執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 外務省は11日、北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返していること、米軍が朝鮮半島近海に空母を急派したことを受け、「韓国への滞在・渡航を予定している方、すでに滞在中の方は最新の情報に注意してください」とする海外安全情報(スポット情報)を発表。
  • 北朝鮮・シリアに絡む地政学リスクの高まりを背景に円高が継続。日本時間で12日午前6時現在、1ドル109.60円。円高を受け、11日のCME日経平均先物(6月限)は、18,640円(11日の日経平均終値比107円安)に下落。
  • 北朝鮮・シリア不安の他にも、中国の海洋進出・米中対立・米ロ対立・仏大統領選・森友学園問題など、世界中に政治不安は尽きない。ただ、世界および日本の景気・企業業績の回復色が強まっており、当面の日経平均の下値は限られると予想。

(1) 強材料と弱材料が拮抗:世界景気が回復色を強める中、世界に政治不安が広がる

日経平均は、2017年に入ってから、強材料(世界景気が回復)と、弱材料(世界に政治不安が拡大)の綱引きで、狭い範囲(18,900-19,600円)のボックス相場になっていました。ただ、4月に入ってから、政治不安の拡大を嫌気して、ボックスを下へ抜けました。

日経平均日足:2016年11月11日―2017年4月11日

(注:楽天証券マーケットスピードより作成)

日本株を動かしているのは、外国人です。外国人が売り越すと日経平均が下がり、外国人が買い越すと上がる傾向が20年以上、続いています。その外国人が、世界の政治不安の高まりを受けて、日本株を売り越したことが、日経平均がボックスを下抜ける要因となりました。

日経平均と外国人の売買動向(買越または売越額、株式現物と日経平均先物の合計):2016年1月4日―2017年4月11日

(出所:東証データより楽天証券経済研究所が作成)

(注:上のグラフの外国人売買で、棒グラフが上(プラス方向)に伸びているのは
買越、下(▲の方向)に伸びているのは売越を示す)

ただし、昨年1-3月のように、外国人の売りが長期化し、日経平均がここからさらに暴落するとは考えていません。昨年1-3月は、世界の政治不安が広がる中で、世界景気も悪化していました。政治と経済の両方に不安がある中で、「世界景気敏感株」であり「世界の政治不安敏感株」である日本株を、大量にしつこく売り続けました。

今は、世界の政治不安は拡大しているものの、世界景気は回復色を強めています。米国・中国・東南アジア・欧州が同時に回復しており、ここから、日本株がさらに大きく売り込まれるとは、考えていません。ただし、日本と地理的に近い北朝鮮の不安が続く間は、外国人の日本株売りは続く可能性があります。

(3)世界中で政治不安が拡大

世界の株式市場の上値を抑えているのは、トランプ期待がトランプ不安に変わりつつあることです。トランプ・イベントの市場評価は、以下の通りです。3月以降は、ネガティブなイベントが増えています。

トランプ・イベントの市場評価:2016年11月に大統領選に勝利してからの流れ

(出所:楽天証券経済研究所が作成)

政治不安は、米国だけではありません。3月以降、世界で同時に政治不安が広がっています。トランプ不安を含め、以下①―⑤が問題となっています。

  • トランプ期待がトランプ不安に転換
  • 東アジアの地政学リスク高まる(北朝鮮の暴走、米中関係悪化)
  • 中東の地政学リスク高まる(米シリア攻撃でシリア和平遠のく 米ロ関係悪化)
  • 欧州政治不安(4-5月仏大統領選で「反EU」「フランス第一」を掲げる国民戦線ルペン党首が当選に近づく懸念)
  • 日本の政治混迷(森友学園問題)

(4)日本の景気・企業業績に回復期待が強まる

日本の景気・企業業績の現状をよく表す、日銀短観の大企業DIを見ると、製造業・非製造業ともに景況が改善していることがわかります。

日銀短観 大企業製造業・非製造業DI:2012年3月―2017年3月

(出所:日本銀行)

日本の企業業績は、前期(2017年3月期)・今期(2018年3月期)とも好調が見込まれます。

東証一部上場 3月決算主要841社の連結純利益(前年比)

(出所:楽天証券経済研究所が作成)

目先、日経平均は北朝鮮問題を受けて下落が続きそうですが、下値は限られると予想しています。夏場にかけて、業績拡大を織り込んで、上値を試す局面があると予想しています。

(5)シリアへの米ミサイル攻撃、日本への影響

3つの影響が考えられます。

原油価格に低下圧力

中東の紛争は、かつては原油の買い材料でしたが、今は異なります。中東で紛争があってもそれで原油供給が途絶えることは、過去の事例ではほとんどありません。米ミサイル攻撃のニュースで原油先物は上昇しましたが、落ち着きを取り戻せば、原油は反落する可能性があります。

今、原油価格を支えているのは、OPECの減産合意です。サウジが減産を主導し、原油価格を下支えしています。ところが、シリアで、イランが支援するアサド派と、サウジが支援する反アサド派の戦闘が激化すれば、サウジとイランの関係が悪化し、再び、増産競争が起こる懸念があります。

米国がシリア・北朝鮮に積極関与する姿勢を示した影響、どう出るか?

シリアへのミサイル攻撃は、米国が、シリアだけでなく北朝鮮問題にも積極関与する意思を表明をしたものです。これで、中東・東アジアの地政学リスクが一段と高まりました。今後、米軍の関与で北朝鮮問題が鎮静化に向かうのか、現時点で、判断できません。

中東・東アジアの地政学リスクが拡大し続ければ「円高株安」、リスクが鎮静化すれば「円安株高」に進むことが、想定されます。

日ロ経済協力への期待の低下

米ロ関係が改善すれば、日ロ経済協力が進展する期待がありました。ところが、米シリア攻撃で米ロ関係が悪化し、北方領土問題も解決が遠のいたと考えられます。これで、日ロ経済協力の進展も見込みにくくなりました。