり、フランス経済が回復に向かうきっかけとなった。

 経済が回復基調に乗ると、摂政であるオルレアン公までがジョン・ローの提案にはノーと言うことができなくなった。ジョン・ローの信用はさらに増幅し、特権が与えられた。

「ロー・アンド・カンパニー銀行」はたばこの専売権と金銀の独占精錬権を取得、その後、フランス王立銀行に昇格した。そこから、無謀な紙幣の増発が始まることになる。

 ジョン・ローは広大なミシシッピ川とその西岸にあるルイジアナ州との独占貿易権を有する会社の設立を提案し、1717年には「ミシシッピ会社」を設立した。

 さらに1719年には、ミシシッピ会社は東インド、中国、南太平洋地域との独占貿易権などを得て事業を順調に拡大させた。

 ミシシッピ会社の株式が高値で取引されるようになり、ミシシッピ会社の株式をなんとかして手に入れたいという人々がジョン・ローの自宅にまで訪れるなど、狂乱状態が加速したという。

ミシシッピ・バブルにトドメを刺したのは通貨ルーブルの暴落

 風向きが変わるきっかけとなったのは、1720年初頭、ミシシッピ会社の新株購入を断られた人物が、大量のロー・アンド・カンパニーの証券を換金したことである。これを境に、人々はミシシッピ会社株を少しずつ売り始めた。

 1720年3月の時点で、このプロジェクトに売りが集中し、株式はピーク時の1万ルーブルから翌年9月には4,000ルーブルにまで暴落した。しかし、それ以上に犠牲になったのはフランスの通貨ルーブルで、ロンドンやアムステルダムの外国為替市場ではほぼ無価値となってしまった。

 ジョン・ローは、このように通貨インフレと資産投機の奨励を組み合わせて富の効果を生み出した。現在の政策に照らし合わせれば、ジョン・ローの行動はQE(量的緩和)だ。中央銀行がQEによって貨幣量を拡大して市場を支える介入を行っていることとの類似性が際立っている。

 ルーブルの流通量が拡大したことで、パリだけでなく、地方でも物価が上昇し始めていた。物価が上昇した理由は、ルーブルがインフレによって購買力を失っていたからである。これがミシシッピ・バブルの最後のトドメとなったのである。

 ミシシッピ・バブルのピークから半年余りで株式はベア・マーケットとなり、ともに通貨が暴落した。現代の通信手段や世界的な金融バブルの規模を考えると、300年以上前のフランスで経験したものよりもインパクトは格段に大きくなるだろう。

 バブル歴史については、『狂気とバブル―なぜ人は集団になると愚行に走るのか』(チャールズ・マッケイ)を参照されたい。

『狂気とバブル―なぜ人は集団になると愚行に走るのか』チャールズ・マッケイ著(パンローリング)

出所:楽天ブックス

波乱のスタートとなった法定通貨としてのビットコイン

 中米エルサルバドルが世界で初めてビットコインを法定通貨として使用する国となった。この金融政策上の大胆な実験は世界中からの注目を集めている。

 初日から、アプリの不具合が発生したほか、首都のサン・サルバドルでは反対派によるデモが行われるなど波乱のスタートとなっている。

 加えて、仮想通貨交換業者で米最大手のコインベース・グローバルが米証券取引委員会(SEC)から法的措置を取る可能性に関する事前通知を受けたことを明らかにし、規制当局が業界を取り締まる構えであることを示唆したことも重なり、ビットコインの相場は大幅下落に見舞われた。

 エルサルバドルは治安の悪化や貧困などを理由に、米国に多くの移民を送り出しており、2001年から法定通貨として米ドルを採用している。エルサルバドルへの国際送金額は2020年に59億ドルと、2019年に比べて5%増加し過去最高となった。

 国内への送金や移民による国際送金はエルサルバドルのGDP(国内総生産)の20%以上を占める経済の重要な要素となっている。

エルサルバドルにおける個人送金のGDPに対する割合

出所:CNBC

 その一方で、国民の約7割は銀行口座を持っておらず、もし口座があったとしても国際送金に10%以上の手数料を請求される場合があったり、送金が確認できるまでに数日かかる場合があったりなど手間とコストの負担は大きい。

 ビットコインが法定通貨として採用されれば、外国に滞在する就労者から母国エルサルバドルへの送金の利便性は格段に高まることが想定される。

 CNBCの記事「El Salvador’s new bitcoin wallets could cost Western Union and similar companies $400 million a year(エルサルバドルがビットコインを財布にすることによってウエスタンユニオンや同業企業には年間4億ドルの損失になるだろう)」によると、現在、送金に関して60%は送金会社を経由し、38%は銀行を経由している。

 ビットコインが法定通貨になることによって既存の送金会社に4億ドルから最大で10億ドルの損害を与える可能性があると推定されている。

「この時代に、実際にウエスタンユニオンの事務所に行って、実際の現金を渡し、さらに25ドルをコミッションとして取られるなんておかしい。しかも実際にエルサルバドルに到着するまでには3日かかる」と不満を漏らす個人の話が掲載されていた。

 また、エルサルバドル本国で現金を引き出す時にも問題が大きいという。バスに乗って実際の場所まで取りに行かなければならないが、その事務所の周りにはギャングがたむろしているらしい。

世界の外貨準備における米ドルのシェアは下がり続けている

出所:WOLFSTREET

 ドルに対する信頼感だけでなく、そのドルを中心に構築されてきた既存のシステムに対する不信感も強まっているのは間違いない。

 既存の枠組みを守ろうとするエコノミストや国際通貨基金(IMF)、格付け会社はこの取り組みについて、経済の安定を脅かし消費者をリスクにさらすだけでなく、政府自身がビットコイン価格の乱高下で影響を受ける可能性があると批判している。

 しかし裏を返せば、それだけ、仮想通貨は伝統的な金融システムを根底から覆し、中央銀行の存在意義を揺るがせているということであろう。

 ブリッジウォーター・アソシエーツのレイ・ダリオは9月15日のCNBCで、「まず知っておいてほしいのは、現金はゴミであり、資産を現金で持つなということだ」と述べた。暗号資産ビットコインを保有しているとしながらも、同市場は政府に破壊される恐れがあると警告した。

9月15日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』

 9月15日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』は、永倉弘昭さん(楽天証券FX事業本部長)をゲストにお招きして、「現在の国家管理相場はいかなる形で崩壊するのか!?」・「通貨の年末高のアノマリー」・「注目通貨のテクニカル分析」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube
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 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

9月15日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube