我々が運用しているファンドでは昨年夏以降、エネルギー・セクターが保有セクターのトップになっています。原油先物価格がまだ60ドル台であった2006年1月に書かせていただいた「原油価格100ドル?(2006年1月6日)」の通り、今回の原油価格上昇はこれまでにあった供給ショックというよりも、需要によるところが大きく、なかなか収まりそうにないという考えもありました。そしてエネルギー関連企業を個別に分析していくと、どうやらこの世の中、簡単に掘り出せる原油はもう殆ど残っていないという結論に至りました。にも拘らず、「良いビジネスを安く買う」という方針で投資対象を探していると、自ずから沢山のエネルギー株が発掘できたというのが大きな理由でした。

その中でも特に魅力的だったのはカナディアン・ナチュラル・リソーシズ(CNQ)という会社でした。CNQ社はカナダのエネルギー会社です。注目はオイルサンド(油砂)から油を抽出するHorizonというプロジェクトです。原油先物価格が低水準で推移していた時には、砂から油を抽出するというのは割に合わない技術でしたが、原油価格の50ドル超えが定着するようになって割に合うようになりました。CNQ社では2005年から本プロジェクトに着手、今年から本格的に生産が始まり、今後10年間で5倍の生産量を見込んでいます。

しかし人類の歴史上、このように大きな規模でオイルサンドのプロジェクトが実施されるのは初めてで、市場にはそもそも成功するかどうかという不安があったと思います。またこのプロジェクトにかかる費用は108億ドルと巨大で、しかもプロジェクトの遅れ等により予算以上にコストがかかる可能性も十分にありました。以上から生産量を画期的に増加させられる可能性があるにも拘わらず、市場はCNQ社の株式に十分な評価を与えていませんでした。我々が投資を実行した2006年12月時点で、CNQ社の株式はHorizonプロジェクトを全くと言ってよいほど反映しておらず、市場平均を大幅に下回る株価収益率 10倍前後での取引となっていました。

巨額の設備投資は減価償却費負担の増加を通じて当期の利益やキャッシュフローを圧迫します。しかしこれほど将来有望なプロジェクトに対する投資は明らかに「コスト」ではなく、生まれた利益の「再投資」です。会計上費用として計上されてしまっていて、市場が見逃しがちな宝物が隠されているとの判断に至りました。もちろんその後、原油価格が急上昇した事がCNQ社への投資にプラスの効果を与えた事は言うまでもありません。しかし金融危機が来ようと、株式相場が急落しようと、数年先を見据えた投資ができる「良いビジネスを安く買う」典型的な例の一つであったと言えます。

なお、我々が運用するファンドではCNQ社の約3分の1程の規模のオイルサンド・プロジェクトに着手しているものの、時価総額は数十分の1しかない他のエネルギー会社にも投資しています。CNQ社の株式は最近になって市場でもかなり評価されるようになった事から徐々にCNQ株を売却し、この割安な他のエネルギー会社の株式に資金をシフトする操作を実施しています。